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本日分です。どうぞ~

「それではこちらの記入をお願いしますね」



 受付嬢はお金を受け取ると羊皮紙のようなものと羽ペンを彰に渡した。


 彰は渡されたものに一度目を通してみたのだが、そこで問題が発生した。紙に書いてある文字が読めないのだ。


 彰はタール村では特に文字に触れる機会はなかった。普通に会話ができていたので文字が違うことに気づけなかったのだ。


 しかし、少し考えてみれば異世界なのに日本語が使われるわけがないことなどすぐにわかると思うのだが、そのあたりは彰が彰たる所以であろう。



「もしかして文字がわからないんですか?」

「……そうみたいです」

「銅貨1枚で代筆を承ってますよ?」



(ここでも金とるのかよ…)



「お願いします…」



 彰は渋々袋から銅貨を1枚取り出して渡した。



「はい、確かに。じゃあまず名前をお願いしますね」

「鬼道 彰です」

「キドウ アキラさんですね……はい、次に年齢をお願いします」



 彰は年齢と聞かれて一瞬、数え方って地球と同じでいいのだろうかと思うがとりあえずそのまま答えてみることにする。



「16歳です」



(この人やっぱ結構若いんだなぁ~、いろいろ苦労してるのかな?)



 と、勝手に思いながらスラスラと記入する受付嬢。



「……はーい、大丈夫です。次に職業です。主なものは、

 戦士、魔法使い、付与魔術師エンチャンター治癒術師ヒーラー拳闘士グラップラーなんかですね。何か他にあればどうぞ。

 ですが、これはパーティーを作る際にお互いがどのような役割ができるのかというのをわかりやすくするための物なので一番自分の出来ること、またはやりたいことに近いものを選んで―――――」



 と詳しい説明をしてくれている受付嬢だが、残念なことに、当の彰はこの説明を途中からほとんど聞いていなかった。というのも……



(え、エンチャンターだとッ!?

 なんだそのまさに俺のためにあるかのような職業はっ!

 これは天職だ、天職だぜぇぇぇぇぇえ!!!)



 と、一人で自分の世界にトリップしていたからだ。


 その姿はまるでかっこいい名前を聞いてはしゃぐ中二病の少年のようである。




「それで、どうしま―――」

「エンチャンターでッ!!」

「へっ?あ、ああ、そうですか、エンチャンターですね?わかりました」



 受付嬢は紙に彰の見たことのない文字をスラスラと記入する。



「それではちょっと待っててくださいね」



 彰にそう告げると受付嬢は後ろに引っ込む。


 彰がその場で少しそのまま待っていると、すぐに戻って来た。



「お待たせいたしました、えー本来ならこの書類に目を通してもらうんですけどアキラさんは文字が読めないということなので今回は私が口頭で説明させてもらいますね?」



 そう言って説明を開始するお姉さん。


 しかし、彰は内容が『依頼中の怪我などについてはギルドは一切責任を持たない』とか『また、メンバー同士のいさかいによる被害にギルドは一切責任を持たない』などとなんとなくありがちなものだったので正直殆んど聞き流していた。


 なんとも失礼な奴である。



「えー以上のことに納得していただけるのなら、このカードに血を一滴垂らして下さい」



 そう言って彰に小さいナイフを渡すお姉さん。


 彰は言われるまま人指し指のあたりを少し切って血を垂らした。垂らした血はカードに吸い込まれるかのように消えていった。

 するとカードが少し輝いたが、すぐに収まった。



「はい、完了です。これでこのカードとあなたはリンクしました。

 どうぞ、確認してみて下さい…ってそうでした、アキラさんは文字読めないんでしたね。では一つずつ説明します」




 受付のお姉さんはカウンターにカードを彰に見えるように置いた。覗き込む彰。


 カードにはこんなふうに書いてあった。(この場では日本語に翻訳)




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【名前】 キドウ・アキラ(16) 【ランク】《F》



【職業】 付与魔術師エンチャンター



【魔力】 100/100       【依頼達成数】《0》



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 彰はそのほとんどが読めなかったが16、100/100、0という数字と《F》という文字は読むことができた。


 何故か数字と英語は地球と同じもののようだ。



「まず、この一番上にあるのがあなたの名前です。これはいいですね。

 それからその隣にあるかっこの中にある数字はあなたの年齢です。

 この項目だけはカードを手にもって隠れるよう念じると隠すことができます。ちょっとやってみて下さい」



 彰が一度カードを手に取り、隠れるよう念じてみると本当に年齢の部分は見えなくなった。



「簡単でしょ?表示したいときも同じように念じてくれれば大丈夫です。

 で、名前の下にあるのが職業これは先程説明した通りです。

 それで、その下が魔力量ですね」

「魔力量?」



 聞き覚えのない単語に思わず聞き返してしまう彰。受付嬢は彰のその発言にあれっ?という顔をした。



「アキラさん知らないんですか?魔力量。

 魔法を使う人なら何かしらの方法で自分の魔力量とかを把握しているものなのですが…」




(ヤバい、そうなのか!?なんか適当に言い訳しないと…)



 と、それを聞いて焦る彰。彰の使っているのは魔法ではなく、付与術なのだ。そんな物知っているはずがない。


 適当にそれっぽい言い訳を考える彰。



「えーと、あぁーうん、そうだったそうだった。すいません、ど忘れしてましたよ。ハハハハハ!!」



 何とも苦しい言い訳である。安定のバカさ加減だった。


 受付のお姉さんはまぁそんなこともあるのかな?という感じで話を進めてくれた。



「…そうですか、まぁ一応説明しておきますね。これはあなたの持つ魔力の量です。

 左側の数字があなたの最大魔力量、右側があなたの魔力の残量ですね。

 このカードはあなたとリンクしていますのであなたの魔力が減るとこの残量の数字が減ります。

 これにより、戦闘中も残量魔力を確認しながら戦うことができます」

「なるほど、便利なんですね」



 受付嬢の説明に感心する彰。



「それにしてもアキラさん、エンチャンターにしては魔力量少ないですね」



(付与術に魔力なんか必要ないからな…とりあえず適当に合わせとくか…)



「そ、そうですか?ハハハ」

「そうですよ。だって魔法使いで魔力がどんなに少ない方でも1000はあります。

 それがエンチャンターとなったらそれこそ少なくても5000はあるものですよ?

 でもアキラさんは100しかない、これだとエンチャンターとしてやっていくには結構辛いんじゃないですか?」

「そ、そうですね。ま、まぁ割と何とかなるものですよ。ハハハ」



(ヤバいヤバいヤバいヤバい、これ以上突っ込まれるとボロが出ちまう、頼む!引き下がってくれ!)



 と、受付嬢答えながら心の中で願う彰。ボロなどすでに出ているのだが本人は出ていないと思っているらしい。



「…まぁそれならいいです。それじゃあ説明を続けますよ」



 すると彰の願いが届いたのか受付のお姉さんは納得の出来ない顔をしながらも話を進めてくれた。



「右下にあるのが依頼達成数です。これはアキラさんが依頼を達成すると数が増えていきます。

 そして最後にカードの右上に書かれているのが冒険者ランクです。

 これは実力に合った依頼を受けられるようにするための制度で、下からF、E、D、C、B、A、Sの7段階に分かれていて、最初は必ずFから始まります。なのでアキラさんも最初はこのFランクです。

 ランクは自分のランクの依頼をいくつか達成すると受けられようになる昇格試験を受け、合格することで上げることができます。ここまでで何か質問はありますか?」

「依頼を受けたいときや達成した時はここに来ればいいんですか?」

「そうですね。こちらに来ていただければ大丈夫ですよ」

「わかりました。それ以外は特にありません」

「それでは登録は以上です。カードを無くすと再発行に銀貨1枚を新たにいただきますので注意して下さいね」



 ここで彰はここに来るまでの道中で狩ったモンスターの討伐証明部位を持っていることを思い出した。



「わかりました。それで実はここに来るまでに遭遇したモンスターの討伐証明部位を持っているので換金したいんですけどそれもここで大丈夫ですか?」

「えっ?ああ、はい、大丈夫ですよ。持っているものをここに出してください」



(この人エンチャンターなのにどうやって倒したのかしら?それもあんな魔力で…)



 そう思って怪訝な顔を浮かべながらも対応する受付嬢。



「それじゃあ、お願いします」



 そう言って彰は肩から下げていたタール村で貰った鞄をカウンターの上に置いた。


 鞄にはかなりの量が入っていたためカウンターに乗せるとドスンッという音と共に木製のカウンターが少し軋んだ。


 その量に驚く受付嬢。彼女はせいぜい1体や2体だろうと思っていたのだ。 



「……え?これ、全部ですか?」

「?はい、そうですよ?」

「少々お待ちください…」



 袋鞄を開け、一つ一つ中身を確認していく受付嬢。


 そして1つ確認するごとにその表情はだんだんと驚きに染まっていく。



(なにこれッ!?こっちはビックボアの牙、こっちはシャドウウルフの毛皮、これはブラッドコングの毛皮!?

 しかもどれも一つじゃない……こんなのが出てくる道って…もしかして東の森を通ってきたの!?

 今あそこは強力な魔物が大量に出るから近寄れないはず、でもそれしか説明が…

 というか、そもそもこんなのどうやって倒したのよ…)



「あなたこれをどうやって倒したの?」

「え、そりゃ全部ぶん殴って…」

「ぶん殴ってッ!?冗談でしょ?拳だけで倒せるモンスターにも限度ってもんがあるでしょ!?」

「う~ん、そんなこと言われても…それよりいくらくらいになるんですか?それで」

「それよりって!……もういいわ、今計算してくるから待ってて」



 また奥に引っ込んでいく受付嬢。少しするとハンドボール位の袋を持って戻って来た。



「はい、全部で金貨20枚です。どうぞ」

「えっ金貨20枚!?そんなに!?」



 予想外の報酬に驚く彰。これだけでもうさっきもらったお金を超えてしまった。



「そりゃそうよ、一体一体が金貨1,2枚の価値があるものばっかなんだから。

 ほんとどうやったら魔力100のエンチャンターにこんなことができるのかしら?」

「ハハハ、それは企業秘密ということで…」

「まぁ、いいですけどね、それではこれから頑張ってください、アキラさんのこれからの頑張りに期待しています」



 それで彰もギルドを出ようとドアの方を向くが、思い出したように立ち止まるとカウンターに戻った。



「あっすいません、最後に一ついいですか?」

「何でしょうか?」

「この辺でお勧めの宿屋ってどこです?」

「宿屋ですか?それでしたらここから出て左にまっすぐ行ったところにあるところがおすすめです」




 彰は受付嬢にお礼を言うと今度こそ冒険者ギルドを後にした。


 彰がギルドを出るとすでに外は暗くなり始めていた。そのまま教えてもらった宿屋へと直行する彰。


 さすがに今回はまっすぐ行くだけだったので道を間違わずにつくことができた。


 早くゆっくりしたかった彰は早速中に入った。



「いらっしゃい。部屋は空いてるよ。一泊食事つきで銀貨1枚だけどどうする?」



 中に入ると40歳位の女将さんが出迎えてくれた。


 彰は当分は王都を拠点にして活動するつもりだったのでとりあえず金貨1枚で十泊分くらい払っておくことにする。



「それじゃあとりあえずこれで十泊分お願いします」

「部屋はシングルで大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です」

「食事はできた時に部屋に呼びに行くよ。その時に居なかったら自己責任だよ。

 もしいらない時は前もって言ってくれ、ろうそくは銅貨1枚だよ。

 部屋は二階の突当りにある部屋を使ってくれ」

「わかりましたありがとうございます」



 彰は階段を上って言われた部屋に向かった。そのまま木製のドアを開け、中に入る。


 中はさすが冒険者ギルドのお姉さんのおすすめだけあってそれなりに綺麗だった。


 ここまでの旅やジャックとの試合で疲れていた彰は部屋にあった布を濡らして体を拭くとすぐに寝てしまった。



彰君の自覚の無さは天然ものです。

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