表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
挿絵、番外編など
2/93

【バレンタインデー特別篇】

ついにこの日がやってきてしまった……。


否モテ男性にとっての暗黒の日、そうバレンタインデーである。


そもそも、バレンタインデーというのはバレンタインさんが処刑された日であり、元々がそんな惨劇の日である以上、バレンタインデーが幸せである道理はなく、この日は所詮企業がチョコレートの売り上げを上げるためにこじつけたものでしかない虚構の日なのだ。



……だが、しかし、一応めでたいことはめでたい、という事で、作者はせめてもの思いとして特別篇を送らせていただきます。


最新話だと思った方、ごめんなさい。許して下さい<(_ _)>


なお、この話は番外編なのでいろいろ吹っ飛んでたり、変な所もあると思いますのでお気を付け下さい。


この特別編が恵まれない方々への心のオアシスとなることを祈っております<(_ _)>


では、どうぞ!!



「……アキラ、これ、食べて」

「ボクのも食べてくれるよね?」



 ある日の昼下がり、彰は何故か絶体絶命の危機にさらされていた。なるほど、ここのセリフだけを見れば、仲睦まじい光景なのかもしれない。しかし、その手に持っているものが片やどろっとした形容しがたい何かで、片や石炭のような謎の塊であるとすれば、話は大きく変わって来る。


 あれを食べれば無事では済まない。それをおぞましい見た目と何とも言えない悪臭から彰は悟っていたのだ。


 であれば、現在の問題はいかにこの悲劇を回避するのかというところにある。



「いや、お前ら一旦落ち着け、ひとまずはお前らが作ったって言うその自称お菓子とやらをよ~く見直してみてだな……」

「……食べる、よね?」

「食べないわけがないよね?」



 ……どうやら回避することはもはや不可能らしい。二人が腹に一物抱えていそうな笑顔で圧力をかけてきている以上。無理に回避しようとすれば逆に危険なことになる可能性すらある。


―――となれば、彰に残された選択肢は一つのみ。



「―――ゴメン、俺ちょっと用を足しに行ってくるッ!!」

「……リン!」

「うん、ノエルちゃん!! 逃がさないよ!!」



 そう、逃げ……ではなく、戦略的撤退である。

 

 何せこちらには生き死にがかかっているのだ。逃げなければあの瘴気の液体と暗黒物質(ダークマター)を体内に強制流入させられることになるとあれば、これは彰としてはある種の正当防衛とみなされてもおかしくは無いものなのであり、つまり彼が何を言いたいかと言えば、『逃げた俺って悪くないよね!?当然の反応だよね!?』ということだった。


 そもそも、どうしてこんなことになったのかと言えば、話は数時間前に遡る……。



◆◆◆◆◆◆


 それは、彰が日本の話を二人にしていた時の事だった。



「「ばれんたいんでー?」」

「ああ、そうだ。女の子が好きな奴とか、仲のいい奴にチョコってお菓子を送るんだ。元々は男に上げるもんだったんだが、なんかもういつの間にか友チョコやら義理チョコやらが出てきて、女同士での交換もしてたから近年はわけわからなくなってたけどな」

「へぇ~アキラの居たとこにはそんな風習があったんだね~(好きな人にか……)」

「……アキラ、ちょこってどんなお菓子なの?」

「ん? チョコか? そうだな……甘くて、ちょっとほろ苦くて、あっためるとドロドロに溶けるお菓子かな? そのおかげでいろいろな形にすることができたり、他のお菓子と組み合わせたりできるっていう優れものなんだ」

「甘くて、苦くて、ドロドロしてるんだ。なんか凄いお菓子だね?」

「おいリン、お前変なとこだけ抜き出すなっ それじゃあお菓子ってより得体のしれない何かじゃないか!」

「……苦くて、ドロドロ……うん、なるほど。大体わかった。まかせて……絶対にやって見せる」

「いや、ノエル。何故よりによってその2ワードなんだよ。お前は一体何をわかって何を任せてもらおうとしてやがる!?」

「……うん、ちょっと行って来る。まってて、ね」



 そう言ってノエルは凄まじい速度でどこかへ向かってしまった。


 まずい、嫌な予感しかしない。いったい彼女は何をする気なのだろう。これは逃げる準備をしておいたほうが良いのかもしれない。


 彰はそんなことを考えながらリンの方を向くがしかし、さっきまでリンがいた場所には既に誰もいなかった。



「……あれ、リン? あいつこの一瞬で一体どこに……ってまさか!?」

「―――まってぇーノエルちゃん!! ボクもそれ作るから一緒に行くよぉ~~!!」



 ―――――そのまさかだった。


 リンは彰がノエルに気をとられたその直後に既に駆けだしていたのだ。


 おかげで思わず彰も反応するのが遅れてしまった。二人が何をする気かは知らないが、とにかく嫌な予感しかしない。


 もし二人がチョコを作る気なのだとすれば、一体どんな代物を作るかわかったもんじゃない。そもそも、あいつらがまともな料理をしているところを彰は見たことが無いのだ。何があってもいつでも逃げれるように心構えだけはしておいたほうが良いに違いなかった。


 そうして、彰が部屋で待つこと数時間。二人してよくわからない材料を大量に揃えて来た二人は宿の厨房にこもり、しばらくしてあの殺人兵器を彰へと差し出してきたというわけだ。


 彰は今も二人の追撃から何としても逃れるため、駆けていた。



「特性付与―――“高速化”ッ!!」

「……アキラ、ずるい!」

「そうだそうだアキラぁ~卑怯だぞ!」

「そっちだって既に魔法使ったり、異常な身体能力持ってるくせに何言ってやがる!! 卑怯なわけあるか!!」



 彰は自身に付与を賭け、速度を上昇させて、逃走を図る。付与術まで使うなんて大人げないという声もあるかもしれないが、そんなことは無い。生き死にがかかっているのだ。手を抜けるわけがないだろう。そもそもそれはお互い様なのでそれを気にする理由は無いのだ。あっちも魔法やらなんやらある以上、彰だけ使ってはいけないなどと言われる筋合いはないのである。


 逃げる彰に追いかける二人。既に三人の追いかけっこの舞台は室内から室外へと移動している。彰は付与術で、ノエルは持ち前の身体能力で、リンは魔法で、三人はそれぞれの手段で自身の速度を強化して鬼ごっこに興じていた。



「―――食べたら死ぬ食べたら死ぬ食べたら死ぬ食べたら死ぬ食べたら死ぬ死にたくないっ!!」

「……逃がさない、なんとしても食べてもらう」

「だめだよ! 食べてくれないと困るよ! まってよ~!!」



 この生死(彰の)をかけた鬼ごっこは夜遅くなるまで続いた……。



◆◆◆◆◆◆



「……おまえら、本当にあれを俺にくわせる気なのか?」

「……食べてもらわなきゃ……困る」

「そうだよ! 絶対に食べてもらうんだからね!」



 結局、彰は捕まっていた。いや、これは観念したと言った方がいいだろうか?

 

 ほぼ半日走り続けた彰は、いい加減面倒くさくなってしまったのだ。それに、二人はいつになっても諦めそうになかったので、どうしようもなかったというのもある。


 とにかく、諦めて宿に帰ってきた彰は二人に見事捕獲され―――何故か体を拘束されたのであった。



「でさ……何で俺拘束されてるんだ?」

「……だって、アキラ、逃げるか、ら……」

「いや、誰だってあれ見たら逃げ……」

「ほら、アキラ! あーんして、あーん!!」

「まて、リン、お前は人の話を……待て…待ってくれ、やっぱり俺は―――ムグッ」



 漂う謎の刺激臭を前に、思わず彰の決心が揺らぐが……時すでに遅し。


 暗黒物質(ダークマター)は無理やり彰の口の中にねじ込まれた。


 直後、彰の口からガリ、ボリ、ジャリッ!! というおよそ食い物からは考えられないような音が響く。



「ム、ムゴ、ムグ、ブフォンンンンン!!!」



 凄まじい、凄まじすぎる。これはただ料理が下手なだけではない。最早一種の才能とすら言えるかもしれない。これは正に殺人料理、リンには魔法以外にもこんな武器があったのか……。


 およそ意味の分からない思考が彰の頭を埋め尽くす。しかし、悪夢は続く。



「……リン、ずるい。アキラ、私のも食べて……ッ!!」

「ムゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー!!?!!?」



 ノエルが自分のものもと、最早固形物ですらなくなっている何かを無理やり力強く流し込む。


 それは正に死のアンサンブル。壊滅的な味と壊滅的な味が絶望的に混ざり合った結果、奇跡を起こし、魔物が生まれたのだ。


 そうこれこそが死。ああ、死に包まれていく、世界に死が満ちている……。


 そんな感覚を最後に、彰の意識は途切れた。



「よし、こ…でだい……ぶだね……ア…ラ、大…き…だよ!」

「……ア…ラはず…と私の御…様、絶対離…い、大…き……」

 


 意識が途切れる間際、二人が何か言っていた気もするが、彰にはほとんど聞き取れなかった。





 これは彰達がウォードラスで平和に過ごしていた日々のほんの一部のできごとである。




【バレンタインデー特別篇・完】





以下いただきものです!!



挿絵(By みてみん)



リンです!!バレンタインデーとあって髪型もちょっと特別でいいですね!!


挿絵(By みてみん)


ノエルです!!彼女はにこやかに作ってますね!!おいしそうです!!もっとも、彼女の料理はこの後ドロドロの何かに変貌するわけですが……。


 

後日この話は番外編ゾーンに移動しますのでよろしくお願いします<(_ _)>


……果たしてあのパロネタに気づく人はいるのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ