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VSジャック

「―――――ここだ」



 彰がジャックについてきてくれと言われ、つれていかれた場所には広い闘技場のような空間が広がっていた。


 そしてそこではジャックと同じような格好をした者達が訓練している。



「ここは?」

「ここは騎士団の訓練場だよ。ここなら遠慮なく戦えるはずだ」



 ジャックはそう答えると大声でそこで修行していた騎士達に呼びかけた。



「みんな!聞いてくれ、急なことだがこれから私とここにいるアキラ君とで模擬戦をすることになった。

 すまないが少しここを空けてくれないか?」



 その呼びかけに騎士達は彰を見て『何故隊長とこの男が?』というかのような顔を向けながらも、しぶしぶといった感じでその場を空ける。


 まぁもっとも、そのまま完全に立ち去るのではなく、観覧席に向かい、そこからさっきの受付辺りでの会話を聞いていて見に来ていた人達と一緒に彰達へ熱い視線を向けているのだが…


 そして当然エレナとロイも観覧席から二人を見ていた。



「大丈夫でしょうか?アキラ君……」

「ケッ!いいんだよ!あんなほら吹きガキ!

 騎士団相手におふざけが過ぎるんだ、一回痛い目見ないとわからねぇーんだよ、あぁ言うやつは!!」

「ロイさん、いくらなんでもそんな言い方……」

「じゃあなんだよ、お前はあのガキが俺たちや隊長よりも強ぇって言うのかよ?」

「そういうわけじゃ……」

「でもそういうことだろ?あいつの言ってることが本当だとすれば俺達が部隊を組んでしっかりと準備してから挑もうとしていた敵をあいつは一人で壊滅させったって言ってるんだぜ?

 生意気にも程がある!!あんな奴は隊長にぼこぼこにされればいいんだよ!」

「………………」



 ロイのその言葉に言い返せなくなってしまうエレナ。



(でもさっきのあの子の言葉が嘘とも思えないのよね。もしかすると本当に……)



 エレナは内心そんなことを思いながら真剣な視線で二人を見つめていた。



 だが、当の彰達はそんな視線を気にもせずに訓練場の中心へと向かい、お互いに向き合う。



「アキラ君、武器は持ってないのかね?」

「あー、そうですね、持ってないです」



 彰のその答えを聞いたジャックは今日は武器を持ってきていないのだと解釈する。



「すまない、誰か剣を貸してくれないか?」



 ジャックがそう呼びかけると皆が自分の武器を誰とも知らないものに触られたくないのか貸そうとしない。



「誰があんな奴に剣を貸すんだよ!あいつなんか素手で充分だろ、剣を忘れるのが悪ぃんだよ!ハッハッハ」



 と笑いながら彰を嘲笑の視線で見つめるロイ。


 どうでもいいがこの男、最早騎士失格なのではないだろうか?


 しかしそんな中、エレナが一人名乗り出た。



「私ので良ければ……」

「おいッ!エレナ!」

「だって、流石に武器なしじゃ勝負になってないし、条件は平等じゃないと……」



 そう言いながら観覧席の一番前から手を伸ばして自分の剣を渡そうとする。



(う~ん、別に素手でやろうと思ってたんだが、せっかくの好意を無碍にすんのも悪いしな……)



 彰はそう思い、エレナにお礼を告げて剣を受け取る。受け取った剣は彰には少し軽かったがいい剣だった。


 そして彰は少し感触を確かめた後、剣を構えてジャックに告げる。



「さぁ、やるなら早くやりましょう」



 剣を構えながら鋭い視線をジャックに向ける彰。


 彰のその構えを見てジャックはその隙の無さに少し驚いた。隙が無いのだ。その威圧感はすでにただの少年に出せるものではい。


 ジャックは少し気圧されたものの、それに対抗するかのように自分も堂々と構えをとった。



「そうだね、始めようか。すまないがエレナ、そこからでいいから開始の宣言をしてくれないか?」

「あ、はい、わかりました」



 ジャックはさっきの剣を貸してくれた女性の騎士、エレナの方に首だけ向けてそう告げた。その顔には少し笑みが浮かんでいる。


 そしてそのまま無言で向き合う二人。


 静寂が訓練場を包んだ、あのロイもさすがに試合前の礼儀はわきまえているのか黙っている。


 静まりかえる訓練場、そして―――



「それでは両者構えて―――――始め!!」



 そのエレナの声が訓練場に響いた瞬間、両者の内でまず最初に動いたのは彰だった。しかし動いたとは言ってもそのまま斬りかかったのではない。


 では何をしたのか?彰は何故かせっかくの隙の無い構えを突然解いたのだ。


 始まると同時に構えを解いた彰に戸惑う一同、それはジャックも例外ではない。


『やはり、ハーメルンを一人で壊滅させたというのは嘘だったのか?』そんな思いがジャックの頭をよぎる。



―――――否、よぎってしまった。 



 その次の瞬間、ジャックめがけて物凄い速さで剣が飛んできた。彰が剣をジャックに向かって矢のように投擲したのだ。


 しかし、ジャックもだてに王都騎士団の隊長を務めてはいない。突然のことに驚きながらも咄嗟に身を捻って紙一重でそれ躱し、彰の次の動きを確認するために彰の方を向いた。


 だが、ジャックが向いた先に彰はいなかった。



(消えた?……ッ!?)



―――――直後、ジャックはただ直感で自分の背後に剣を振った。



 なぜ振ったかはわからない、ただジャックの今までの経験が直感となって反射的にジャックを動かしたのだ。



―――ガキンッ!!



 次の瞬間、訓練場に響く金属音、そこには投げたはずの剣を両手で握ってジャックに斬りかかっている彰の姿があった。



(おっ反応したか、この人なかなかやるな)



『は?』



 と驚くロイも含めた一同、それもそのはず彰の動きは上から見ていた自分達にも消えたかのように見えたのだから。



 では一体彰は何をしたのかというと開始の宣言がなされた瞬間、構えを解き、不意を打つように剣を投擲すると自分に”高速化”を掛けてジャックの背後に回り込み、剣を避けて体勢が崩れたところで自分が投擲し、ジャックが避けた剣をその手中に入れるとそのままその剣で斬りかかったのだ。



 果たしてこの動きが見えた者がこの訓練場にいるだろうか?いや、恐らくいないだろう。


 何しろ今、その場で戦っているジャック本人もその斬撃を止めはしたもののその動きは見えなかったのだから。


 しかし、彰はそんな人外の動きをしているにも関わらずそこで止まらなかった。


 彰はそこからさらに一歩踏み込むと引いた剣で今度はジャックを逆袈裟に斬りつける。


 ジャックはそれを自分の培った経験などからくる直感や技術などをフル活用してその逆袈裟を何とか受けた。


 だがそれでも彰は止まらない、彰はそのまま追い打ちをかけるように息もつかせず上下左右あらゆる方向からジャックに斬撃を繰り出し続ける。


 それを何とか受け続けるも防戦一方になってしまうジャック。


 この時点でやっとこの試合を観戦していた者たちは彰に対する認識を改め始めた。


 そんな一同の思いをよそに訓練場に激しい剣戟の音が響く。



(クッ!何なんだこのスピードは!この私が速すぎて動きが追いつかないだと!?

 だが、いくらアキラ君の実力を確認するための試合とはいえ、王都騎士団隊長としてこのまま負けるわけにはいかないッ!!)



 ジャックはそう決意を固めると斬撃を受けながらも魔法を使用する。



「我、求むるは強靭なる肉体―――身体強化フィジカルストレングス!!」

「―――――ッ!?」



 ジャックが身体強化の魔法を発動したことによって強くなった力に切りかかった剣を押し返され体制を崩す彰。


 まさかジャックが魔法を使えるとは思っていなかった彰は驚き、一瞬だけ隙を作ってしまう。


 その隙を逃さずにジャックは一歩踏み込むと彰を袈裟懸けに斬りつける。


 それを彰は思い切り後ろに飛んでギリギリのタイミングでそれを避け、仕切りなおすかのようにジャックから距離をとった。



「あ、あり得ない…隊長が押されてるだなんて…そんなことあるはずがない!そうだ!隊長は手加減をしているんだ!そうに違いない!」



 と、自分の見た光景を必死に否定しようとするロイ。


 自分が尊敬する最強のはずの隊長が押されているのだ。


 そしてその状況を創り出しているのは先程まで自分がガキと見下していた男なのだ。


 否定したくなるのも当然だろう。


 しかし、そんな現実逃避は隣に座るエレナにあっさりと打ち破られる。



「ロ、ロイさん、それはあり得ないです……さっきの一撃、隊長は魔法を使っていました。

 魔法は隊長の奥の手……つまりそれほど追い詰められていたということです。

 そしてそこまで隊長を追い詰めたのは間違いなくあそこにいるアキラ君ですよ」



 そうロイの現実逃避をバッサリと切って捨てたエレナも自分の見た者がいまだに信じ切れなかった。



(まさかとは思っていたけど……こんなに強いなんて…アキラ君、あなたは一体何者なの?)



 そんな二人の思いをよそに戦いは続く。



「ハハハ、驚いたよアキラ君。まさか私に魔法を使わせるとはね」



 そう彰に告げるジャックの顔には笑みが浮かんでいる。


 それはまるで久々に現れた強敵との戦いを楽しんでいる顔だ。



「俺も驚きましたよ。本当は初撃で仕留められると思ってたのにまさか反応されるなんて」



 そう答えた彰の顔にもジャックと同じく笑みが浮かんでいる。



(そうだ、こうでなくちゃタール村を出てきた甲斐がない!これなら俺ももう少し本気を出せる)



「さて、それじゃあ第二ラウンドと行こうかアキラ君」



 そう言って間合いを詰めようとするジャック。


 しかし、彰は何故かジャックに静止の声をかける。



「すいません、ちょっと待ってください、一つ聞き忘れたことがあります」



 その言葉に怪訝な顔をしながらも立ち止まったジャックは彰に先を促す。



「何かな?」

「もしこの決闘で剣が壊れたら弁償とかありますかね?」

「何だそんなことかい、確かに良くはないがこちらから申し込んでいることだ。

 もしもの時は経費から新しいものを買うから心配しなくていいよ」

「そうですか、それは良かったです」



(まさかこの状況で借りた剣の心配をするとは面白い子だ)



 彰の質問の内容からそう判断するジャック。


 しかし、ジャックははき違えていた。彰の質問の本当の意味を…。


 だがジャックはそのことに気づくことはできなかった。



(よし、言質はとった。これで遠慮しなくて済むな…それとあれも試してみよう)



 彰が心配していたのは借りた剣ではなく―――



「それじゃあ俺もここからは本気で行きますよ」

「アキラ君何を言って…」



―――――ジャックの剣の方だということを。



(さて、実戦で使うのは初めてだが、行くか―――――瞬間雷化)



 そして次の瞬間、すでに彰はジャックの目の前で斬撃の態勢に入っていた。


 彰は一瞬の間にジャックの目の前に移動していたのだ。


 これこそが彰が試そうとしていた新技”瞬間雷化”である。


 彰は王都までの道中に燃費の悪い”雷化”をもっと効率的に使える方法を試行錯誤していた。


 その結果、一瞬だけならかなり消費する体力を抑えられることが分かったのだ。


 たかが一瞬で何ができるのかと思うかもしれない。だが、”雷化”した彰は稲妻と同じ速度で動ける。


 一瞬さえあればジャックとの間の距離を移動する程度は造作もない。


 よってジャックとの距離を詰めるのには”一瞬もあれば十分”なのだ。


 

「――――――なッ!?」



 ジャックは突如目の前に出現した彰に戸惑いながらも魔法のおかげでかろうじで反応する。



(クソッ!ギリギリ間に合うか!?)



 そう思いながらも自身の剣を振るうジャック。


 そしてそのタイミングは紙一重の差で袈裟懸けに斬り下ろしてくる彰の剣に対応することができていた。


 そう、”タイミングは”あっていた。



(属性付与―――――”炎”)



 そしてぶつかり合う両者の剣、しかし、それらが均衡したのは一瞬のみ。


 直後、彰の剣はジャックの振るう剣を切り裂いた、否、”焼き切った”。 


 気がつくとジャックの首筋には彰の剣が添えられていた。



―――――その彰の剣は刀身に炎を纏っていた。



 この瞬間この戦いの勝者が決定したのだった。



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