苦戦
「おらおらぁッ!! 最初の威勢はどうしたんだぁ? クソガキがぁッ!!」
「―――チッ」
盗賊の頭は挑発するように声を上げる。
彰は突破口の見えない現状に歯噛みし、舌打ち鳴らしながらも次々と襲い掛かる攻撃を回避していく。
一撃も化することなく、完璧に回避して見せる彰。
だが、現状は間違いなく防戦一方。
苦戦を強いられていることに違いはない。
しかし、付与術という力を持ち、自信たっぷりに盗賊達に向かって行った彰が何故苦戦しているのか。
それにはいくつか理由があった。
まず一つ目に場所が洞窟の中ということである。
彰の戦法はざっくり言ってしまえば高速化を利用したヒットアンドアウェイだ。
≪高速化≫で近づき、近距離で≪怪力化≫や属性付与≪炎≫などで敵にダメージを与え、また≪高速化≫で距離を取り、敵を撹乱する。
確かにこれは多人数を相手にするには有効な戦法だ。
しかしここは洞窟の中である。いくら人が百人近く入れるほど広いとはいえ、ここではスピードによる撹乱という作戦を十分に生かすには狭すぎる。
これによりなかなか敵の攻撃を振り切れず、攻撃に移れないでいた。
次に、盗賊達の連携が予想以上にとれていたことだ。
盗賊団は頭と呼ばれる男を中心にして上手く攻守のバランスを取り、戦闘の瓦解を防いでいる。
これは盗賊というものがただの荒くれ物の集まりだと踏んでいた彰の認識ミスであった。
そして最後に魔法の存在である。
彰はクリスの発言からこの世界には魔法があるのではないかと予想はしていたがその目で実際に見たことはまだなかった。
その魔法を使えるものが盗賊団の中には複数名いたのだ。
さらに盗賊達は上手く誰が魔法を使っているのかを悟らせないようにしてくるのである。
これではいくら彰でも対処は難しい。
しかしそれでも彰は果敢に攻めていく。
まず彰は目前の男が彰を袈裟懸けに切ろうと振り被ってきた剣を最小限の動きで避けると自身に≪炎≫の属性を付与、男の腹をぶん殴る。
そして素早く付与を≪高速化≫に切り替えると炎の熱さに暴れる男をうまく盾に使い距離をとろうとする。
「させるか!我、求むるは灼熱の炎―――≪火球≫」
しかし彰の動きを先回りしたかのように盗賊団の魔法使いがバックステップをとった先にバスケットボールくらいの炎の球を放ってくる。
「……ッ!?」
炎の球に驚く彰。
だがそれで動きを止めるような男ではない。
彰はそれを上半身を強引にを捻って回避する。
と同時に炎の球が飛んできた方向から魔法使いを探ろうとするが、盗賊達は巧みに動き回ることにより誰が魔法使いか特定させないようにしてくる。
それに歯噛みしながらも冷静に距離を取り、体勢を立て直す。
そして盗賊達を撹乱しながら彰はこの状況の打開策を考える。
(クソッ…想定が甘かった!どうやら俺はここが異世界だということを甘く見ていたらしい。
だが、そんなことを悔やんでも状況は変わんねぇ、何か逆転の一手を考えなきゃこのままだとジリ貧だ……)
必死に活路を探す彰だがそう簡単に見つかれば苦労はしない。
そして彰がそうして考えてくる間にも彰を狙って炎の球や雷撃の魔法が飛んでくる。
それを必死に避ける彰だが反撃の一手がないので攻勢に出ることができない。
絶体絶命の彰だが諦めずに打開策を考え続ける。
(何か……何かあるはずだ……逆転の一手が……あっ…俺自身の体を付与術で変化させれば……これならいけるか?)
そして彰は思考の末に遂に逆転への糸口を見つける。だが…
(俺自身の体そのものの変化……そんなこと本当にできるのか?
いや、できたとしても今の俺の体力はもつのか?)
そう、物質を変化させるほどのことだ、自分の体力がどのくらい持っていかれるかわからないのだ。
まして変化させるのは自分の体…失敗すればただでは済まない。
そしてたとえ成功したとしても恐らく相当の疲労が来る、ただでも彰はここまで付与術を乱発しているのだ。
恐らく長くはもたないだろう。
それに想像してほしい、自分の体が今までと違うものに変わっていくのだ。
そんなものが怖くないはずはない。
しかし、彰にはそれしか逆転の一手はなかった。
(………あぁ~何を迷ってんだ俺、らしくないぞ。
どうせやらなきゃここで終わりだ。だったら一か八かの賭け、そっちの方が俺らしいじゃねぇーか!)
そう考えると彰は一度大きく距離をとる。
(あれっ?アキラ兄ちゃんどうしたんだ?突然大きく距離なんかとって?)
(何か思いついたのかな?)
彰が苦戦しているのを心配しながら見ていたエマ達は彰が突然今までと違う動きをしたことを不思議に思う。
また、盗賊達も彰の行動を不審に思い、頭が指示を出す。
「あいつ、何かする気だ!魔法が使えるやつ全員で一斉に今すぐあいつをやるんだ!」
その声に反応したのかどこからともなくいくつもの炎の球と雷撃が彰に向かって飛んで行く。
しかし彰はそれを気にもせず自身の体に付与術を掛ける。
(―――――特性付与≪雷化≫)
しかしその次の瞬間、魔法が一斉に彰に襲い掛かり、軽い爆発が起こった。
「アキラ兄ちゃん!」
「アキラお兄ちゃん!」
思わず叫んでしまうエマ達。
しかし幸運にも爆発の音にまぎれて盗賊達には聞こえなかった。
「……やったのか?」
と立ち上る爆炎を見ながら頭は確認するかのようにそうつぶやく。否、つぶやいてしまう。
男は知らない、それは”倒せていない”というフラグだということを…
「おいおい、知らないのか? それ、フラグだぜ。倒せてない時のな」
そう盗賊達に告げながら爆炎から出てきたのは、
―――――全身に雷電を纏う、いや、全身が“雷電そのもの”になった無傷の彰だった。