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何事も、最初が肝心

 大学生。サークル、バイト、合コン、そして乱立するフラグ。過酷な受験戦争を乗り切った者たちに与えられる貴族的な身分。それが俺の抱く大学生のイメージだ。


 ガチガチな高校の拘束から解き放たれ、楽園とも呼べる自由の世界。そんな世界に、いよいよ俺も第一歩を踏み出した。必死に勉強して、ライバルを蹴落とし、倍率の高い狭き門をくぐり抜けて、将来有望と呼ばれる都内の国立大学に合格した。


 そして今日はガイダンス。俺のキャンパスライフが始まる。


 前回、合格発表を見に訪れてからおよそ三週間ぶりに大学の門をくぐり、メインストリートを歩く。なんとも晴れやかな気分だ。ここをいずれ、恋人と歩きたい。中学高校六年間、一切フラグのなかった俺が新たなスタートを切るチャンスだ!


 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに目的の講義棟が見えてきた。講義棟の一階には、大人数を収容できる大講義室がある。オープンキャンパスのときに通されたからわかる。


「おはようございます!ここで座席を確認してください!」


 学生であろう人たちが、大講義室の入り口に立って声を上げている。周りには自分一人しかいなかったので、なんか恥ずかしい。すると学生の一人が紙袋を持ってこちらに近づいてきた。


「おはようございます!こちら本日のガイダンスの資料です!そこのホワイトボードで座席を確認してくださいね!」


「っあ……どうも……」


 ここで一つ言っておこう。俺は人見知りだ。しかも結構な。いわゆるコミュ障と呼ばれるほどのものではないと自分では思っているが……。昔から初対面の人と話すのが苦手で、中学高校でもクラスが変わる度に怯えていた。主にぼっちになることに対して。友達は多くはなかったけど、なんやかんやでいつも誰かしら近くにいて、ぼっちではなかった。そう、ぼっちではなかった。大事なことなので二回言っておく。


 しかし今の俺は花の大学生!過去を改め、明るく振る舞い、薔薇色のキャンパスライフを送るのだ!……と、余計なことを考えているせいか、なかなかホワイトボードに自分の名前が見つからない。一瞬、実は合格というのは間違いではないかと思ったが、端からひとつ内側という微妙な席に自分の名前ーー水里 沖ーーを見つけた。


 大講義室に入ると、まだ半分くらいの席しか埋まっていない。ガイダンス開始まではあと20分ある。すでに来ている人達は、隣の人と談笑していたり、何かを読んでいたり、寝ていたりと様々だ。


——寝ている奴はぼっち確定だな——


 と勝手に決めつけ、変な優越感に浸る。

 自分の両隣はまだ来ていなかったので、特に臆することもなく席につく。暇なので、ツイッターを開いてみる。特に動きがなかったのですぐ閉じた。


——暇だなぁ——


 DSとか持ってくればよかったと今さら思いついた。

 とりあえずさっき渡されたガイダンス資料でも読もうと紙袋をあさりはじめると、右手に人の気配が。


「あの、後ろいいですか?」


 見ると赤いシャツを着た体格のいい男性が立っていた。どうやら、座席の後ろを通してもらいたいらしい。


「あ、どうぞ」


 席を引くと、彼は「ありがとうと」言いながらすぐ左横の席についた。


——マジか!——


 なんとお隣さんである。ピンチ。いや、チャンスと考えるべきだろうが。ここでファーストコンタクトがうまくいけば万々歳だ。初日でお友達作るだなんて、そんなハイレベルな業が出来るとは思っていなかったけど、さっき会話らしいことはしたし、いけるかもしれない!


「……あ、あの」


「関東の人ですか?」


 こちらが話しかけるのとほぼ同時に、例の彼も話しかけてきた。


「あ、はい。まあ……実家は千葉で、でも東京に一人暮らし」


「そうなんだ。俺は実家生だけど東京だよ。名前は?俺は御子神 光一」


「水里 沖です。……よろしく……御子神ってかっこいい名字ですね。小学校の時一人いたけど」


「そう?これが当たり前だから特になんとも思わないけど……水里って名字は俺初めて見たよ」


 気さくな人だなぁ。でもやっぱり緊張する……。


「そうだ、アドレス教えてよ。QRコード読み取れる?俺赤外線使えなくてさ」


 そう言いながら、御子神はポケットからスマートフォンを取り出した。スマホまで赤い……赤が好きなんだろうか。


「あ、俺も同じだから、大丈夫……先にこっちが読み取っていい?」


「あぁ、いいよ」


 先に御子神のアドレスを受け取り、続いて自分のアドレスを送る。交換完了。

 初日にアドレス交換完了って、なかなかすごいんじゃないかな!

 その後も二人で身の上話をし(御子神は二浪らしい)、ガイダンス終了後も二人で帰った。出だしとしては悪くないよね。

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