誤解と透明な水。
悠樹。
私はベッドに横たわりながら、薄い夏用の掛布団を抱きしめて小さく呟いた。冷房のよく効いた病室の布団は冷たくて、私の体に触れていた部分が僅かに熱を移し持っているだけだった。その熱も殆ど逃げ、今ではひんやりと私の手から熱を奪うだけだ。こんなものを抱きしめていたって何も起こらないことくらいわかっている。けれど――――。
◆◇◆◇
悠樹が来なくなって気付いた。私は随分彼の存在に頼っていたのだと。自分も身体が満足に使えるわけではない中で、私の存在は、私に頼られることは彼にとって重荷になっていたのではないか? 歳下の悠樹に頼りすぎていたのではないか? 会えない間、そんな風に考えるようになった。
1週間。そんなに長い期間ではない。実際、私もつい最近まで、1週間くらい悠樹に会わなくても全く平気だったのだ。本当に、平気だったのに。
最近の私は何なんだろう。たった1週間会えないだけで、どうしてこんなに寂しいのだろう。答えの出ない疑問だけが、毎日毎日頭の中を回り続ける。ぐるぐる、ぐるぐる。
そんな時、決まって出てくるのは、悠樹が来なくなったのはあの日の出来事に関係なく、ただ私の存在が迷惑だと感じ、嫌になったからなのではないか。いや、むしろあの日、前々から嫌だとは思われていたけれど、私が落ち着いて行動できなかったことが決め手になって、ついに呆れられてしまったからなのでは。――――そんな、後ろ向きなことばかり。
簡単なことなのだ。忙しくて来られないのだと納得して、来てくれるまで自分もするべきことをしておけばいいだけなのに。――――むしろそれが普通だし、これまでもそうしてきた筈なのに。でも、出来ない。あの日のことは、私も後悔している。だからだろうか……。そんな悪い方向にしか考えられなくなってしまう。こんなに後ろ向きな性格じゃなかった筈だけど、私。
ベッドから起き上がって、窓際へ。私の部屋からは中庭じゃなくて、道路が見える。
「悠樹……会いたいなぁ」
そう呟きながら窓の外を見れば、両目は勝手に悠樹を探し始めていた。
自分でもよくわからない気持ちが溢れていく。
お願い、私のこと嫌いにならないでよ。
だって、寂しいよ。
1人ぼっちになっちゃうよ。
そんなの嫌。ずっとずっと一緒にいたい。傍にいて欲しい。
頬を、生温かいものが滑り落ちる。唇が震えて、喉の奥が詰まるような感覚。鼻の奥が痛い。
口元を覆って、ベッドに戻る。うつ伏せになって枕に顔を埋めるけど、すぐに息が苦しくなって仰向けになる。髪の毛の中や耳に生温かいものが流れ込んで気持ち悪い。
私……私は、泣いた。
なんでかなんてわからない。ただ、悠樹のことを考えたら無性に悲しくなって、勝手に気持ちと一緒に涙まで溢れてきたんだ。
あれ? でも私、この気持ちに似たものを知っている。
確か、その気持ちの名前は――――――――――――。
そっか。私は…………。
悠樹に会いたいけど、今は来て欲しくないな。だって、腫れた目と涙の跡が残った顔でなんて、会いたくない。見せたくない。だから、せめてあと30分――――――。
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