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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
検査入院まで、あと5日
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暇な少年とスケッチブック。

 ――――お姉さんに、会いたい。けれど、実行に移すのは憚られた。あんな醜態を晒した後に、何食わぬ顔で会えるわけが無いじゃないか。

 最近の僕は何か変だ。どうしたらお姉さんに好かれるとか、どうしたら喜んでもらえるとか、そんなことばかり考えている。逆に、少しの失敗でも、こんなことはお姉さんには教えられないとも思うようになった。

 彼女に嫌われたくない、見捨てられたくない。

 そんな気持ちばかりが僕の中に渦巻いている、今日この頃。


◆◇◆◇


 あれから、一週間経った。あの日を最後に、お見舞いには一度も行かずに夏休みに突入して、毎日が特に何も起こらないまま流れるように過ぎていく。

「暇だな……」

 僕は、自室のベッドの上に転がりながら、一人呟いた。

 本当に毎日を家と学校の往復で過ごしていたのだと改めて気付く。

 そして、たまにお姉さんのお見舞いに行って。

 それだけだ。

 我ながら、なかなかつまらない生活だと思う。

 しかも、そのお姉さんのお見舞いにも行かなくなった。イベントは何もなくなった。

 まして、夏休みに入り、学校に行かないで良いとなれば、僕は暇を持て余していた。

 お見舞いに行かない……いや、行けない理由は1つだけ。

 向ける顔が無いからだ。あんなみっともないところを見られた。格好悪すぎる。どんな顔で会えばいいのだ。おまけに、診察室から出るとき、呼び止められたのを気まずさから無視した。どう思われただろう。

 ……そんな不安から、自然に病院から足が遠のいて行ったのだ。

 この頃、考えるうちに気付いた。あの日病院で感じた引っ掛かりは、お姉さんが僕の情けない姿を見て、どう感じたのか、嫌われたりしなかっただろうか……そんな気持ちから来たものだったのではなかったかと。

 最近、本当にそんなことばかり考えている。会って確かめたいけれど、そんな勇気は無い。とんだ名前負けだ。


 こうやって毎日考えるうちに、だんだん自分のことが嫌いになっていくような気がして、嫌だった。

 やはり、手をこまねいているよりは行動したほうが良いのではないか。

 日が過ぎるにつれて、その気持ちは大きくなっている。会わない期間が長くなればなるほど、会いに行き辛くなるだろう。

 それに、どうせ後五日経てば検査入院で強制的に会う羽目になるのだ。

 そんなことになるくらいなら、今のうちに自分の意志で会いに行くほうが、良いのではないか。

 そんな結論に落ち着いた。

「・・・・・・っと」

 僕はベッドから体を勢いよく起こす。

 決まったら即行動しなければ、決心が鈍りそうだったから、今すぐ出かけようと思ったのだ。

 時計の時間は午後二時過ぎ。訪ねるのにもちょうど良い時間だ。

「さて、行くか」

 わざわざ口に出して、確認するように言った。そうでもしなければ足が竦んで動けなくなりそうだったからだ。


 僕は、自分がいつからこんなに臆病になったのかと内心首を傾げる。以前は前回のお見舞いから三週間以上空こうが、発作を起こして担ぎ込まれて退院した翌日だろうが、平気で会いに行けたのに。

 一体いつからこんなにお姉さんの評価を気にするようになったのだろう? そして――この気持ちの変化は、この気持ちの名前は何だろう?

 ため息をつき、自嘲を込めた笑みを浮かべ、目を閉じる。はっきりと思い出せる。思い浮かべることができる。

 ――僕の大好きな、お姉さんの笑顔。

 目を開けて、リュクサックに少しだけデッサンが進んだスケッチブックを入れ、自室から出る。

 さあ、行こう。お姉さんの笑顔と、本当のことを確かめに。

 お読みいただきありがとうございました!

 誤字・脱字・言葉の誤用などありましたら、感想よりお知らせください。内容についてのご指摘、感想なども受け付けておりますので、こちらのほうも是非。

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