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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
入院4日目
45/47

1人悩む少年。

「あー……」

 がしがしと髪の毛をかき回す。今になって、恥ずかしさと後悔する気持ちが、俺の中に戻ってきていた。

 なんで、抱きしめたりなんてしたんだろう。泣いてる女の子を慰めるためっていう理由で、軽々しく女の子の体に触ったりするほど俺は大胆な男じゃないし、抱きしめたくらいで泣き止んでくれるようないい男だと自分のことを思ってもいない。

 男が女の子にちょっと触れるだけで、やれセクハラだの、みだらな行為を目的とした疑いがあるだのと言われる世の中だ。俺もなるべく触らないように気を付けていた。あらぬ疑いを掛けられるのはごめんなのだ。それなのに、泣き止むという確証があったわけでもないのに、びびりながらも抱きしめた。どういう気持ちで自分がそんな行動に出たのか、よくわからない。覚えているのは、とりあえず泣き止んでほしいという気持ちだけだ。

 目の前で泣かれると困ってしまう。自分が原因なら尚更だ。もちろん、暴言を吐いたり、叩いたりして泣かせたなら困る資格はないし、どう謝っても許されないことだと思う。でも、今回はそういう理由で泣かれてしまったんじゃなくて、自分が全く気付かないうちに、自分の行動で心配をかけてしまってのことだった。言い訳になってしまうが、まさか泣くほど心配してくれているとは思わなかったし、自分で全部解決しようとしたのだって、周りに迷惑を掛けないように気を使っているつもりだったのだ。

 予想外の涙だったからこそ慌ててしまったし、冷静に考えることができなかった。自分のせいだったから余計にだ。

 遅くまで引き留めてしまったことを笹原のお母さんに謝った。病院のくだりまでありのままに話すと、それほど大きなお咎めもなく許してもらえ、お母さんは夕食をいっしょに食べて行ったらどうかと言ってくれたが、丁重にお断りして帰ってきた。気持ちの整理がつかず、とてもではないが平気で食卓をいっしょに囲ませていただく気にはなれなかったし、なにか粗相をしてしまいそうだったからだ。

「はぁ……」

 自分の両手を眺める。この手で、後輩を抱きしめた。まだ、ぬくもりや触感が感覚として残っている。思い出すと恥ずかしくて、全身が熱くなる。顔も真っ赤になっているに違いない。たまらなくなって、顔を両手で覆い、床にずるずると座り込んだ。

 大事に育てた後輩……それだけだったはずだ。確かにほっとけない存在だし、俺の後ろについて一生懸命やっているのも可愛く思っていたけど、それはあくまで後輩としてだったはずなのだ。それなのに、今のこの気持ちはなんだ? なんでこんなに、真っ赤になって意識してるんだ? 恥ずかしくて、次会ったとき普通に接することができる自信がない。

 おかしい。これは、後輩に対する気持ちでは、あきらかに……ない。

 変だ。ありえない。だって、これじゃあまるで。


 あいつのことが、好き……みたいじゃないか。


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