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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
入院4日目
38/47

待ち合わせ。

お待たせいたしました。

 質問って、一体どんな質問なんだ?

 笹原の、いつになく真剣な物言いに気圧されて、思わず承諾してしまった。

 しかし、正直不安で仕方がない。その質問というのがとんでもないものだった場合、俺はどうすればいいのだ。やはり約束してしまった以上は、正直に答えなければならないのだろうか……。それに。

 小さくため息をついた。


「バレるだろうなぁ、やっぱり」


 あいつは鋭いから、俺の体型の明らかな変化に気付いてしまうだろう。


「心配されるよな……」

 山崎から電話があってから4日しか経っていないのにも関わらず、3キロほど体重が落ちた。はっきり言って病的な減りかただ。

 どう考えてもメンタルをやられているとしか思えない。3キロも減れば見た目にもわかる。自惚れと笑われるかもしれないが、笹原は、きっと心配する。

 中学の時から、何故か色々と俺のことを助けてくれた。試合中にけがでもしようものなら医務室に付き添ってくれ、無茶なプレーで医務室の医者に怒られてベンチから試合をみている俺の隣から離れようとしない。そこから俺が馬鹿みたいに大声で応援すれば、元からあまり大きくない声を張って、一緒になって応援する姿はとてもかわいく思えたものだった。

 後輩は出来るだけ平等にみるようにしていたが、どうしても他の後輩よりも関わりが多い分採点が甘めになっていたらしく、事実女バスキャプテンに注意されたこともあった。

 しかし、そうやって可愛がって育てた後輩だからこそ、心配は掛けたくないのだ。かといって、一度誘ったのにやっぱり無理だなんて言うのは悪い……。

 あぁ、そんなことを思っているうちに電話が掛かってきた。


「もしもし? 叶です」


 相手はわかりきっているが、一応と決まった口上を述べる。


『先輩……あの、準備できましたっ』


 電話口からは後輩の弾んだ声。ケーキが嬉しくて仕方ないに違いない。

 笑いだしそうになるのを抑えて、いつも通りの声を出す。


「あぁ。じゃあ、どこまで迎えにいけばいい?」


 俺の家と笹原の家はわりと近い。三叉路からの距離は15分程度だと前に笹原が言っていた。俺の家もそのくらいだから、三叉路からの距離はほとんど同じだということになる。ただ、俺が住んでいるエリアにはマンションが多く立ち並び、笹原のほうは一軒家が多く立っている。


『先輩はあの三叉路を右に曲がったところに住んでるんですよね?』


「あぁ」


『それなら、『Friend Mart』知ってますか?』


 笹原が言ったのはこの近所にあるコンビニの名前だ。


「あぁ、俺の家から近い」


『それなら、その前で待ち合わせにしませんか?』


「いいよ、わかった。そこまで迎えに行く」


『今から行きます』


「うん。じゃあ俺もすぐ出るわ」


『それじゃあ、後で』


「ん」


 通話を切り、受話器を置く。ほぼ同時に携帯が鳴った。


「……?」


 画面を表示させると、メールが届いていた。送信者は、山崎。こいつのアドレスを俺は知らないが、タイトルのところに『山崎だけど』とあった。……また勝手に調べられたらしい。気持ち悪くてしかたがない。

 開くかどうするか一瞬迷ったが、結局開けてみることにした。すると、内容はこうだった。


『夏休みの宿題もう終わった? お前頭良いじゃん、数学で教えてほしいところあるんだけど。いまから空いてる?』


「……は?」


 思わず気持ちが声に出る。突然なんだこいつは。仲良くでもするつもりか?


 ――どうしよう、まったく読めない。


 自覚したくはなかった。認めたくはなかった。しかし、今俺を支配しているのは、紛れもない恐怖。怯え。山崎がいったい何を考えているのかわからない。……怖い。


 携帯をリビングのテーブルに投げ置いて、逃げるように部屋を出た。目的地である『Friend Mart』を目指して。 

お読みいただき、ありがとうございました。

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