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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
入院3日目
34/47

笑顔と。

 ドアがノックされた。


「はい?」


 有阪が返事をすると、


「しっつれいしまーすっ!!」


 謎の抑揚をつけた挨拶と共に、勢いよくドアが開け放たれる。


「……げ」


 思わず顔をしかめた。


「内海、来てくれたんだ」 


 有阪は嬉しそうに笑っている。

 しかし俺は、正直俺の姿を見つけるなり、にやりとした仁に嫌な予感しかしない。


「おう。暇してんじゃないかって思ったんだけど――琥珀が来てんならそうでもなかったか? 俺、寧ろ邪魔だった?」


 ……やっぱり。会うたびそのネタでからかうのはいい加減にして欲しい。どこからそういうことを想像しているのか、全く検討がつかない。こいつの頭は腐ってるんじゃないだろうか。


「てめぇ……いい加減にしろよ」


「え? 別に本気で言ってる訳じゃないじゃん。そうやってすぐ反応するからからかいたくなるんだろ、俺が――痛てぇっ!!」


 取り敢えず殴っておいた。


「病院で怪我人増やす気か!!」


 大声で抗議された。仁は大袈裟に頭を押さえている。……殴ったのそこじゃねぇし。


「うるせえなぁ。声押さえろよ……今まさに生死の境をさまよってる患者さんもいるかもしれねぇだろうが」


 お前が言う通り、ここは病院だぞ。


「いや、誰のせいだよ!? 俺のせい!?」


「よくわかってんじゃねぇか。つーか、逆にお前のせいじゃなきゃ誰のせいなんだよ」


「琥珀のせいって言う線が綺麗に消え去ってるのはおかしい!!」


「おかしいのはてめぇだろ」


 毎回俺の趣味を疑われるような発言をされるのは、精神的にくるものがある。ただでさえ新学期から面倒そうだというのに。


「なんだとっ」


 仁の顔がひきつる。と、ここで制止の声。


「ほら、二人ともその辺にしときなよ。叶もすぐ殴らないの。内海も……叶に口で勝てるわけないでしょ。普通にしてたら仲良いんだから、わざわざ喧嘩しない」


 そう言って、有阪にそれぞれ一発ずつ叩かれた。痛くねぇけど。


「へーい」

 と、仁。


「わかったよ」

 そして俺だ。


「うん。折角だからさ、仲良くやろうよ」

 俺たちの返事に頷き、有坂は微笑んだ。


 ――こいつは……。



 こいつらは、俺の新学期の状況を見ても……こうやって普通に接してくれるだろうか。こうやって笑ってくれるのだろうか。

 まぁ、――無理かな。

 


 何にしても、二人を巻き込む訳にはいかねぇ、か。

 二人に迷惑が掛からなければそれでいい。

 俺は良い。だけど、二人は――。


「どうした? 琥珀。まさかマジにしてねぇよな? 冗談だぜ、さっきの……」


 俺の反応が無いことに気を遣ってなのか、仁が焦った表情で言ってくる。


「んなわけねえだろ、いつものことなのに。わざわざ気にするかよ」


 仁の肩を叩いて笑って見せた。


「――だよな!! よかった」


 ぱっと明るい表情になる仁。



 ほら、こんなに良い友達に……迷惑掛けられるわけねぇじゃん。



 ふと腕時計に目をやると、四時を回ったところだった。


「……じゃあ俺、そろそろ帰るわ」


 俺は立ち上がるとドアに近づき、そう伝える。


「おう、じゃあ学校……じゃねぇや。えっと……また今度な」


「またね、叶」



 手を振ってくれる二人の笑顔に送られて、病室を後にした。 


 お読みいただき、ありがとうございました。

 ご意見など、お待ちしております。

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