心マーブリング。
『死ぬ』
――小さい頃から一番身近な言葉だった。
自分でもよく言うし、抵抗も無い。
周りからは『そんな言葉、簡単に使うな』って言われるけれど、健康な人にはきっとわからない。
わかろうとしてくれても、本当にはわかってない。自分がその状況に陥って、初めて本当にわかるんじゃないかな。
本当に『わかってる』人は、簡単に『そんなこと言うな』なんて言えない筈なんだよ。
◆◇◆◇
「ダメ……かな?」
お姉さんは黙り込んで、話をしようとしてくれない。からかったのが悪かったのかもしれない。訊ねてみても、返事がない。
「怒ってる、よね?」
どうみても怒っているようにしか見えない。今回は僕が全面的に悪かった。
「……ごめん」
「そうじゃない。違うの、怒ってないよ。大丈夫」
今度は間髪を入れずに返事があった。きっと、お姉さんは優しいから……。
「え……。あ、そうなの? 良かった」
多分、機嫌を損ねたんだろうけど、そう言ってくれるお姉さんの優しさに甘えておくことにして、少しの違和感は隅に追いやった。そして、いつだったかお姉さんが人を落ち着かせると褒めてくれた笑顔を作る。お姉さんは、褒めたことも覚えていないかもしれないけど、僕は嬉しかったから。
「でも、出来上がったら絶対に見せに来るからね」
その時まで、これは内緒だ。
「うん。楽しみにしてる」
いつもの調子に戻ったお姉さんは、頷いてそう言ってくれた。
「あ、ねえねえ! 話変わるんだけど」
何を思いついたのか、お姉さんは満面の笑みを浮かべて話し出す。
「何?」
「学校に、気になる女の子とかいないの?」
「学校? いないよ」
学校で話すのは男子だけだ。女の子とは話しても事務的な会話しかしない。次の授業の確認とか、そんな程度。気になるどころか、女友達もいない。
「そんな即答……。しかも顔色も変えずに? つまんなーい」
期待に沿った返事が出来なかったみたいだ。お姉さんは唇を尖らせて子供っぽい表情をしている。
「あ、じゃあさ、彼女は? 欲しいとか思わないの?」
彼女。学校では、クラスの男子の半分くらいは彼女持ちだったかな。よく作らないのかって言われるけど、僕は……。
「彼女か……。あんまり考えたこと無かったけど。作る気は無い、かな。僕はそんなに長く生きれないし、付き合う子がかわいそうでしょ。遊園地なんかに行っても、絶叫マシーンみたいな激しい乗り物には乗れないし、海にも行けない。何より近い内に死ぬんだよ? 何も考えずに彼女作るなんて、無責任じゃない」
クラスの男子が自分が行ったデートのことを話していた。遊園地とか、海とか。でも、僕にはそういう『普通』のことが出来ないから。でも、何故か『無責任』という言葉を口に出したとき、自分で言った癖に――――上手く言えないけれど、何かもやっとするようなずきっと来たような……嫌な気分になった。
「……そっか」
お姉さんは、ただそれだけを言った。そして思った。やっぱりこの人は――――『わかってる』
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