表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
入院3日目
29/47

一足遅い。

 お久し振りです。

 

 ――そろそろ、あいつも告白する決心がついたころだろうか。


 一人になると、馬鹿みたいに同じことばかりを考えている。


 夏休みの間、何も有阪の世話ばかりしていたわけではない。

 何回か比較的仲の良い友人から、遊びの誘いも受けた。特に予定がない限り断りもしなかったので、結構遊んだのではないだろうか。

 海……は行かなかった。プール……も行っていない。

 行ったのはカラオケやゲーセンなど、夏らしさの欠片もない、いつも通りの場所。

 ……楽しかったからいいんだけどな。


『受験も終わったことだし――』


 遊びの誘いの前置きとして、示し合わせたかのように皆がそう言っていた。


『去年の夏とは違うんだ――』


 そうも言っていた。

 俺も例に漏れず、去年の夏は殆んど遊ばなかったクチだったから、今年の夏は遊ぶと決めていた。


 そんな夏休みも半ばを過ぎ、もうすぐ夏も終わるかと、ほんの少し物悲しさを伴い始める頃だ。

 有阪と殆んど喧嘩別れのようになった日から、今日で丁度七日……一週間だ。

 あいつも色々と考えたことだろう。


 俺は有阪に、わざときついことや不愉快にさせることを言った。正直言って自分で性格が良いとも、優しいとも思ってはいない。


 それは、周りの俺に対する見解とも寸分と違っていないことだろうと思うが、別に優しいと思われたい訳でもないし、それはどうでも良い。


 自分が悪くないのなら、謝罪の安売りをするつもりもない。……我ながら、随分と捻曲がって成長したとは思わないでもないが。


 だが、自分が完全に悪い場合は百八十度話が違ってくる。きちんと頭を下げて謝らなければならない。

 必要があれば謝る。

 人間として最低限の礼儀だろう。それがわざとだったのならば、尚更だ。

 勢いをつけさせる為に必要だと思ったとはいえ、流石に少しやり過ぎたと反省していた。

 あの穏和な性格の有阪に、『最低だ』と言わせたのだ。相当なことをしてしまったと、焦った。……叱咤には強すぎたのだ。

 怒らせるだろうと予想はしていた。しかし、有阪が帰ったあとになって自分が言ったことを思い返すと、言い過ぎた感が否めなかった。


「……謝らないとな……」


 そう呟いたときだった。


 携帯の着信音が鳴り響く。

 着メロではなく、携帯に最初から入っているようなよくあるものだ。

 人が多いところで趣味全開の着メロが鳴るのは、避けたい気がする。

 

「はいもしもし」


『あ、もしもしー? 叶ー?』


 嫌なやつからの電話だった。


 誰かから番号聞きやがったな。こいつには教えてないのに。


「何の用?」


 何の感情も込めず、一言。


『何その言い方』


「そっちこそ何様? 電話してきたのそっちだろ」


 今、大丈夫? の一言もねぇのか。


『いらないからそういうの。……まぁ良いや。

実は――――』


「あ?」


 今、なんて言った?


『だから、さ。協力してくれるよね?』













 ――夏休み明けたら、有阪で遊ぼうと思うから。





「今、なんつった?」


『聞こえてたでしょ? やってくれるよね?』


「なにそれ。みんなに電話してんのか?」


 ご苦労様なこって。


『ううん、みんなはメール。でも、叶はメール無視しそうだから』


「へぇ。誰かから番号聞いたのかよ。仲良いやつにしか(・・・・・・・・)教えてないのに。わざわざ。つか、高校生になってまでいじめって……だっさ」



『まぁな。で、どうすんの? みんなオッケーしてくれたけど?』


 何がまぁな、だ。


「…………………」


『そこで迷う?』


「迷った」


『ふぅん? 本当に友達だと思ってるの? 見捨てるかどうか迷うとか……』


 はい残念でした。


「そんなところで迷うかよ」


 笑わせてくれるよな。


『は?』


「最低だな、頭悪いんじゃねぇの、一回逝ってくれば、暇なの、お断りします、この中のどれを言うかで迷ってたんだよ。……決められなかったから、全部言っとくわ」


 暫くの沈黙の後で、山崎(馬鹿)は言った。


『……あ、そう。じゃあ、叶で遊ぶことにするよ』


「やってみれば?」


『皆には予定変更って伝えとくよ。後で謝っても知ら――』


 切った。



 どうせ最初から『()で遊ぶ』つもりだったくせに。

 一学期から、こっちニヤつきながら見てたの知ってんだよ。


 さあ、有阪の見舞いに行こうか。


 謝らないとな。それで、素直に頑張れって言ってやるんだ。

















 お似合いの二人だと思うし、そこに俺の気持ちなんか関係ないし。




 


 本当は、先輩がまだ好きだ……なんてな。


 そんなことあるわけないだろ。


 あったらダメだ。


 そんなわけない。好きなわけない。

 



 いつだって気付いた時にはもう遅い。一足遅い。

 

 俺は自分が嫌いだ。


 自分に嘘ついてるところとか。


 幸せになってほしいと思いながら、今からでも間に合うかもって思ってるところとか。


 間に合うわけないだろ。



 いつから気持ちに気づいてたよ?


 確かに中学生のときは好きだった。でも、卒業してから会えなくなって諦めたよな? 

 なんとか付き合わせようってやるうちに思い出したのか? 

 また好きになった? 

 ……諦めついてなかったってか。


 そんな、つられてまた好きになるとか……おかしいだろ。

 



 


 ……自分の馬鹿さ加減に笑えた。



 

 なぁ、よく考えろよ。


 勘違いだろ? 好きなんじゃなくて、好きだったときの気持ちを思い出してるんだって……。


 そうだ、それだ。


 やっぱり俺は頭が悪い。


 でも、そのおかげで適当に理由つけて諦めることができるな。


 多少筋通ってなくても、矛盾してても、馬鹿だから気付かない(目瞑れる)し。


 




 初めて馬鹿で良かったと思った。

 


 

 お読みいただき、ありがとうございました。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング参加中です。よろしければ、押していってください。→ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ