幸せは。
「悠ちゃん、悠ちゃん」
肩を揺さぶられ、名前を呼ばれて、僕は目を開けた。
「おはよう」
目の前には、口元に優しい微笑みを湛えてそう言ったおばあちゃん。
「うん……おはよう」
身体を起こして、気付いた。
自分が机に突っ伏して寝ていたことに。
無理な体制で寝ていた為に、肩が痛い。背中も、全身がバキバキだ。
少し視線をずらすと、ほぼ完成したあの絵。
どうやら、絵を描きながら寝てしまったようだ。取り敢えず、絵が汚れていないことに一安心。
「夜御飯食べ終わってからすぐに二階に行って、遅くまで何かしてると思ったら……」
おばあちゃんも絵を見る。
「綺麗な絵ねぇ。この女の子も美人さん」
「ありがとう」
お姉さんを真ん中に描いた。少し前に一緒に撮った写真を見ながら描いたのだけれど、やはり人の特徴を掴んで描くのは少し難しかった。
「朝御飯できてるよ。先に食べてしまいなさい」
食べ終わったら、検査入院の用意もしないとねぇ……。
と言って、おばあちゃんは一階に降りて行った。
結局昨日も殆んど一日中絵を描いていたし、一昨日も帰ってきてからずっと絵を描いていた。どちらも、かなり夜中まで描いてたし。昨日なんかそのまま寝てるしね。
これだけ集中して絵を描いたのは、いつ以来だろう。
放ったらかしにしていた間を日数にいれなければ、今までで一番早く仕上がりそうだ。あとは色を付けるだけ。
出来上がったら……そうだな、この絵を見せて、気持ちを伝えるつもり。
きっと、勝ち負けじゃないんだ。
どんなに勝ち目がなくても、これだけは必死で伝えるしかないんだ。
結果が出るまで諦めちゃダメなんだ。
最後の、一秒まで。
理屈じゃない。気持ちの問題だから。心が叫ぶから。
長くないなら、他の人より短い時間で濃い人生を送れば良い。
今こそ、それを実行する時じゃないか。
砕けても良い。伝えたっていう事実が大事なんだ。
最期のとき、良い人生だったって笑えるように、こんなやついたなって、思い出してもらえるように。
そして、何より――――やり残したことがあるのは、嫌だから。
もし、この想いが実ったら。
その時はきっと、約束するよ。
君を幸せにしてみせるって。
神様に祈ったりはしないよ。
だって、幸せは自分の手で掴み取るもの、でしょ?
終わりが見えた!!
お読みいただき、ありがとうございました。
感想、評価、レビューなどもお待ちしております。




