昔話。
でぃすいずべりーろんぐすとーりー、おーけー?(笑)
声の方を勢いよく見ると、
「そんなに怖い顔で睨まないでよ」
のんびりと微笑まれた。
「荒城先輩……」
俺は、その人の名前を呼んだ。
「久し振りだね、二人とも。元気そうじゃない」
この人が、俺の前の男バスのキャプテンだ。
でも……。
「なんでここにいるんですか」
「まぁ、いいから。二人とも、ちょっと落ち着いて周りを見てごらん。みんなびっくりしてるよ?」
言われるままに辺りを見回すと、視線が痛いほどに突き刺さってきた。途中から、周りのことをすっかり忘れていた。
「わかったかな? ここじゃなんだし、どっか入ろうか。俺も話を聞こうじゃない」
微笑みをそのままに、先輩はそう提案してきた。
「どうせ、これからの部の方針についてでしょ? 俺は中立の立場でちゃんとジャッジするからさ。あそこの喫茶店でどう?」
「先輩……っ、いいですよそんなの!! 俺とこいつでなんとか……」
「なるわけないよねぇ。そのうち二人とも、また熱くなっちゃうに決まってる」
遮られてしまった。
しかも、正論なだけあって言い返せない。
「けど……っ」
「いいって。どうせ暇なんだから。でも、どうしてもって言うなら……そうだな、お代は叶が持ってくれるってことで」
俺、好きなんだよねぇ。あそこのケーキ。
そう続けながら、先輩は俺と笹原の手首を掴む。
「ちょっと!! つか金は……!!」
「ほーら、行くよ。笹原さんも」
なかなか力が強く、あっという間に喫茶店に引きずり込まれてしまった。
先輩は、店の一番奥の席に案内も待たずに、勝手に陣取る。
仕事がなくなって、突っ立っているウエイトレスが可哀想だった。
優しそうにみえて、実際はかなり強引かつ強かな人だ。
「早く座りなよ。え? 注文? じゃあ、このチョコレートケーキにするよ。飲み物は……なんでもいいよ。おすすめみたいなのある? ケーキに合いそうなので。うん、よろしくね」
勝手に陣取った上、早く座れときた。
仕方なく座ると、ショックから立ち直ったウエイトレスが注文を取りにきていた。
というか先輩、絶対メニューの一番上にあったやつ選んだよな。この、とか言ってたし。
「お客様方は如何なさいますか?」
ウエイトレスは俺達にも注文を聞いてくる。
「……じゃあ、アイスコーヒーで」
「私は、苺のショートケーキと紅茶で」
こいつ、茶葉はどうするんだ?
「茶葉のご希望はございますか?」
やっぱり聞かれるか。
さぁ、どう答える?
「紅茶はあんまり詳しくないから、なんでもいいです」
……だよな。
こいつが茶に詳しいところなんて、想像できない。
「さて、本題に入ろうか。二人とも、そろそろ頭が冷えたんじゃない? って、あれ?」
話を切り出した先輩が微妙な表情で、俺と笹原を交互に見る。
「どうしたんですか?」
「ちょっと待って。この配置、おかしいでしょ」
俺たちが座ったテーブルは、長方形の四辺のうち、長い二辺に二人ずつ座るようになっている、よくある四人掛けだ。
そのテーブルに、三人が座った。
短い辺を使うなど、変わった使い方をしない限り、必然的に片方に二人、もう片方に一人が座ることになる。
先輩はその配置について指摘しているようだった。
「なにが、ですか?」
俺は気付かない振りをして聞き返した。
わざとやってるんだよ。
そこは指摘せずに華麗な技でもってスルーしてくれ。
「なんで笹原さんと叶が並んで座って、俺が一人? 二人が向かい合って、どっちかの隣に俺がいるのが正しいでしょ、この場合。二人が話し合うんだから。これじゃあ俺が問い詰められるみたいじゃない」
「それは……」
「席替え席替え。叶、こっちおいで」
先輩は、にこやかに自分の隣の椅子を叩く。
「……げ」
この先輩の隣に座って良いことが起こった試しがない。
「聞こえてるよ? 何が、げ、なのかな?」
……地獄耳め。
「笹原、先輩の隣に」
押し付けて逃げを図った。笹原には何もしないだろう。
「ダメだよ。叶? お、い、で」
短く区切って、にこっと微笑みかけられる。
……ここまで笑顔が恐ろしいと感じたのは、生まれて初めてだ。
「……はい」
もう、従う以外に道は残されていなかった。
「……さて、本題に入ろうか。まず、両者の言い分から」
「……もう、いいです。なんかどうでも良くなりました。俺がそこまで口出すこともなかったかなって」
座席配置の一件を挟み、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「それに、落ち着いてみたら年上甲斐なかったし」
「そ。笹原さんは?」
先輩は頷き、笹原に振った。
「……私も、偉そうなこと言っちゃって。叶先輩が言ってくれたこと、間違ってないし……むしろ正しいですから」
「よし、偉いね。これで仲直りだ」
先輩に頭を軽く数回叩かれる。
「随分冷静に判断できるようになったじゃない」
小さく囁かれた。まるで俺が部長をやっていた時の事を知っているかのように。
「先輩、あの……まさかとは思うんですけど、俺が部長やってた時の事知ってるんですか?」
もう、笹原にバレても構わないか。
そう思った上で、先輩に訊ねた。
「うん。あれはまだ始めの頃かな……。部長のことについて、何度か部員が泣き付いてきたから、こっそり見に行ったことがあったんだ。叶は夢中で気付いてなかったけどね」
先輩は、そう前置きしてから話し始めた。
お付き合いいただき、ありがとうございました!!
先輩の昔話はもう少しだけ続きます。




