わがまま。
琥珀くんが、どうしてあんなことを聞いてきたのか、凄く気になっていた。
◆◇◆◇
『先輩。有阪のことどう思ってますか』
そう言ったあと、ぐっ、と唇を引き結んで
真剣な目で私を見た。
どくん、と心臓が跳び跳ねた。
『どう……って。大事な友達だと思ってるよ?』
なんでも無さそうに言った。
だけど。
好き、好き。大好き。――――本当は。
気を抜けば、この後輩に打ち明けてしまいそうだった。
琥珀くんなら、なんとか上手く運んでくれるんじゃないかな。
そんな甘えた感情が、ともすれば口をつきそうだった。
琥珀くんは、頭が良い。
勉強には全くやる気が起こらないようで、テストの点数はすれすれで赤点を取らない程度。
『一応赤点取らないようには、考えて勉強してるんで』
一度勉強に誘ったら、爽やかに断られた。
私が、琥珀くんと同じ中学校に通っていたときのことだ。
だから、勉強の賢いとは違う。
作戦を練るのが上手なんだ。
スポーツでも、人にものを頼むときも。
――――人の恋愛に協力するときも。
どう立ち回れば上手く行くのか、よくわかっている。
そんなことばかりしてるから、人に嫌われやすい。
でも、琥珀くんを嫌っている人の中にも、気づかないうちにくっつけてもらった人は沢山いることを、私は知っている。
なんでそんなことばかりしているのか、ちっともわからなかった。
だから、聞いてみたことがある。
『参りました。気付いてた人がいたなんてな……』
琥珀くんは、首だけ振り返って言った。
『理由……ですか? 不器用なやつみてたら、どうしても手伝ってやりたくなるから……ですかね。俺、意外とお人好しなんですよ。それに、なんか人が嬉しそうにしてるのみたら、こっちも嬉しくなるじゃないですか』
くっつける過程で誤解を招いて、傷付くことのほうが多いのに。
くっつけるのに失敗して、酷く傷付いたことがある癖に。傷付けられた癖に。
なんで続けてるんだろう。
私には、やっぱりわからなかった。
でも、もしかしたら、これと同じなのかも。
私は、机に広げてある画用紙を眺める。
最近、急にまた絵を描きたくなった。
左手だから、思うようには描けない。でも、不思議と前のように苛立ったりはしなかった。
病室の窓から見える朝顔。
わざと途切れ途切れに描いて、朝顔の欠片の1つ1つを線で囲うようにして、パズルの欠片を描いた。
急に思い付いた絵だった。
一番手前には、大きく何も描いていない空白がある。
もう決めたから。
この気持ちは、ずっとしまっておくって。
でも、でも――――。
悠樹に会えずに1週間と少し。
しまっておくって決めてから、2日。
そんな短い間に、私の気持ちは随分変わってしまった。
わがままだってわかってる。
それでも――――――――――
この気持ち、伝えたい。
好きって、大好きって、ずっと一緒にいたいって。
しまっておけるわけ、無かった。
今度の検査で、異常が見当たらなければ、一時帰宅が認められる。
7歳のとき、病気が発覚した。
8歳のとき、手術で腫瘍を取り除く際に、手の神経を損傷。
小学生のあいだは、取りきれなかった腫瘍があったため、薬での治療と、手術を繰り返した。
中学生のとき、完全に治ったと退院して、学校にも通った。
けれど、再発した。
また、それから2年。
次は絶対にといっていいくらいの確率で完治している、と先生が言った。
本当に大丈夫ならば、一時帰宅を経て、退院となる。
検査の日は、悠樹の検査入院が終わる日。
完治、していたら。
悠樹を残して逝く心配がなくなったら。
1つだけ、わがままさせてください。
◆◇◆◇
わかりやすすぎるんだよな、あの2人。
言っとくけど、病気だからとか一切ないからな。
同情なんかじゃない。
ただ、俺が先輩と有阪の嬉しそうな顔がみたいだけだ。
俺の望み。願望。わがまま。
幸せになってほしいだけだ。
ただ、それだけだ。
お読みいただき、ありがとうございました!!
ご感想、ご指摘、お待ちしております。




