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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
検査入院まで、あと4日
20/47

わがまま。

 琥珀くんが、どうしてあんなことを聞いてきたのか、凄く気になっていた。


◆◇◆◇


『先輩。有阪のことどう思ってますか』


 そう言ったあと、ぐっ、と唇を引き結んで

真剣な目で私を見た。


 どくん、と心臓が跳び跳ねた。


『どう……って。大事な友達だと思ってるよ?』

 

 なんでも無さそうに言った。


 だけど。


 好き、好き。大好き。――――本当は。

 気を抜けば、この後輩に打ち明けてしまいそうだった。

 琥珀くんなら、なんとか上手く運んでくれるんじゃないかな。

 そんな甘えた感情が、ともすれば口をつきそうだった。

 

 琥珀くんは、頭が良い。

 勉強には全くやる気が起こらないようで、テストの点数はすれすれで赤点を取らない程度。


『一応赤点取らないようには、考えて勉強してるんで』


 一度勉強に誘ったら、爽やかに断られた。

 私が、琥珀くんと同じ中学校に通っていたときのことだ。


 だから、勉強の賢いとは違う。

 作戦を練るのが上手なんだ。

 スポーツでも、人にものを頼むときも。


 ――――人の恋愛に協力するときも。


 どう立ち回れば上手く行くのか、よくわかっている。

 そんなことばかりしてるから、人に嫌われやすい。

 でも、琥珀くんを嫌っている人の中にも、気づかないうちにくっつけてもらった人は沢山いることを、私は知っている。

 

 なんでそんなことばかりしているのか、ちっともわからなかった。


 だから、聞いてみたことがある。


『参りました。気付いてた人がいたなんてな……』


 琥珀くんは、首だけ振り返って言った。


『理由……ですか? 不器用なやつみてたら、どうしても手伝ってやりたくなるから……ですかね。俺、意外とお人好しなんですよ。それに、なんか人が嬉しそうにしてるのみたら、こっちも嬉しくなるじゃないですか』


 くっつける過程で誤解を招いて、傷付くことのほうが多いのに。

 くっつけるのに失敗して、酷く傷付いたことがある癖に。傷付けられた癖に。

 なんで続けてるんだろう。

 私には、やっぱりわからなかった。

 でも、もしかしたら、これと同じなのかも。


 私は、机に広げてある画用紙を眺める。

 最近、急にまた絵を描きたくなった。

 左手だから、思うようには描けない。でも、不思議と前のように苛立ったりはしなかった。

 

 病室の窓から見える朝顔。

 わざと途切れ途切れに描いて、朝顔の欠片の1つ1つを線で囲うようにして、パズルの欠片を描いた。


 急に思い付いた絵だった。


 一番手前には、大きく何も描いていない空白がある。


 もう決めたから。

 この気持ちは、ずっとしまっておくって。


 でも、でも――――。


 悠樹に会えずに1週間と少し。

 

 しまっておくって決めてから、2日。


 そんな短い間に、私の気持ちは随分変わってしまった。

 わがままだってわかってる。


 それでも――――――――――




 この気持ち、伝えたい。



 好きって、大好きって、ずっと一緒にいたいって。


 

 しまっておけるわけ、無かった。


 今度の検査で、異常が見当たらなければ、一時帰宅が認められる。


 7歳のとき、病気が発覚した。

 8歳のとき、手術で腫瘍を取り除く際に、手の神経を損傷。

 小学生のあいだは、取りきれなかった腫瘍があったため、薬での治療と、手術を繰り返した。

 中学生のとき、完全に治ったと退院して、学校にも通った。

 けれど、再発した。

 また、それから2年。

 次は絶対にといっていいくらいの確率で完治している、と先生が言った。

 

 本当に大丈夫ならば、一時帰宅を経て、退院となる。 

 検査の日は、悠樹の検査入院が終わる日。

 

 完治、していたら。

 

 悠樹を残して逝く心配がなくなったら。


 1つだけ、わがままさせてください。


◆◇◆◇


 わかりやすすぎるんだよな、あの2人。


 言っとくけど、病気だからとか一切ないからな。

 

 同情なんかじゃない。


 ただ、俺が先輩と有阪の嬉しそうな顔がみたいだけだ。


 俺の望み。願望。わがまま。


 幸せになってほしいだけだ。


 ただ、それだけだ。


 

 お読みいただき、ありがとうございました!!


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