読み違い。
『頑張って言って来い』
そんなメールを送信しようとして、手を止める。
――――ダメだ。俺がこんなの送ってどうする。
さっき、有阪の前で凄く嫌な奴になってみせたところじゃねぇか。
こんなやり方しかできなくて、悪いな。でも、お前の性格からして、お前が自分だけで決断して、幸せになれそうな方法ってこれくらいしか思い付かなかった。
俺に負けてたまるかって思わせるしか、こんな奴蹴落としてでもって思わせるしか。
こんな性格悪い作戦しか無くて、ごめん。
◆◇◆◇
まだ、午後1時半になるかならないか、という時間。
それなのに、色んなことがありすぎて、もう3日くらい生きた気がする。
帰ってくるなり、適当に作ったおかずを胃に流し込んで、自分の部屋に籠ってずっと悶々としている。
「あぁああぁ!! もう! どうしろっていうの……!」
机に付っ伏して思わず怒鳴った。
いつもなら、おばあちゃんがびっくりして階段を駆け上がってくるけれど、今日は近所の気の合う人と出掛けている。
「叶……は、何考えてるのかな……」
急にあんな態度取ったりして、やっぱり僕には叶ってやつがわからない。
でも、人の気持ちを考えない言動をするようなやつだとは思わなかったのにな。
面倒だって言いながら、いつでもちゃんと手伝ってくれて。
初めて話したときは、愛想の無い話し方だったから仲良くなれそうも無いと思った。
でも、本当は気遣いのできる優しいやつなんだなってすぐにわかった。
一番気が合う友達だと思ってた。
だから――――。
だから、余計にショックだったのかも知れない。
「絶対……」
負けたくない。そう言おうとした。でも、何故か言葉が止まった。
「違う……」
理由はわからない。でも、そうじゃないと思った。
ふ、と。
机の上に、ずっと投げ出してあったスケッチブックが目に付いた。
手に取って、ページを捲ってみた。
書き掛けでやめていた、あの向日葵の絵。
描き始めたころは、割りと上手く描けていると思っていた。今も、別にどうしようもないほど下手くそだと思ったわけじゃない。
ただ、今ならもっと良い物が描けそうな気がした。
画面いっぱいに描いていた向日葵の絵を、消しゴムでざっくりと1本線を書くように消す。あまりよく考えずに、それをいろんな方向からやっていく。
途切れ途切れになった、向日葵の絵の欠片の1つ1つを囲うようにして、鏡の欠片を描いていく。
イメージは、床に散らばった、割れた鏡の欠片に写っている向日葵の花だ。
そして、一番手前には――――。
◆◇◆◇
あぁ、でもあいつは……。
俺の読み違いだったかもな。
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