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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
検査入院まで、あと4日
16/47

策士。

 久し振りの投稿となりました。


 ――――と。

 階段を上がってくる足音が聞こえる。そして、それは僕の前で立ち止まる。

「おい!」

 強く肩を掴まれた。聞き覚えのある声だ。

 顔を上げると、声からの予想通り叶が立っていた。


 血の気が引くのが自分でも分かる。

 それにもかかわらず、鼓動は3倍ほどに跳ね上がる。

「……っ」

 喉がひゅーひゅーと鳴る。

 冷や汗がじっとりと肌を湿らせ、全身が小刻みに震える。

「……ちょっ…お前、大丈夫…かよ……」

 荒い息遣いの間に、予想外な叶の言葉。

「やっぱ一言言ってやろうと思って……戻ってきてみれば……腹立ったから…全力疾走したってのに…無駄じゃねぇか……っ」


 文句を言いに戻って来たのに勢いをそがれたのか、叶は言葉ほどきつい物言いではなかった。


「……いいから落ち着け。泣くほど苦しいのか?」

 僕の隣にしゃがみ込み、叶は僕の肩を叩く。

「ったく。ショックで泣くくらいならこんなことすんなよ、柄でもねぇ」

 叶の呆れた声とため息を聞いて、いつもと変わらない態度に驚くとともに、安心した。鼓動が落ち着いたものに戻っていくのが分かる。

 けれど、安心すると同時に自分のことしか考えていなかった自分が酷く恥ずかしく思えた。

「……ごめんっ…」

「別にいい。それに、……………だし」

 かなり小さな声で、叶は何か言った。しかし、全く聞き取れなかった。

「今、なんて……?」 

「いや。殴って悪かったな。まぁ、よくよく考えてみれば、お前が突き落としたくなんのも無理ねぇよ……。最近ちょっとやりすぎた」

 僕の質問は上手く流されてしまった。

「本当にごめん。あの……頭は? 血が出てたけど……」

「あぁ、あれか。大丈夫だ。浅く切れただけだから。血も、もう止まった」

 叶は事も無げにそう言った。

「そう、なんだ。良かった……」

 心の底から安堵した瞬間だった。

「おい」

 叶の声のトーンが一気に下がった。

「な、なにっ……!?」

 凄みが効きすぎて、鳥肌がたった。怖すぎて、返事をする声が裏返ってしまった。

「違ぇよ。お前じゃねぇ」

「えっ!?」

 僕じゃないとすれば、一体誰に……。

 叶のほうをみると、叶に後ろから抱き付くようにしているのか、叶の肩口から顔だけが見えている。

「あっ……!!」

「てめぇっ…なにしてやがる」

 叶はその人を引き剥がすと、きつく睨み付けた。

「やっほー。琥珀、悠樹」

「やっほー、じゃねぇだろ! いきなり、しかも後ろから抱き付いてきやがって。気持ち悪ぃんだよ!」

 盛大に顔を顰めながら、吐き捨てる叶。

「いやー。2人があんまりラブラブしてるもんだから、ちょっと邪魔してやろうと思って」

 ははっ、と笑うその人に、叶は容赦なく罵詈雑言を浴びせかける。

「誰と誰がラブラブだって? 野郎同士で……うぁ、やべ。吐きそう」 

 口元を右手で覆いながら、叶は尚も続ける。

「大体な、てめえがそんな事ばっかり触れ回るから、最近真に受けたやつから変な目で見られてんだぞ。この前なんかなぁ……あぁ、もうやだ。思い出したくもねぇ」

 終いには頭を抱えて床に座り込んでしまった。

「あれ、大丈夫ー? オレ、なんか悪いこと言ったかな……」

 首を捻りながら、叶の事を覗き込むこの人は、内海仁也うちみじんや

「てめぇが悪ぃんだろ!!」

 叶が内海を蹴り飛ばす。

「痛ってぇー!! 何すんだよ!」

 軽く飛ばされた内海が抗議する。

「許せねぇ。仁、てめぇが野郎にしか興味ねぇって噂を流してやる」

 叶は冷たい目で内海を見ながら、仕返しの計画を口にした。

「げっ、それは勘弁!!」

「知ってるか。自分がされたら嫌なことは、人にもしちゃいけねぇんだ。くだらねぇこと言って回ってんじゃねぇ」

 まずは会議中の図書室からか? クラス委員全員にデマを流してやる、と立ち上がる叶を、内海が必死に引き止めている。

 というか、叶も妙な噂を流されて嫌だったくせに内海にやり返すのは、言ってることと逆じゃないか……そう思うのは揚げ足取りになるのだろうか。

「2人とも、止めなよ。堂々巡りじゃない。それに、内海はどうして学校ここにいるの?」

「そりゃ、決まってんじゃん。お前らからかいに……」

「ぁあ゛ん!?」

 叶が内海を遮って脅す。

「冗談だよ、冗談。部活があったんだ」

 なるほど、よく見ると内海は水泳バッグを持っている。そういえば、内海は水泳部だったか。

「ふぅん。で、なんでさっさと帰らねぇんだ?」

 叶のあまりに辛辣な言葉に、流石に内海が気の毒になった。

「掲示板に、クラス委員会ありって書いてあったから見に来た。いたら一緒に帰ろうかと思って」

 内海は慣れているのか、少しも傷ついているようには見えず、笑いながらそう言った。

「悪いけど、今日はダメだ。有阪と約束があるから」

 叶は僕を親指で指して言った。ものを指すときに親指を使うのは、叶の癖だ。

「ん、わかった。じゃあな」

 内海は手を振って歩いて行った。その後ろ姿が完全に見えなくなったとき、叶は僕に向き直って言った。

「俺ん家来いよ。話があるんだよな?」


◆◇◆◇


 あともう少し、辛抱して、ライバル先輩ヒロインを取り合ってくれ。

 恋人同士ハッピーエンドまで、俺が必ず、持っていってやるからよ。 

 

 

 


 お読みいただき、ありがとうございます。

 感想などもお待ちしております。

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