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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
検査入院まで、あと4日
14/47

悪意。

さぁ、まだまだこれからだ。


◆◇◆◇


 携帯の液晶画面に『送信完了』の文字が表示されたのを見て、俺は、ふっと笑みを零した。

 送信相手は有阪。内容は『今から学校に出て来られるか?』といったものだ。


 昨日有阪が逃げた後、俺はすぐに帰宅した。

 帰り際に、俺が有阪の友人だというと、先輩は有阪が一部始終を覗き見していて、しかも勘違いしていることなど露知らず、『今度は悠樹も連れて来てね』と笑っていた。

 有阪は、自分の好きな人と友人がキスしている現場を目撃したのだから、かなりショックを受けたはずだが、それがどの程度なのかが気になって、自分の目で確かめたいと思った。だからメールをしてみたのだ。

 ……場合によっては、全てが上手く行かなくなる可能性も十分に考えられるしな。

 それに、どちらにしても俺は、クラス委員の集まりに出るために学校に行かなければならない。

 まだまだ面白くなりそうだし、きっと見掛けによらず負けず嫌いなあいつなら――――――。


 『You got mail!』

 

 着信音に設定している流暢な発音で話す女性の声が、部屋に響いた。


「……ん」

 返信の速さが、そのまま有阪の焦りを表しているようで笑えた。

 メールを開いてみると、こうあった。


『丁度良かったよ。僕も聞いてみたいことがあるから。叶は今日も委員会?』


 聞いてみたいこととは勿論、俺と先輩の関係だろう。関係といっても、実際は中学時代にお世話になったこと以外には何も無いのだが。

 会ったのは3年振りだったし、ここ2年間はメールのやり取りも途絶えていた。先輩が学校に来られなくなっても暫くは、俺の素行を心配するメールが届くこともあったが。


『委員会は今日もあるけど、昨日でほとんどまとまったから、すぐに終わる。だからゆっくり話せると思う。わざわざ悪いな』


 送信。


 寝転がっていたベッドから体を起こし、制服に着替える。携帯をポケットに入れ、父から贈られた時計をして――――――。


「さてと。行くか」


 俺の家から徒歩5分のところに駅があり、そこから2駅で学校の最寄駅。その駅から徒歩10分で学校に着く。なかなか交通の便利の良いほうではないかと思っている。 

 朝の通勤ラッシュを過ぎているため、少し電車の本数は減っているが、それでも15分に1本は来る。

 駅で5分ほど待つと、電車がやって来た。夏休みとはいえ部活に行ったり、俺のように委員会があったりするのだろう。制服姿や、校章入りのジャージを着た学生も多々見受けられた。

 ぼんやりと広告を眺めながら7、8分電車に揺られていると、学校の最寄駅に到着した。

 時刻は10時37分。意外に沢山の人がこの駅で下車し、改札はにわかに込み合っていた。

 駅を出て、学校目指して歩き出したとき、制服のスラックスのポケットに入れていた携帯の振動が脚に伝わり、はたと足を止めた。

 携帯を取り出すと、有阪からの電話だった。


「もしもし?」

『……あ、叶? 僕、今学校に着いたんだけど。叶は今どこ?』

「今、駅に着いたところ。悪いな、もう少し待っててくれ」

『うん。そんなに急がなくていいから』

「あぁ、じゃあな」


 通話を切って、再び携帯を仕舞い込みながら考える。

 有阪の口調は柔かかったが、声は硬かったと。きっと、俺と先輩のことが気になって気になって、早く聞きたくて仕方がないんだろう。

 口では急がなくていいと言っていたが、俺には早くしろと言っているようにしか聞こえなかった。

 少し歩調を速めて、再び学校に向かって歩き出す。

 学校に近づくにつれて、道を歩く生徒の人数も増えて行く。中には同じ委員会の先輩の姿もあり、こちらから挨拶したり、向こうから声を掛けられたりしながら進んでいるうちに、校門に着いた。

 有阪はどこにいるのだろう。既に校内にいるのか、それともこの辺りにいるのか。

 あちらこちらに視線を向けて有阪の姿を探していると、それらしき人物を生徒たちの靴箱がある、玄関への入り口のすぐ近くに見つけた。

 夏休みであるにもかかわらず、盛大に開放されている門をくぐり、有阪に駆け寄った。そして、少し見て人違いではないことを確かめてから声を掛けた。

「悪い。待たせたな」

 少し弾んだ息を整えながら有阪を見る。校門から玄関までの距離は意外とあるのだ。

 文庫本を読んでいた視線を上げ、こちらを見て有阪は言った。

「……あれ、走ってきてくれたの? 僕もさっき来たところだから、急がなくていいって言ったのに」

 いつもと同じように軽く微笑んで話す有阪。その笑顔にいつもと違うところが無いかと探ってみるが、何も見つからない。

 ――――――あぁ、こいつもそうか。笑顔が『上手い』んだな。……俺と一緒だ。

「こっちから頼んだのに、のんびり歩いて来れるわけねぇだろ。……俺、会議室で委員会やってからしか話せねぇんだけど、それでも良いか?」

 言い終えてから気付いた。

 委員会終わってから呼べば良かった……。無駄に待たせるじゃねぇか。

「うん。元からそのつもりだし……ほら、夏休みの課題も持ってきたから。図書室でやってようと思うから、終わったら教えて? もしよかったら、どこかのお店でお昼でも食べながら話そうよ」

 俺は少し後悔していたが、有阪の準備万端振りを見て、少し安心する。

「あぁ。じゃあそこまで一緒に行こうぜ」

 会議室は、2階にある図書室の隣だ。 

「そうだね」

 

 階段を上がりきり、

「じゃぁ、後でな」

 と、有阪に手を振って踵を返そうとした時だった。

「ちょっと待って」

 有阪に呼び止められた。

「ん?」

 俺は再び有阪に向き直る。

「どうした?」

 訊ねると、

「あそこ……何か落ちてる」

 有阪は、上ってきた階段の中ほどを指さす。

「どこだ?」

 俺には、何が落ちているのか、よく見えない。

「ほら、そこにあるじゃない。もしかして、叶が落としたのかな?」

 そこ、と言われても、どこのことを言っているのか分からない。それ以前に、気付いているなら取りに行ってくれればいいのに。わざわざ階段の上から指す理由が無い。分かりにくいだけだろう。

「そこってどこだよ?」

 少し苛々しながら、階段の最上段の際まで寄って探す。

 ……この行動を、後から後悔することになるとも知らずに、な。

「ったく、何もねぇじゃ……」

 振り向いて、軽く文句を言おうと首を僅かに動かした、その瞬間。


 無防備な背中に、強い衝撃。


 次の瞬間、俺は階段から派手に転げ落ちた。

 お久しぶりです!!

 

 今回もお読みいただいて、ありがとうございました。

 いつも通り、感想などもお待ちしております。

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