表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
検査入院まで、あと5日
13/47

灰色の心。

 

 ――――え? 


◆◇◆◇


 何が起こったのか、咄嗟に理解することができなかった。

 ただわかったのは、自分がここにいてはいけないということだけだった。

 

 慌ててドアから離れて、どこに行くかも考えずにひたすら足を動かした。


 病院から出て、歩いた。ただただ歩いた。歩き続けた。

 やがて、疲労感から足が1歩も前に出なくなる。その頃になって漸く足を止めた。

 額から流れた汗が目に入りかける。それを拭って顔を上げると、見慣れた景色が目の前に広がっていた。

「……」

 町で1番高い丘。

 退院してすぐ、学校に馴染めずうまく友達を作れずにいた僕を、よくおばあちゃんが連れてきてくれていた場所だった。


 ――――無意識にこんなところまで来てたんだなぁ……。


 小さい頃はここに来ると元気になれた。明日も頑張ろうって気になれたのにね。

 でも、今は――――。

 膝を抱えて、膝に顔を埋める。


 目を閉じると、さっき見てしまった光景が浮かんでくる。いくら思い出さないようにしても無駄だった。

 

 叶の言葉を聞いて吹っ切れて、お姉さんの病室を訪ねた。ノックをしようとドアに近づくと、叶の声が聞こえてきて――――2人が知り合いだったことを初めて知った。

 タイミングを見て入ろうとして、ドアの隙間から覗きこんで……そして、見た。


 ――――2人がキスをしているのを。


 あーあ、僕って本当に馬鹿だね。

 今頃になって気付いたって遅いんだよ。

 僕の気持ちは憧れなんかじゃなかったんだ。

 見せ付けられてから気付いたって遅すぎる。

 だって、もうお姉さんは叶に取られた後だったんだから――――いや、違う。取られたんじゃない……。

 初めからお姉さんの気持ちは、僕の方になんて向いてなかったんだ。


 僕が、2人が知り合いなのを知らなかったように、お姉さんも叶と僕が友達なのを知らなかったんだろう。

 それなら仕方無い。ただの幼馴染みに、彼氏の事まで教える必要なんて無いんだから。

 叶も、僕が言う『お姉さん』と、自分の彼女が同一人物だなんて夢にも思わなかったに違いない。


 誰も悪くない。僕がもたもたしていたのがいけなかったんだ。

 いつもそうだ。気付いたときにはいつだって遅いんだ。


 持っていたリュックサックから、スケッチブックを取り出した。数ページ捲って、あの向日葵の絵のページを開く。

 お姉さんにって描いてたんだよね……。


 ――――これも、もう意味無いよ。


「……こんな絵」

 完成間近のその絵の上に手を乗せ、思い切り力を込めて握り潰した。

 けれど、画用紙は固くて、リングに通された画用紙の穴の空いた部分が少し千切れ、紙全体に少し皺が寄っただけで、僕が思ったほどぐしゃぐしゃにはなってくれなかった。

 それでも握り潰そうとすると、掌に、ちくりと痛みが走った。

 見ると、画用紙の角が掌の端に刺さって、血が滲んでいる。

 画用紙にも勝てない現実が、僕の無力さをよく表しているようで、虚しさが増しただけだった。

 それに比べて。

 頭の中には、天に二物も三物も与えられたような叶の姿が浮かぶ。

 整った顔立ち、癖の無い髪、バランスの良い身体。そこに性格も悪くないし、比較的裕福な家庭であることを含めれば、誰でも叶を選ぶだろう。

 

 最初から勝ち目の無い勝負だったんだよねぇ、僕には。



 

 お久し振りです! 漸く更新することができました!


 お読みいただき、ありがとうございました! 誤字・脱字、言葉の誤用などありましたら、感想よりお知らせください。

 内容についての、感想やご指南もお待ちしております!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング参加中です。よろしければ、押していってください。→ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ