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向日葵―命の花―  作者: 藍川 透
夏休み前
1/47

鉛筆とスケッチブック。

 『大丈夫』『心配しないで』


 ……そんな言葉たちを小さな頃から選んで使ってきた。


 『大丈夫』と、口に出して言うことで『大丈夫』になろうと、『大丈夫』だと思おうとしていたのだと思う。

 

 そして、それは今も同じ。

 

 ただ、小さい頃から変わったのは――今は心から心配して欲しくなくて言う言葉では無くなってしまったこと。


 小さい頃は、ただただみんなが悲しむ顔が見たくなくて、本当に純粋な気持ちでその言葉をかけていた。


 今は――――そう言いつつ、誰かに心配して欲しい。

 けれど、面倒な奴だと思われるのが嫌でその言葉を言う。


 『言霊ことだま』と言う言葉がある。

 

 本当に言葉に霊魂れいこんが宿るならば。


 過去と現在――どちらの僕の『大丈夫』のほうに宿った霊魂のほうが美しく輝いているのだろうか。


◆◇◆◇


 そろそろ遺影に使う写真を選んでおこうか。


 僕は中庭で芝生に寝転がってそんな事を思った。

 入道雲を背景に、向日葵ひまわりが力いっぱい空へと伸びる。

 ……そんな目の前の夏真っ盛りな光景とは無縁だ。

 別に生きることを諦めているわけじゃない。ただ、やり残したことがあるのは嫌だから。


 ワイシャツの胸に手を置く。まだ、しっかりと鼓動は伝わってくるけれど、この命のリズムが途切れるのも、僕にとってはそう遠くない未来なのだ。

 この先やってくる夏休みも、検査入院の予定でいっぱいだ。


 ――いや。予定がほとんど無いことが家族にバレなくて丁度いいか。


 どうでも良いことを考えながら、横に置いてあったスケッチブックを手に取る。


 地面に寝転がった構図からだと、入道雲と青空、それから向日葵が入っていい感じに絵になりそうだ。


 

 趣味で絵を描く。入院生活が長かった為に、娯楽といえばこれくらいしか無かったのだ。


 テレビという手もあるが、見すぎて飽きてしまった。


 そんな時に、ベッドが隣だったお姉さんがスケッチブックをくれた。


 画家になるのが夢だったけれど、病気で手が麻痺してしまったから、絵が描けなくなったのだそうだ。子供心に残酷だと思ったことを今でも覚えている。



 絵を描くお姉さんは、とても幸せそうだったのに。何もそれを奪わなくたっていいじゃないか。


 

 そんな怒りを上手く制御できなくて、声をあげて泣いてしまった。

 

 きっと、お姉さんのほうが何倍も辛かっただろうにね。それでもお姉さんは僕をなだめて、上手く動かない手で僕の頭を撫でながら言ったんだ。


『泣かなくっても大丈夫。

 私は、もう画家にはなれないけれど、また新しい夢を見つけるよ。

 幸せは、自分で掴み取るものだって、ママが言ってたから。

 でもね、悠樹には一度決めた夢を諦めて欲しくないから――――だから、これを貰ってほしいんだよ?』



 って。


 それから僕は、お姉さんの代わりに絵を描くようになった。


 画家なんて大層なものじゃないけれど、今でもあまり病院の外に出られないお姉さんに、少しでも外の景色を見せてあげるために。


 胸ポケットから鉛筆を取り出す。何度も寝転がって構図を確認して、起き上ってデッサンをしての繰り返し。少しずつ輪郭を仕上げていった。そして思い立った。

 

 久しぶりに、お姉さんのお見舞いに行こうと。

お読みいただき、ありがとうございました!

不定期更新になるかとは思いますが、がんばっていきます。

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