( 黒い瞳孔の悪魔 ) 美人とブサイク
<設定>
ここは、とある場所にある場末のバー。セブン。今日も一人の客がカウンターで美味しくない酒を飲んでいる。一人で飲むのにも飽きてバーテンに絡んでいた。
<ストーリー>
女「ハァ~・・ヤダ。世の中不公平だわ~。」
(女の名前は山口ナツミ24歳。一般的な極普通のOLであるが、俗に言う『ブサイク』である。会社に憧れの男先輩がいるが自分の見た目のコンプレックスによりアタックできないでいる。)
女「ねえバーテンさん。思わない?キレイに生まれた子は特だなあって。美人は何もしなくても幸せになれるからうらやましい・・・。はあ。なんで親は美人に生んでくれなかったんだろ。そのせいで幸せ全部逃してきたし・・。あたしも美人にさえ生まれていればこんな惨めな人生じゃなかったと思うんだよね絶対。・・だってあたしって見た目こんなだしさ・・。」
バーテン「そうですね。」
女「はあ~!?あんたそこ慰めるとこじゃないの?どんな接客よ!それ。」
バーテン「すみませぇん。」
(バーテン 女にメニューを渡す。)
バーテン「お詫びに1杯ご馳走させていただきます。」
女「おっいいとこあんじゃん。じゃあ・・・・この『黒い瞳孔の悪魔』ってのに挑戦するわ。なんか高級そうだし。」
バーテン「お客さん・・それは~・・・・(汗)」
女「あんたまさか高い酒はダメとか言うんじゃないでしょうね?」
(男が話掛けてくる。)
男「山口ナツミさん、いやーあなたは自分のことをよく分かっていらっしゃる。クックック。でも自分がブサイクなのを卑下することはありませんよ。誰しも美への憧れは持ち合わせているものですから。」
女「つーかあんた誰よ!!なんで初対面のあんたにそんなこと言われないといけないのよ!!てかなんで名前知ってんのよ気持ち悪い!!ストーカー!?」
男「ククククク。山口ナツミさん。あなたはオモシロイ人だ。クックック。自分のストーカーだなんて。ククク。あなたみたいな顔からそんな言葉が出るなんて。ククククク。こんなに笑ったのは久しぶりだまったく。ククククク。」
バーテン「ダンナァ、それちょっと言いすぎじゃあ・・。」
女「気分悪い!!帰る!!」
男「まあまあお座りなさい。山口ナツミさん。あなたを望み通り美人にして差し上げようと言っているのですから。」
女「は!?」
(女は金色の光を見た。)
(時刻は朝。女は自分の家に居た。)
女「あれ?バーに居たはずじゃ?」
(男が現れる)
男「お気に召しましたか?新しいお顔は。」
(男が女に鏡を見せる。美人になっていた。しかも彼女の理想としていた顔に。)
女「ああなんて素晴らしいの!綺麗な肌の端正な顔立ちにバラ色の頬。それになんといってもこの美しい瞳!ああ世界が輝いて見える!小鳥さん、あなたの可愛らしい歌声を聴かせてちょうだい。このいつもの何でもない風景も。この雑草も。雑踏の中の騒音でさえも全てが最高に素晴らしく感じられるわ!。ああ世界ってなんて素晴らしいの!!。」
(女は意気揚々と会社へ出勤した。)
女「(みんな!あたしを見て!この美しいあたしを!この生まれ変わったワタクシをね!。)」
(女は渾身の笑顔で憧れの男先輩に挨拶した。)
女「(どうだ!この生まれ変わったあたしは!もう何も怖くない!あたしにはシアワセの4文字しか待っていないのよ!。そして先輩とシアワセの階段を昇っていくのよ!)」
男先輩「あーおはよ。」
女「(あれ?いつもと同じ?あたしって気づいてないのかしら?)」
女「あのーあたし山口ですけど~。」
男先輩「は?知ってるよ。それより書類チェックして!数字間違ってたよ。」
女「え?あ、すみません、すぐ直します!(え!?どういうこと?)」
女同僚「あ、おはようナツミ。」
女「え!?」
(驚くことに女同僚も美人になっていた。それどころか会社の女性達もみんな美人に。世界中の女性がみんな美人になっていたのだった。)
(たしかに女は通勤中、今日はやけに美人を見かけると思っていた。しかし気持ちも高揚していたし第一に世界が輝いているように見えるからだと思っていた。)
(この世界では女性はみんな美人なので性格のいい子がモテた。しかし山口ナツミは特にモテることはなかった。いつもと変わらない日々が続いた。)
女「けっ、あんなブリっコ女のどこがいいのよ。アタシの方が100倍美人だっつーの!!」
(男が現れる)
男「こんにちは美人になった山口ナツミさん。どうですか?美しい世界は。」
女「ちょっと~みんな美人だからあたし全然モテないじゃない!これじゃ前と何も変わらないわ!」
男「山口ナツミさん、あなた美人になった時あんなに喜んでいたじゃないですか。」
女「確かにうれしかったけどみんな美人だったら意味ないでしょ!あんたバカ?」
男「それは心外ですねえ。あなたは”自分も美人にさえ生まれていたら幸せになれるのに”と言っていたので望み通り美人にして差し上げたのに。あなたの顔を美人にするのは結構な労力なんですよ。だって今の顔とは似ても似つかない代物なんですからねえ。クックック。ご不満ならばあなただけ元のブサイクに戻して差し上げるというのはどうでしょう?」
女「いやよ!あんたバカ!?」
男「クックックック。」
女「そうだ!その逆よ!あたしだけ美人にしてよ!」
男「お~そうでしたかそうでしたか。私はてっきりあなたは美人になりたいだけなのかと。不幸にもブサイクに生まれちゃいましたからね。だから私はせめてあなたの外面だけでもお手伝いできればと思ったのですよ。クックックク。いやーオモシロイ。あなたの望みは要するにモテたいということなのですね。他の人と比べて自分が美人であることで。」
女「うるさいわね!!できるの!!できないの!!どっちよ!」
男「できますよ。私はこの世界、結構好きだったんですけどね。」
(女は赤い光を見た。)
女「あれ?変わったの?」
男「ごらんなさい。周りの人々を。」
女「ホントだ!女がみんな明らかにブサイクだ!そうよこういうの待ってたのよ!ありがとう!」
(世界中の女が以前のナツミレベルの不細工になっていたのである。美人になったナツミは意気揚々と会社へ向かった。)
女「おはようございます!」
男先輩「おーナツミ!おはよう!今日もキレイだね!今日仕事終わったら空いてる?また食事でも。」
女「はい!!」
(女の生活は一変した。事実世界に一人の世界一の美人。会社中の男性社員の憧れの存在となり、女性社員からもうっとりされた。あまりに美人なため取引先でも有名になりそれがキッカケで大きな人脈を生み、または円滑剤となりナツミの部署が大きな契約へと取り付けることも1度や2度ではなかった。プライベートでもその人脈のつながりから各界の有名人とデートをしたりカネ持ちから高価な贈り物をされることが当たり前となった。そしてもうすでにあの男先輩など眼中にあるはずも無かった。)
女「(あー幸せだわ。公私共に素晴らしい人生だわ。そう。これこそ私が欲しかった幸せよ。美人になってよかった~。)」
(男が現れる。)
男「ごきげんよう。山口ナツミさん。美人な人生はいかがです?」
女「最高よ!今まで逃してきた幸せを一気に取り返した気分よ。美人って素晴らしいわ!」
男「それは良かった。ではあと1週間楽しんでくださいね。」
女「え!?どういうことよ!!ずっと続くんじゃないの!?この世界!」
男「ええもちろん続きますよ。世界はね。でもあなたはあと1週間です。あと1週間であなたは元のブサイクに戻ります。だって私はあなたを一生美人にするとは一言も言っていないでしょう?しかしあなたは今まで逃してきた幸せを全て取り戻せて良かったじゃないですか。いや、あなたにとっては逃した幸せ以上のものを得たのかもしれませんがねえ。それに安心してください山口ナツミさん。あと1週間でブサイクに戻ったとしてもこの世の中全員がブサイクなんですから。そういう意味ではあなたは『ブサイク』ではなく『普通』になるのでしょうがね。クックック。では引き続きあと1週間この生活をを楽しんでくださいね。」
(男は消えた。)
女「あと1週間!?聞いてないしそんなの!!」
女「このバラ色の生活があと1週間!?私を見る同僚の憧れの眼差しも毎日デートに誘ってくる男達も高価なアクセサリーをくれるお金持ち達との楽しい生活も終わり!?そんなの耐えられない!!どうしてよ!!でもあと1週間しかない。どうしよう・・」
女「そうだ・・・。あと1週間あるなら・・・・」
(女は行動を起こした。顔が戻る前に今まで自分に好意を寄せてきた金持ちの男達に結婚を餌にふんだくれるだけのカネをふんだくった。いわゆる結婚詐欺である。その一生遊んで暮らせる大金を持って海外に高飛びしようと考えたのであった。)
(期限の1週間まであと1日。女は高飛びするため空港に居た。)
女「あと1時間でフライト時刻。万事計画通りだわ。」
黒スーツ男「山口ナツミさんですね。失礼します。」
(女は黒スーツの男にクロロフォルムを嗅がされ拉致された。)
(女が気付くとそこは廃墟の倉庫で大金を巻き上げたカネ持ちの一人が居た。)
女「あ!あなたは!どうして?」
カネ持ち男「どうして?よくそんな言葉が出るもんだよ。お前大金せしめて海外高飛びする気だっただろ。」
女「ちがうわ。そんなことない。ウソよ!そんなの。私はあなたと結婚するのよ。」
金持ち男B「オレともだろ?」
(また一人だましたカネ持ちが車から現れた。)
金持ち男B「カネ持ちってのは意外に交流あるからネットワーク繋がってんだよ。知らないの?おバカちゃん。」
金持ち男「女狐が!こけにしやがって。・・やれ!。」
(金持ち男が命令すると殺し屋の黒スーツの男が動いた。生きたまま女の指の指紋をナイフで削ぎ、歯をペンチで抜き、最後にスコップで顔をめった打ちにした。死んでも誰だかわからないように。女の顔はグチャグチャなった。瀕死の女に捨てセリフを吐いて男達は去った。)
(男が現れる。)
男「あらあら。まだ一日残ってたのに。よっぽどそういうお顔がお好きなんですねえ。あなた。」
男「山口ナツミさん、言い忘れていましたが私は優しいんです。どんな顔の人にもね。クックック。だから瀕死のあなたにも選択のチャンスをあげましょう。」
男「このまま『死』を選ぶか、それともあと50年その顔のまま『生きる』か。2択です。まあ元のブサイクな顔よりひどくなっちゃいましたが。と言っても少しばかりですがねえ。クックックック。」
男「さあどうします?」
女「・・・・・。」
女「・・・・・。」
女「・・・ほーひへ・・ふーはひ・・・。(殺して・・ください。)」
男「そう言うのは分かってましたけどね・・・。山口ナツミさん。」
男「そしてあなたの心には、やはりそういうお顔が一番お似合いのようです。クックック」
男「それじゃあとりあえず魂だけは頂いておきますね。ではでは・・・。」
(銀色の光と共に男、バーに戻ってくる。)
バーテン「ダンナァ、お早いお戻りで。あれぇ?お一人ですかぁ~?」
男「ああ。ブサイクは・・嫌いなんでね。」
(終わり)