冬
あの人の内面は、かならず秘密を守るという安心感を与えてくれます。人知れず内密にしたいことを察してしまうから。
(人は人の心の中までは見えないけれど)何となしにふと、他人が隠したいものを仕草やことばの隙間からこぼれる一瞬が見れてしまう、それは溢れていたというべきか。この感覚は波長の合う者でなければ説明できない、「見えないものを見る」「感情には色が宿る」、この鋭さがむしろ嫌だと言っていました。
仙台からの寝台列車で到着した小野冬さんは、明け方30分ほどの道のりを歩きました。頬は火照り、白い息を吐きながら、霜柱の上を歩いてきたと淡々としています。
診療所に着いて一息ついた頃、丁度玄関の戸が開いて人の姿を見ました。
「文子さん」
少しやつれた人相で幼馴染みの姿を一目見たとき、彼の顔つきと瞳の奥に感情の揺れがありました。「7年振りでしょうか……」赤い指先を擦り合わせています。
「お荷物をお預かりしますよ。まあ、呆れた。手ぶらでいらしたの」
彼は目を伏せました。
「はあ、慌てて来たもので……大変ご無沙汰しております」
この人は藍の着物がよく似合います。
中等学校を卒業したての初々しさを失った彼と、生まれ育った小さな町の診療所で再会しました。
彼は伸ばそうとして引っ込めた手をぐっと握りしめます。「……ハルさん……」
冬さんにはハルという名の妹がいました。
見た目こそ妙齢の女ですが、人の背後にくっついて着物を掴んでいます。表情が幼く、ふうふうと息を荒くし、突然現れた普段見慣れぬ冬さんに好奇心を隠しません。
「足を滑らせて川に落ち、水に頭をやられた」
ランプ片手に30代の長身の男が出て来て、ハルの頭を撫でます。
「はい、3日前に電報を受け取りました。あの……」
「あら丹治先生、おはようございます」
「早いね」
「何だか予感がして……準備はしていました」
寝巻き姿で眠そうに青年を迎えました。「あなたが小野先生?」
「冬さん、角袖を失礼しますね」
ポンポンと濡れた粉雪をはらわれている間、冬さんがじっと妹を見つめています。
「身体が冷えたでしょう、上がって下さい。待合室を温めてあります」
丹治先生は職業病の人間観察をしていました。
「あなたは医専学校を卒業後、そこで助手をしながら他所の学舎で講師を掛け持ちしてるんだって?」
冬さんはしばらく沈黙の後、堪えきれなくなった痙攣を激しくしつつ白目を剝いてその場に崩れ落ちていきました。
「あ、しまった」
玄関土間は広いが、下は硬いのです。
「頭を打ってないか」丹治久友先生が駆け出して冬さんの足を上げ回復体位を取り、全身を確かめました。ハルはへらへらと無邪気に笑っています。
隣町の裕福な家へ嫁ぎましたが、頻繁に遊郭へ通う夫から淋を移されて子を産めなくなり、精神病を理由に実家へ戻されました。これは明治では日常茶飯時のこと。
彼女は川で丹治先生に助けられていました。
「女みたいに綺麗な顔してるだろう?」
過労の急患者は1日と翌日午前いっぱいこんこんと眠り続け、見舞いに来た騒がしい酔っ払いに起こされました。
周知の放蕩息子が病人におかまいなく喋ります。
「丹治久友先生だよ、あれは罪な奴だねえ、数多の女に好意を寄せられて今夜も……いや男色の方もいけるんじゃないか」
「……芹沢」冬さんはまだ、まどろみの中にいました。
最高に酔った赤ら顔な同年代の青年が溜息をつきます。
「君のそれも恋の病ならば良かったのになァ、ふふ」
「そうだ冬さん、俺さ最近とうとう運命の人を見つけたんだ」
「これは秘密だぜ、なんとその女性を近々身請けする」
「ああ、そう」
「……頼むから一人にしてくれ」ごろんと向こうを向きました。
六畳一間の待合室に布団を敷かれ、寝かされていました。傍に火鉢があります。壁にもたれかかったハルはぼうっと天井をみていました。
芹沢は長椅子に横になり、足の指がしもやけで辛いとぶうぶう言い出します。
「冬さん。お食事です」
いつの間に来ていたのかと、男2人が飛び起きました。
「文子さん、俺にも是非下さい」厚かましくヘラヘラ笑います。
「あなたは看護婦になったのですか」
「いいえ、でもお手伝いくらいは出来ます」
「冬さん、君等のご両親はとっくに他界したでしょう。ハルさんのお世話をずっと彼女がしてるんだよ」
「圭介さん、こちらへいらして」
両足をたらいのぬるま湯で温め、大判の布でそれぞれ丁寧にくるむと、芹沢がたまに「イテテ」と息を殺します。
この男はハルの元夫と新婚初夜からよくつるみ、遊郭へ誘い、毎晩のように押し掛け祝酒を振る舞ったのは有名でした。元夫は2面性があり品性方向とそうでないもの、それを知る者は少ないです。
「丹治先生に診ていただいた後でお薬を塗りましょう。おつかれさまでした」
「ありがとう」
冬さんが布団を頭から被って潜り込みました。
それを見てどうか今は彼を一人にしてあげたい、と静かに告げました。
この辺りの住民は、青田ゴロウ巡査の姿を見かければたちまち消毒液を吹き掛け、たとえ非番でも追い掛け回しています。頭からビショビショになった中年独身者がしょんぼりしていました。
「ああ、もう、お陰様で手がしわしわだ、あかぎれになっちまった……」
一度など、丹治先生に錆びたサーベルを見せつけています。
「痛いだろう軟膏をやるよ、持って帰れ」
「まあ、まあ仕方がないでしょう。保健衛生業の仕事をまっとうに行う俺は長生きできないだろう」
年末の町内大掃除は煤やほこりまみれでネズミやゴキカブリを、警察官が始末していました。
「朝からおやめなさいよ」
「しかし流石兄妹、あなたも文子さんもまじめだな」
よっこいしょ、と玄関の式台に腰掛けます。
「や、一晩寝て冬さんは回復したかな。ウチに連れて帰りますよ。俺達うまが合うんだ。久しぶりに酒でも飲もうかね」
「ハルさんはどうする」
「文子がここに住み込みます」
「あなたはどこまでも呑気だなあ」
「あー、ちょーいちょい、可愛いあのお嬢さんは俺が預かるよ」
もぐもぐ何かを口にしながらどこからか芹沢が現れました。
「お前まさか遊郭帰りか?」
「ああ、うんまあ、昨晩は丹治先生も一緒だったよ、お先にご帰宅あそばしたけれども」
「待て待て、ロクデナシのお前がハルさんを連れて帰るって言うのかい」
「信頼できる世話役がいるから問題ないよ。息抜きは必要だろう」
皆が黙りました。
「ヨシ、冬さんと文子さんに相談しておいて。後からうちの者を迎えによこそう」
話が決まってさっさと行ってしまいました。
「俺は冬さんとうどん食べて帰ろうかね、生姜たっぷりのねえ」
「兄も冬さんも、あさっての方向をぼんやりと見ているでしょう?」
「まだ会って間もないけれど、どこか似通っているといえばそうだね」机に向かう丹治先生が頷きます。
「あなたは冬さんと一体どうなの」
「君等は夫婦にならないのかい。だって、ふたりの間は単純な幼馴染だけでない独特な雰囲気だよ、駆け落ちでもするんじゃあないかと」
丹治先生が固唾を呑みました。
「そんな、世の中のあらゆる苦味をいっぺんに食い尽くした顔しなくても……」
ははは、と青田巡査が穏やかに声を立てて笑います。
あまりにストレートな物言いをされ、「あなた方、これから冬さんにへんなお誘いは困ります」2人にお茶を出し、ピシャリと言って襖をしめました。
「あれは、丹治先生に無愛想で冷たいね、悪かった」
先生の傍で読書しながら、暇を潰す巡査がフーと熱いお茶を冷まします。
「ふたりは決して一緒にはならないよ、昔お転婆な文子が転んで身体を傷つけたときには、自分が怪我するよりも痛いと淡々と諭していたそうだよ。魂の片割れみたいなものでしょう」
「へえ、神秘的なご縁はあるものだ……」
「と言いたいが、おふたりは双子なんだろう?」唐突に言いました。
「………………」
「そうですよ」
「なかなか子宝に恵まれないハルさんの父母の元へ、養子に貰われました」
「双子は不吉といわれておりますし」
「どうかご内密に願います……」
「様々な事情がそれぞれにあるもんだよ」
「冬さんは仙台でも時には生まれたての赤子を前にして産婆の言葉を耳にするそうです。〝おきますか、もどしますか”……とね」
丹治久友先生はこの土地に赴任してはや1年経ちました。美形の顔立ちと長身が目立っているが、情に厚くどの患者へも平等に親身、それでいて腕は確かとあっと言う間に噂が広まりました。
初めの頃は彼に心酔する奥様方を見ては、男性陣は嫉妬を隠しませんでした。
青田巡査はのんびりとしたおおらかな人で、度々仲裁と聞き手役に回ってきました。
先生は呼ばれれば、一日中いつでも駆け付ける。薬が無ければ隣町へ飛んでいく。鍼灸、漢方の分野をも専門医を訪ねて日々の研鑽を欠かしません。
いつの間にか大半の人に受け入れられ、徐々に尊敬されていきました。一体いつ寝ているのかと人々は言いますが、芹沢はケロリと吐きました。遊郭でだよと。
何かの話の流れで丹治先生が笑いながら言いました。
「私も髭でも伸ばしてみようかな、男らしくなりますかね」
巡査がドギマギとむずかしい顔をしていいます。
「丹治先生は男の中の男です」
「…………たとえばの話ですよ、もし俺から警察官と言う立場を捨て、男であることを引きこの肉体を失ったら。残った魂にはなにが残るんでしょうねえ」
ハルはまた、ふたりの会話をよそに部屋の隅でぼうっとしていました。
結局、午後まで寝ていた冬さんが布団の中で腕を上げて大きな伸びをしています。「随分向こうで働き詰めだったようだねえ」
青田巡査が胡座をかいて見つめていました。猫が体を預けて人間の太腿を枕にしています。
名前はナツアキ、ハルさんの猫だからと芹沢が遊びで付けました。
「今のうちゆっくり休んでいきなさいよ」
「…………………はい」
「……久しぶりによく眠れました」
うとうとしながらぼんやりと口にし、再び目を閉じて眠りにつきます。
「このところ良くないことばかり続いたからねえ、あとは運が上がっていくだけだろうさ」ふーと大きな溜息が出ます。
青田巡査はごつごつした大きな手で、ワシャワシャと猫の毛並みを乱します。
「この前の冬さんの訃報は何でしたの、兄さん」
「仙台で河豚毒の集団食中毒があってね、その騒動に巻き込まれていたそうだよ。冬さん多忙で連絡できなかったんだろう」
「あらまあ、本当に適当なお仕事をなさるのね。あの誤報が大変な騒ぎになりました」
「そら、中々あってはいけない事だわなあ」
「…………そうじゃない」
横向きに後頭部を向けたまま、はっきり言いました。
「それだけじゃない、食中毒はほんとうですが、もう1つあったんです」
いきなりまともに語り始めて、青田兄妹は少し驚きます。
「医学部の中には、一部に不埒な男子生徒がいました。自分達を芙蓉団と名乗り、数少ない女学生を欲望の対象にして暴力事件に発展しました」
「学校側は彼らを処罰していません、問題の原因を作ったすべての存在を退学させました、女性側を」
「……男達に追い回され、派手に転んだひとりの女子が自力で立ち上がり自宅へ帰ったそうです」
「あれは足首をやられていたと皆口々に言いました。黙って一人で帰らせたならどれだけ心配していても何もしていないのと同じです。……その後学校は徹底的に隠蔽しました……」
ドバァンと大きな音が響き、「その女子生徒達の何人か、連絡はつかないのか」急に丹治先生が待合室に顔を出して来ました。珍しくあまりに乱暴に襖を開けたものだから、青田巡査が身を引きます。
「女子に手を出すのはおやめなさいよ、先生」
「出さないよ」思わず、苦笑しています。
「ハルさん、外はとても寒いから身体を冷やしませんように。耳が特に冷たくなりますよ」
丹治先生が首巻きをふわりと包みました。
青田巡査は腹を空かせてとっくに帰ってしまいました。
「あなたも夜遅くまでご苦労さま、気をつけてお帰りなさいね」
芹沢のお使いで迎えに来た女性が深々と頭を下げ、ハルの手を取りました。
そして冬さんへ届いた電報を渡します。
彼は怪訝な表情をしていました。
「おや、なんてきたんだい?」
「はあ…… ハヤクカエレ バカ だそうです」
頭が回ってないようで、ぼんやりと言いました。
「ええ……?誰から?……」
使いの女性がその様子に顔をそむけました。文子さんが彼女の腕をそっと擦ります。
「私も帰ります、丹治先生。おやすみなさい」
二人は道すがらくすくす笑いながら世間話をしました。
青田巡査の家へ続く分かれ道で挨拶を交わします。
文子さんが少し先を歩いて立ちどまりました。
「ハルさん」
「あなたは何も心配いらなくてよ」
お使いの女性が提灯を持ち、わたしの姿は暗闇で見えません。
けれど、凛とした美しい穏やかな、優しい声でした。
「そこから出ておいで」
お使いの女性がにこやかに手を引っ張ります。まだこの町に来たばかりでご飯がいっぱい食べれて嬉しいとか、何が美味しいとか楽しそうにお話していました。
「そうそう、あなたに冬さんからのお手紙を預かってます」
手紙。
一体何が書いてあるのか、胸の動悸が速くなりました。
冬さんへの感情は、とても言葉では説明できません。
この人の優しさは文子さんという女性が傍にいるからこその温かい表現なのだと分かりやすかったのです。
この、冬さんへの気持ちは大切に心にしまい込みましたが、何年も嫉妬に苦しんでいました。
私は1年前に嫁ぎました。以前からお相手と何度か会う機会がありました。
どちらかといえば、女の私達の立場では断ることはできません。誰もが彼を爽やかな好青年だと太鼓判を押しました。
実際は何人かの下女に手を出し、本能の欲望に忠実な目の笑っていない人でした。多少親交があった芹沢が每日のように出入りしました。お酒と女にますます溺れていきました。
姑には孫を急かされ、半ば妾のような下女からは嫉妬に狂われ私に居場所はありませんでした。
父母もとっくに他界し、実家の土地は元夫が購入して更地にしました。戻る家もありません。
そのうち元夫が淋になりました。丹治先生が丁寧に男女の病状の違いを説明し、診察しました。私は屈辱に震えました。夫に身体を触れられてもいない私があらぬ病状の疑いをかけられて、見られたくない所を無防備に他人に晒したのです。
そんな時、冬さんの訃報が届きました。
冬さんに惹かれる理屈は分かりません。
幼い頃からとっくに、冬さんは血の繋がりがない兄だと知っていました。
会いたいから会いに行こう、そう思って川へ身を投げました。
冬の川は流れが速く、心臓が凍るくらい水が冷たかった。
たくさん水を飲んで溺れ、足の力が抜けていきます。どんな苦しくてもあとは身を任せるだけというとき、着物を掴まれて力いっぱい、川辺に引き戻されました。
目の前で息を荒くしたいのちの恩人の胸元、はだけた着物の乱れを見たときに丹治先生が女性であると知りました。
(すべての人が鷹揚ではありません。丹治先生がどんな目に合うかも分かりません。咄嗟に頭をやられたふりをして、私はすべての現実から閉じこもり、逃げ、目を閉ざす選択をしていました。)
道すがら考え事に夢中になっていて、いつの間にやら駅に着いていました。
木造平屋建の待合所は無人で誰もおりません。彼女は私を長椅子に座らせ、肩掛けしたかばんの中味を見せました。
「ウフフ、芹沢様が猫の手も借りようと仰っていました。温かいですよ、お膝の上に乗せましょうね」
鞄ごと受け取り、熟睡している猫のナツアキの温もりに触れました。
「あなたが嫁いだ日、ほんとうは冬さんがこの町に来ていたそうです。たまたま文子さんが用があって、あなたのご実家で大切にしまい込んであったこちらを見つけました」
あの方がすぐに来ますよ、と女性が去り際に振り返りました。
「ハルさんお身体にお気を付けて、どうかお元気で。さようなら」
……ひとりきりになり、鞄の中の封筒を石油ランプの明かりで読みました。
とても丁寧で美しい、冬さんの文字でした。
「 あなたは幸多き道を歩んで下さい 」
遠くから誰かが走って来ていました。
やがてだんだんと、背後からゆっくりと近付く音が聞こえてきました。
*
「女の私がどうやってここまでの医師になれたと思う?」
白湯を豪快に噴き出してしまった。
咳き込みながら、何とか布巾を掴もうとしたら、丹治先生が何枚か新たによこした。水にまみれた机を拭きながら背中を軽くさすってくれている。
「今夜も通いで診る患者が居るんだ、冬さん手伝ってくれますか?……少し歩きますが」
「もちろんです」二つ返事で引き受けた。
外出中の旨を書き置きして診療所を出ると、昼間と違い、人もいないから2人の会話は誰も知らない。
「この町で最初に気が付いたのは、文子さんだった。何気なく人懐こいノラ猫を撫でていたら、“丹治先生、猫の撫で方ですぐに伝わりますよ、男性としてあなたはとても不埒で危険な方ですね”と」
「…………」
「俺がこの世でいちばん恐ろしいのは文子です」
「……遊郭へは検梅のようなことをしていらっしゃるのですか……」
提灯を持って歩きながら、片手を見つめている。
「ほとんどまともには出来てない、一歩一歩だね」
「とても鋭い子がいて協力的だった。けれど、妹分は口汚く罵ってまで身を守ろうとしたんだろうな、女達のヒステリーにたまらず誰かが安本丹な芹沢君を呼んだ。少しだけ空いた襖の隙間からボソッと、頼むから俺を巻き込まないでくれと彼は泣きそうになっていた。それで私達は大きな声で笑い出してしまった。いつの間にか私を取り合う激しい大喧嘩の噂が広まったんだ」
「芹沢君は不思議な人だねえ?」
「あれは遊び人を装った、まともじゃない奴です……あいつは家業の卸の合間に、趣味でデザインの仕事をしていますよ。何でも初めから外枠を決めてしまうな、物事は流動的だからとよく話してます」
「へえ」
「……そういえば、冬の冷たい空気は澄んでいてとても色が映えると言っていた……身請けの噂は広まっていたよ。口々に芹沢君の女癖へ軽口を叩く連中もいた。それを聞いて文子さん、すれ違いざま無表情で彼に面と向かって言い切った」
「“そうですね、芹沢さんのお人柄がすべて、そのまま顔に出ていますね”」
「…………悪い女だなあ……」
「先程の使いの人は、ついこの間まで苦界にいた女性だよ」
「そうでしたか」
「“今は事情があり刹那的な境遇に身を堕としましたが、年季が明けたらせめて人の為に生きていきたい。看護婦学校などへ進むべきでしょうか”、と新聞の人生相談を見た芹沢君が、あちこち歩いて彼女を探し出した。私も会いにいってお互いに話し合っていたんだよ」
ふいに丹治先生が足を止めた。
「あなたは駅へ向かって下さい。ハルさんが一人で待っています。夜行列車が直に来るでしょう」
「冬さん、私はこの町で一生いきていきます」
深々と頭を下げた。
お手紙、みんなで回し読みしました *、。




