解離 1 -生理痛-
体育館の端、壁と一体になっている備え付けのベンチの上で横になっていた。
下腹部の痛みは鈍痛と言うには鋭すぎて、いよいよ無視できない。
ジャージではなく制服を着ていた記憶があるから、何か行事の予行練習だったんだと思う。
先生の指示や生徒のおしゃべりが聞こえてくるけれど、耳に膜が張ったようにくぐもっていてはっきりしない。
視界も焦点がどこにも合わず、何もかもがぼやけて見えていた。
周囲からの刺激がすべてあいまいで、思考も停止している。
周囲と自分の境界が溶けて、痛みを含めたすべての感覚が染み出していくのを感じていた。
誤解を恐れず誇張して表現するならば、実体としての身体を外側から観察しているようだった。
痛みはある。ずっと痛い。
でもそれは眼鏡を外して見た風景が動く色と光の配置でしかないように、はっきりしないものになっていた。
このまま寝てしまえば起きたときには痛みも多少は落ち着いているはず。
遠くで複数の声がする。
ブレザーのグレー、
靴と床がたてる音、
私の体温で温まった木のベンチ、
冷や汗で少し湿った制服、
経血の不快さ、
下腹部の痛み、痛み、眠い、痛い、眠い。
「大丈夫か」
先生の声で、現実が降ってきた。
急に世界の解像度が上がる。
「はい。すいません」
「保健室行くか?」
「いや、ここでいいです」
先生は頷くと離れていった。
さっきより痛みがましになっている。もしかしたら少し寝ていたのかもしれない。
壁の時計を見ると、もうすぐチャイムが鳴る時間だった。
曲げていた膝を伸ばしてみる。
手を閉じたり開いたりしてみる。
自分の感覚を確かめていく。
チャイムが鳴ったら起き上がって、教室まで歩かないといけない。
今から来月の生理が憂鬱だ。




