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恋愛小説【最低の出合い】

作者: 虫松
掲載日:2026/05/07

高校2年、新学期の春。


桜が舞う、ありきたりな始業式の朝のはずだった。


俺は遅刻寸前だった。


「やばっ、初日から遅刻とか人生終わる!」


ペダル全開。


坂道をブレーキ無視で突っ込む。


その瞬間。


「きゃあああああ!!」


正門前、同じく全力疾走してきた一台の自転車。


――運命は、ブレーキをかけなかった。


ドゴォォォォン!!!


正面衝突。

空中でスローモーション。


舞う教科書。

宙を舞うパン。

なぜか飛ぶ上履き。

(あ、これ死んだわ)


次の瞬間――


ぐにっ。

柔らかい感触。


「…………え?」


俺の手。

完全に。

彼女の胸を、がっつりホールドしていた。


静止する世界。


「…………は?」


彼女の目が、ゆっくりと開く。


「…………最低」


その一言と同時に


ゴッ!!


謝ろうと頭を下げた俺と、起き上がろうとした彼女の頭が激突。


二人とも後ろに仰け反る。


「あぶなっ!」


反射的に彼女の腕を掴むつもりが、

なぜか体が勝手に動いた。


「一本背負い!!」


ズドォォォォン!!!


「なんでぇぇぇぇぇぇ!?」


正門前に綺麗な投げ技が決まる。


周囲ざわつく。


「おいあれ柔道部か!?」

「いや違うだろ!?」


「ご、ごめ――」

言いかけた瞬間、

足元のパンを踏む。


ツルッ。


「うわああああああ!!」


倒れ込みながら――


ドゴッ!!


彼女の顔面にエルボー直撃


「ぎゃあああああああ!!」


彼女、完全に絶叫。


俺、パニック。


「ごめんごめんほんとごめん!!」


慌てて立ち上がろうとして――


また滑る。

今度は一直線。


(止まれええええええ!!)


止まらない。


そのまま――

ドンッ!!


弾丸ヘッドバット、彼女のみぞおち直撃。


「……ッッッ!!!!」


声にならない悲鳴。


そのまま崩れ落ちる彼女。

沈黙。

風に舞う桜。


遠くで鳴る始業のチャイム。

完全に終わった。

俺の高校生活。


「……あんた」


地面に倒れたまま、彼女が震える声で言う。


「わざと?」

「違います!!!!!!」


全力否定。

涙目の彼女。

汗だくの俺。


周囲の視線、完全に公開処刑。


「責任、取ってもらうから」


「はい、責任とります」


その一言で、世界が一瞬だけ静まった。

次の瞬間。


「こらぁぁぁぁぁ!!何をやっとるかァァァ!!」


校門の奥から、ジャージ姿の体育教師がダッシュで突っ込んでくる。


笛、爆音。


ピィィィィィィィィ!!!


「事故か!?暴力か!?恋愛トラブルか!?全部かァァァ!!」


「全部じゃないです!!たぶん!!」


「たぶんって何だァ!!」


俺が弁明しようとした瞬間、

彼女がふらりと立ち上がる。


「……大丈夫です」

「どこが大丈夫だァ!!顔にエルボー入ってるぞ!?」


「心が……ちょっとだけ」

「ちょっとだけ!?」


そのとき――

遠くからサイレン。


ウゥゥゥゥゥゥン……


「救急車呼んだやつ誰だァァァ!!」


野次馬の誰かが親指を立てる。

(グッジョブじゃねえよ!!


キキィィィィィッ!!


救急車、校門前に急停車。


担架、展開。

隊員、ガチ顔。


「患者はどこですか!」


「ここです!!多分こっちが加害者です!!」


「違います!!被害者です!!いや両方です!!」


情報がカオス。

先生が頭を抱える。


「整理しろォ!!時系列で話せェ!!」


無理だ。

誰も整理できない。


そんな中――

彼女が、俺の腕を掴んだ。


ぎゅっ。

「……行きます」

「え?」


そのまま、なぜか二人で担架へ。


「なんで俺も!?」


「責任」


「重い!!」


救急車のドアが閉まる。

バタン。

サイレン再起動。


ウゥゥゥゥゥン!!


狭い車内。

揺れる視界。

向かい合う俺と彼女。


酸素マスクを差し出されるが、

なぜか二人とも断る。


気まずい沈黙。

隊員が血圧測ってる横で、

彼女がぽつりと呟く。


「……さっきの」

「はい」

「わざとじゃないよね」

「命かけて違います」


即答。

一拍。


彼女、くすっと笑う。


「だよね。あそこまで下手な人、逆に才能」


「褒めてます?」

「褒めてない」


即答された。


沈黙。

サイレン。

心臓の音。

ドクン、ドクン。


そして――

彼女が、まっすぐ俺を見る。


「ねえ」

「はい」

「責任、取るって言ったよね」

「言いましたけど……」

「じゃあさ」


少しだけ頬を赤くして、

でも目は逃げない。

「付き合って」

「……はい?」


脳が止まる。

隊員も一瞬止まる。

運転手、ミラー越しに見る。


全員フリーズ。

「いや待ってください今の流れでその選択肢あります!?」


「あるよ」

「なんで!?」

「だって――」

彼女は少しだけ笑って、

俺の手をぎゅっと握った。


「こんな最悪な出会い、普通忘れられないでしょ」


ドクン。


「だったらさ」


もう一歩、距離が近づく。


「一番面白い思い出にしようよ」


完全に心臓がやられた。

(あ、これ……)


隊員が小声で言う。

「成功……ですかね」

運転手が頷く。

「伝説だな」

先生の怒鳴り声が遠くに響く。


挿絵(By みてみん)


「お前らァァァ!!学校来いィィィ!!」


でももう聞こえない。


俺は、彼女の手を握り返す。

「……はい」

その一言で、

すべてが決まった。

こうして。


校門前事故、一本背負い、顔面エルボー、弾丸ヘッドバットから始まったこの関係は


後に、


「救急車告白事件」


として語り継がれることになる。


たぶん。

いや絶対。


伝説である。


恋愛小説【最低の出合い伝説へ】完結

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