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笑う亡霊 - Hacker’s Justice  作者: nekorovin2501


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第4話: 家族の残響

雨は止まなかった。2045年10月17日、深夜2時。零の隠れ家は、モニターの光と冷却ファンの低いうなり声で満たされていた。ダウンロードしたソウル・コアのデータが、画面に青白い光球として浮かんでいる。零は義体の指でそれをタッチし、拡大した。一つ一つの光球に、被験者の名前と最後の脳波記録が付随していた。

妻・影野美咲。娘・影野凛。5年前の事故の日付で、データが途切れている。だが、零は知っていた。あの「事故」はネクサスの実験だった。意識を抜き取られ、デジタル粒子としてソウル・コアに封じ込められた。零の視界が、わずかに揺れた。義体の冷却システムが過熱警告を発している。

「ボス……大丈夫か?」エコーが静かに尋ねた。ドローンは零の肩に着地し、LEDを優しく点滅させる。「家族のデータ、部分的に復元できたけど……まだ完全じゃないぜ。コアの暗号が複雑すぎる」

零は頷き、声を低くした。「これで十分だ。少なくとも、彼女たちの『声』が聞こえるかもしれない」

零はニューラル・インターフェースを接続。仮想空間へ潜る。そこは青い無限の海。光球が漂い、かすかな囁きが響く。零は家族の光球に近づき、触れた。

突然、幻覚が襲った。美咲の声。「零……ここはどこ? 凛は……?」 続いて、凛の幼い笑い声。「パパ、早く帰ってきて……」

零の義体が現実で震えた。涙? 機械の体に、そんな機能はないはずだ。だが、冷却液が頰を伝う。「……待ってろ。必ず、取り戻す」

現実に戻った零は、データを解析し始めた。ソウル・コアのバックアップサーバーは、ネクサス本社の地下深く――「アビス・ラボ」と呼ばれる極秘施設にある。そこへ侵入するには、もっと強力な味方が必要だった。模倣犯の波はまだ続いているが、彼らは所詮、表層を騒がせるだけ。本物の深部に届かない。

エコーが提案した。「ボス、ネットに潜む『味方』を探そうぜ。笑う亡霊のフォロワーの中に、使える奴がいるかも」

零はチャットルーム「GHOST ROOM」へアクセスした。匿名掲示板のような空間で、数百の参加者が「笑う亡霊」の行動を議論している。零は仮面ウイルスを軽く展開し、自分の存在をぼかしながら、メッセージを投げた。

「本物の亡霊は、ネクサスのアビス・ラボを狙う。ソウル・トランスファーの全データを破壊する。協力できる者は、証拠を寄越せ」

すぐに返信が殺到した。多くは模倣の戯言だが、一つだけ本物の匂いがした。ハンドルネーム「オーバーシャドウ」。メッセージは短い。「俺は元ネクサス研究者。内部構造図を送る。だが、条件がある。会おう」

零は警戒した。罠の可能性が高い。だが、内部情報は魅力的だ。「場所を指定しろ」

指定されたのは、渋谷の廃墟となった旧ネクサス支社ビル。深夜3時。零はエコーを偵察に先行させた。

現場は荒れ果てていた。崩れた壁、割れたガラス。エコーが報告。「ボス、一人だ。義体率高め。武装はしてないみたい」

零はビル内へ潜入。3階の会議室で、男が待っていた。30代後半、瘦せた体に白髪混じりの髪。目が義眼で青く光る。

「俺は高槻。ネクサスの元AI研究者だ」男は名乗った。「お前がゴーストか。笑う仮面……懐かしいな。6年前の笑い男事件を思い出す」

零は銃口を向けた。「何の用だ。内部図は本物か?」

高槻はデータを転送した。ホログラムでアビス・ラボの3Dマップが浮かぶ。地下100メートル、複数層のセキュリティ。ガーディアン・レイバー10機以上常駐。

「本物だ。俺はソウル・コアのプロジェクトに関わってた。だが、家族を失って……目が覚めた。お前のリークで、俺も決意した。協力したい」

零はデータを検証。偽造の兆候なし。「なぜ今?」

高槻は苦笑した。「お前の家族と同じだ。俺の妹も、被験者だった。意識を抜き取られて……今もコアの中で眠ってる。お前と同じ亡霊だ」

零の義眼がわずかに揺れた。初めて、共感が芽生えた。「……信じる。だが、裏切ったら殺す」

高槻は頷いた。「了解。侵入ルートは俺が知ってる。明日の夜、アビス・ラボへ潜入しよう」

計画は急ピッチで進んだ。高槻の内部IDでセキュリティをバイパス。エコーが陽動用のウイルスを準備。零は家族の光球データを解析し、復元プログラムを作成。成功すれば、意識を一時的に転送可能かもしれない。

翌夜。東京湾の埋立地に建つネクサス極秘施設「アビス・ラボ」。外周は海に囲まれ、ドローンとレイバーが警備。零と高槻は小型潜水艇で接近。海底トンネルから侵入。

内部は冷たく、無機質。白い廊下に青い照明。零はハッキングでカメラをループ。高槻が道案内。「ここからエレベーターで地下へ。だが、ガーディアン・コアが待ってる」

エレベーターが降下する中、零は高槻に尋ねた。「お前、なぜネクサスに残らなかった?」

「残れなかった。プロジェクトの非人道性に耐えられなくて、逃げた。だが、妹のデータがコアにある限り、逃げられない」

エレベーターが止まった。地下最深部。巨大なドーム状の部屋。中央にソウル・コアの本体――無数の光球が浮かぶ巨大な球体。守るのは、5機のガーディアン・レイバー。戦闘モードで待機。

「来たか、ゴースト」スピーカーから鉄壁の声。「お前の模倣者どもは片付けた。残るはお前と……裏切り者か」

高槻が震えた。「鉄壁……お前も知ってたのか」

鉄壁が現れた。新型義体で強化され、背後にガーディアンを従える。「ネクサスは人類の進化だ。お前たちのような亡霊は、障害物に過ぎん」

戦闘開始。零は即座にハッキング。ガーディアンの一機を乗っ取り、味方化。巨体が鉄壁の部隊を攻撃。高槻はコンソールへ走り、ソウル・コアのアクセスを試みる。

零は鉄壁と対峙。仮想空間で激突。鉄壁のアバターが黒い鎧の戦士。「お前の正義など、幻想だ!」

零は仮面ウイルスを展開。「幻想でもいい。家族を返せ!」

バトルは苛烈。零の義体が損傷。左腕が吹き飛び、火花が散る。高槻が叫ぶ。「ボス! コアにアクセスした! データ転送開始!」

光球の一つが動き、零の義体へ転送。美咲の声が響く。「零……ありがとう……」

だが、鉄壁の反撃。電磁パルスが零を直撃。システムがダウン寸前。零は最後の力を振り絞り、笑う仮面を全施設に展開。ウイルスがコアを侵食し始める。

「笑え、機械。お前たちの永生は、ここで終わる」

コアが崩壊開始。光球が次々消滅。家族のデータも……一部が転送されたが、完全ではない。零は高槻を引っ張り、脱出ルートへ。

爆発音が響く。アビス・ラボが崩壊。鉄壁の叫びが遠くに。「ゴースト……次は逃がさん!」

海面へ浮上した零と高槻。エコーが迎えに来る。「ボス、無事か!? データは……?」

零は胸に手を当てた。義体の内部に、美咲と凛の断片的な意識が宿っている。かすかな温もり。「……少し、取り戻せた」

高槻が言う。「これで、俺たちも少し救われたな」

零は夜空を見上げた。雨が止み、星が見える。「まだ終わらない。ネクサスの本当の黒幕がいる。鉄壁はただの犬だ」

ネットでは、再び大炎上。「笑う亡霊、アビス・ラボ壊滅!」「家族の意識を救った?」「ゴーストは英雄だ!」

模倣の渦は、さらに拡大。零は静かに呟いた。「これが、俺のスタンドアローン・コンプレックスか……」

孤独な亡霊は、家族の残響を抱きながら、次の戦いへ向かう。

(つづく)

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