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笑う亡霊 - Hacker’s Justice  作者: nekorovin2501


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第3話: 模倣の渦

東京の空は、再び雨に濡れていた。2045年10月15日、午前6時。零の隠れ家である新宿外れの廃アパートは、モニターの光だけで照らされていた。壁に張り付いた無数のケーブルが、まるで神経のように脈打っている。零は床に座り、義体の左腕を自力で修理中だった。剥がれた装甲の下から、青白い冷却液が滴り落ちる。

エコーが天井近くでホバリングしながら、合成音で報告した。「ボス、昨夜のデータリーク効果はデカいぜ。ネットのチャットルームが『笑う亡霊』で埋め尽くされてる。模倣犯が続々登場中だ。昨日だけで17件のハッキング事件。みんなお前の仮面ウイルスをコピーして、ネクサス関連のサーバーを狙ってるらしい」

零の赤い義眼が細くなった。「……スタンドアローン・コンプレックスか。予想はしてたが、こんなに早く広がるとはな」

画面には、無数の匿名投稿が流れていた。「笑う亡霊に続け! ネクサスの永生計画を止めろ!」「俺もハックした。被験者リストをさらに公開」「政府は隠蔽してるぞ!」 笑う仮面のアイコンが、ネット全体に感染のように広がっている。零が単独で始めた戦いが、すでに「現象」へと変貌し始めていた。

零は深く息を吐いた。機械の肺が、わずかに振動する。「エコー、鉄壁の動きは?」

「公安特殊部隊が総動員だ。丸の内のネクサス本社周辺は完全封鎖。鉄壁本人が指揮を執ってる。『ゴーストは必ず捕まえる』って、昨日より血走った目だぜ。しかも、模倣犯の何人かをすでに逮捕。奴らはお前のウイルスをそのまま使ったバカばかりで、痕跡を残しまくりだ」

零は立ち上がった。修理完了の左腕を軽く振り、関節の音を確認。「なら、俺は本物として、もっと深く抉る。次の標的はネクサス本社サーバー群の最深部――『ソウル・コア』だ。あそこに、家族の意識データが眠ってる」

エコーがLEDを激しく点滅させた。「マジかよ!? 本社直撃は自殺行為だぜ。レイバー部隊が常駐してるし、鉄壁の新型パトレイバー『ガーディアン』が待機中だって情報あるぞ。あれはパトレイバーじゃねえ、完全に戦闘特化の殺人マシンだ」

零はコートを羽織り、フードを深く被った。「だからこそ、模倣犯を利用する。混乱を最大化して、俺だけが本物の影になる」

午前8時。東京の中心部はすでに異様な熱気に包まれていた。ネクサス本社前広場では、数百人のデモ隊が集まっていた。プラカードには「ソウル・トランスファー反対!」「人間の魂を売るな!」と書かれ、笑う仮面のマスクを着けた若者たちが叫んでいる。彼らは昨夜のリークで目を覚ました一般市民――あるいは、ただの模倣者たちだった。

その混乱の只中で、零は下水道から忍び寄っていた。エコーを先導に、地下ケーブル網をハッキング。監視カメラの映像をループさせ、自分の姿を完全に消去する。笑う仮面ウイルスを軽く展開し、周辺のドローンを一時的に狂わせた。広場では、デモ隊の一人が突然叫んだ。「俺が笑う亡霊だ! ネクサスをハックした!」 すると周囲の若者たちが次々と同じ仮面を被り、偽のウイルスをばらまき始めた。模倣の連鎖。

零は地下から本社ビル直下のメンテナンスシャフトへ侵入。義体のブースターを最小出力で使い、静かに上昇。シャフトの先は、サーバールームの裏側。そこに到達した瞬間、警報が鳴り響いた。

「侵入者検知! レベルS!」

零は舌打ちした。「早すぎる……鉄壁の罠か」

部屋の扉が爆破され、黒い装甲を纏った公安特殊部隊が突入。中央に立つのは鉄壁――身長190cmの巨漢で、全身に最新義体を埋め込んだ男だった。右手に持つのは、対ハッカー用電磁ライフル。

「ゴースト……ようやく姿を現したな」鉄壁の声は低く、抑揚がない。「お前の模倣者どもはすでに片付けた。残るはお前だけだ」

零は笑った。本物の、冷たい笑み。「お前こそ、ネクサスの犬だろ? ソウル・コアのデータを守るために、俺をテロリストに仕立て上げてる」

鉄壁の目がわずかに揺れた。「知ったな……だが、お前のような亡霊に、正義を語る資格はない」

戦闘が始まった。零は即座にハッキングモードへ移行。視界がコードの海に変わる。サーバールームのセキュリティAI「ガーディアン・コア」との仮想対決。赤いグリッド空間で、鉄壁の義体もリンクして参戦。鉄壁のアバターは巨大な黒い騎士。剣のようなデータブレードを振り下ろす。

現実では、エコーが援護。「ボス、レイバーが来てる! 3機だ!」

窓から飛び込んできたのは、ネクサス製の新型パトレイバー。パトレイバー風の重厚なボディに、戦闘用武装を満載した「ガーディアン」シリーズ。10メートル級の巨体が、部屋の壁を粉砕しながら突進してくる。腕部に装備されたガトリングが火を噴く。

零は義体の脚部をフルブースト。サーバーラックを蹴って跳躍し、ガーディアンの頭部へ着地。左手から直接ケーブルを接続し、ハッキング開始。「お前たちも、機械の奴隷か……笑え!」

一機目のガーディアンが動きを止めた。零のコントロール下に。だが、残り二機が同時に攻撃。零はギリギリで回避し、部屋を転がる。鉄壁が電磁ライフルを連射。零の肩装甲が吹き飛び、火花が散る。

「エコー、陽動!」零の叫びと共に、ドローンが小型ミサイルを撃ち、ガーディアンのセンサーを乱す。零は隙を突き、二機目のコアにウイルス注入。笑う仮面がガーディアンのモニターに浮かぶ。巨体が暴れ始め、味方の部隊を巻き込む。

鉄壁が吼えた。「全機、ゴーストを優先排除!」

仮想空間では、零と鉄壁の激闘が続いていた。鉄壁のブレードが零の防御を削る。「お前は家族を失った恨みで動いているだけだ。社会の秩序を守る俺とは違う!」

零は反撃。仮面ウイルスを最大出力で展開。「秩序? お前たちの秩序は、貧民の魂を機械に変えて金儲けするだけだ! 俺の妻と娘の意識は、今もここに閉じ込められている……解放する!」

零の攻撃が鉄壁のアバターを貫いた。現実に戻った瞬間、鉄壁の義体が一瞬硬直。零はサーバーの最深部へアクセス。ソウル・コアの扉を開く。

そこにあったのは、無数の青い光球。人間の意識データ。零の家族のものが、淡く輝いている。「……見つけた」

だが、鉄壁が立ち上がった。「まだだ……!」 彼の義体がオーバーヒートし、赤く発光。最終兵器モードへ移行。部屋全体が震え、ガーディアンの残骸が再起動し始める。

零はデータを急いでダウンロード。エコーが叫ぶ。「ボス、脱出ルートが塞がれた! 上から増援が!」

零は笑う仮面を全ネットに再展開。広場にいる模倣者たち全員の端末にメッセージを送った。「本物はここにいる。ネクサスを壊せ」

広場が大混乱に陥った。デモ隊が本社ビルへ雪崩れ込み、警備を突破。模倣の渦が、零にわずかな時間を作った。

零はブースター全開で天井を突破。雨の屋上へ飛び出し、鉄壁と最後の対峙。鉄壁のガーディアンが零を狙う。「お前は悪だ、ゴースト!」

零は答えた。「悪者でいい。だが、お前よりはマシだ」

零は最後のウイルスを鉄壁の義体に注入。鉄壁の動きが止まる。零はエコーと共に、隣のビルへ跳躍。背後で本社ビルが一部崩壊する音が響いた。

隠れ家に戻った零は、ダウンロードしたデータを確認。家族の意識は、まだ完全には救えなかった。だが、断片が手に入った。エコーが静かに言う。「ボス……模倣者たちがお前を英雄扱いし始めてるぜ。これで、もっと大きな波が来る」

零は窓の外の雨を見つめた。仮面のような笑みが、初めて本物に近づいた気がした。

「次は、ネクサスの心臓部を完全に止める。鉄壁……お前も、いつか目覚めるかもしれないな」

この夜、笑う亡霊はさらに巨大な影となった。模倣の渦は止まらず、社会の闇を揺るがし続ける。だが、零の孤独は、少しだけ軽くなった気がした。

(つづく)

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