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『毎晩同じ夢を見る理由』

作者: 弓庭柔悟
掲載日:2026/02/12

毎晩、同じ夢を見る。

内容は決まっている。

夜の道を、私は一人で歩いている。

街灯は少なく、空気は妙に静かだ。

前方に、横断歩道が見える。

白いライン。

信号は、赤。

私は立ち止まる。

――そこで、必ず目が覚める。

最初は、よくある夢だと思っていた。

疲れているだけ。ストレスのせい。

でも、それが一週間、二週間と続くと、

さすがに気味が悪くなってくる。

夢の中の道は、少しずつ鮮明になっていた。

三日目には、

近くにコンビニがあることに気づいた。

五日目には、

自販機の配置まで分かるようになった。

一週間後には、

その場所が「知っている場所」だと、はっきり分かった。

――家の近所。

「……なんで?」

現実では、何度も通っている道なのに、

夢の中では、決して横断歩道を渡らない。

赤信号のまま、時間だけが流れる。

ある晩、夢の中で、音が加わった。

ブーン……。

エンジン音。

遠くから、車が近づいてくる。

私は、なぜか恐怖を覚えた。

「早く、青になって」

そう思った瞬間、目が覚める。

心臓が、早鐘を打っていた。

次の日、信号のことを調べた。

夢に出てくる横断歩道。

現実でも、事故が多いことで知られている場所だった。

三年前、

夜中に歩行者がはねられて、亡くなっている。

年齢も、性別も、非公開。

「偶然だよな……」

そう思おうとした。

でも、その夜の夢で、

私は初めて“渡ろう”とした。

赤信号なのに、足が勝手に動く。

一歩、前へ。

クラクション。

強烈なライト。

そこで、目が覚めた。

汗で、シーツが湿っている。

翌朝、

私は夢の続きを考えていた。

――もし、渡っていたら?

昼休み、気になって調べる。

事故の記事。

ようやく、古い掲示板に行き着いた。

そこには、こんな書き込みがあった。

夜中、赤信号を待っていたらしい

目撃者の話では、

ずっと信号を見て立ち止まっていたとか

胸が、ざわつく。

その夜の夢。

私は、横断歩道の前に立っている。

信号は、赤。

でも今夜は、

背後から声がした。

「……まだ、渡らないの?」

振り返ると、誰もいない。

「大丈夫だよ」

「いつも、ここで止まるよね」

その声は、

自分のものだった。

私は、ゆっくり気づく。

夢じゃない。

これは、

記憶の再生だ。

毎晩、同じ夢を見る理由。

それは、

私はまだ、

この横断歩道を渡りきっていないから。

翌朝、私は目を覚まさなかった。

正確には――

目を覚ました人が、私であり私じゃなかった。

病院の廊下で、

医者が家族に言っている。

「脳は生きています」

「まだ意識は戻りません」

信号は、まだ赤だ。

青になるのは、

家族が、横断歩道の向こう側に来たとき。


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