8.推しのいる円盤鑑賞会
プレーヤーがディスクを読み込み始め、画面にオープニングが流れる。
心臓がドキドキする。
ライブ前の高揚感が、蘇る。
歓声があがって、紹介映像。
いつも凝ってて好き。
もちろん、最初に奏。
「くぅぅーーーっ、カッコイイ……」
堪えきれずに本音が漏れる。
抱えたクッションに顔を埋める。
「ねぇ……」
まだ始まったばっかりなのに!
興奮がおさまらない。
「……ねぇ」
だからなのか、私は隣の奏の声をたぶん、ずっと聞き逃していた。
「ねぇ、夕莉?」
少し大きめの声が、隣から聞こえて、私はハッとして目を向ける。
奏の灰色の瞳がいつもの調子でこちらを見ている。
……やば。
瞬間的にそう悟る。
「ねぇ、今日もいい表情してるよ?」
「っっっ!」
もう!
また言葉にならない。
奏は確信犯でやってるよね?
何がそんなに楽しいのよ!!
「奏ぇ……」
真っ赤になったままの私を見て、奏は満足そう。
その顔はいつものいたずらっこな奏。
アーティストな顔は微塵も残ってない。
「ほら、一曲目、始まるよ?」
奏が画面を指差す。
「デビュー曲」
奏の眼差しに鋭さが走る。
奏も思い入れ、あるんだ……。
ちょっと嬉しくなる。
奏はちょっとだけ鼻歌混じりに画面を楽しそうに見ていた。
ふふっと思わず笑みが零れた。
――奏も楽しそうで良かった
再び画面に注視。
一曲目は終わり、二曲目に入っている。
私は手元のクッションを握りしめた。
「夕莉はこの時ここにいたの?」
「うん、スタンド席にいた」
この辺かな、ってところを指差す。
「そっか……スタンド席ってさ、意外とステージからも見えてるんだよ?」
「へぇー、そうなんだ」
改めて、ステージ上の奏を見る。
思ってるよりも、近いのかな?ステージって。
そんな感想を持つ。
画面の向こう、奏が歌ってる。
その姿だけで、尊い。
歌声だけで、心が揺り動かされる。
感情が込み上げて、涙が滲んでくる。
浸っていると、また奏が話しかけてくる。
「夕莉は……この曲好き?」
「……好き」
「これ、俺が作った曲だよ?」
「知ってる……」
「俺の曲、好き?」
「…………全部好き」
奏の顔が見れないけど。
彼が笑ってるのはわかった。
画面の中の奏のMCが始まる。
すると、その声に合わせて、全く同じ言葉が、部屋の中から聞こえる。
『今日は来てくれてありがとう!デビュー十年を記念したツアーも今日で最後です。今までの想いも、これからの未来も全部詰め込んで、精一杯届けます!』
私は思わず奏を振り返った。
一言一句、同じ言葉だった。
奏はニヤッと笑ってる。
またいたずらっぽい笑顔。
やばい……意識飛びそう。
なんてことしてくれるの?
「夕莉、カオ!」
奏が自分のほっぺを指さしながら言う。
私、今どんな表情してるの……。
頬を両手て抑える。
「もうっ、からかってばっかり!」
私はつい言い返してしまった。
奏は楽しそうに笑ってる。
「だってさ、そんな顔されたらさ、俺も嬉しいよ?」
「ーーーーっっっっ!!!?」
もう、いろんな感情がカオスだ。
奏のあざとさ!!
無自覚なの!?
いや、自覚してるよね!?
でも……そんなとこも……好きなんだけど。
クッションに顔を埋めて悶える私に奏は楽しそうに声をかける。
「ほら、アンコール始まるよ?」
はい、見ます見ます!
私はゆっくり顔を上げる。
画面の中では、アンコール衣装に着替えたNOCTISがステージに戻ってきていた。
スーツを基調として、ロック調にアレンジされた衣装。
キリッとした印象がいつもの感じとちょっと違ってる。
「このアンコールの衣装、カッコよかったよね!」
奏、めっちゃ似合ってた。
メンバーの中で一番!
「ふふ、気に入ってくれた?」
「うん!また着て欲しい!」
アンコールはあっという間だ。
ライブの終わりはやっぱり寂しくなる。
でも、同時に満足感に満たされる。
それはライブDVDでも、一緒だ。
何とも言えない、いろんな感情で円盤鑑賞は終了した。
「あぁぁぁぁ、幸せ……」
いつもの言葉が零れる。
顔の前で両手を合わせて、思わず祈りの姿勢。
はぁぁぁーっと溜め息。
でも、その溜め息は幸せの象徴だ。
「もぅー、今なら死んでもいぃー」
思わず漏れた言葉に、奏はすぐに反応する。
「死んじゃったら、次のライブ来れないよ?」
「…………知ってる」
私はクッションを抱えたまま、床にごろんと寝転がる。
奏がテーブルの上からそれを見下ろす。
「夕莉」
「ん?」
奏の唇の端がニヤッと持ち上がる。
「夕莉がドレだけ俺のこと好きなのか、ちゃんと見れたよ?」
っっっ。
奏はどれだけ人のこと煽れば気が済むのっ!!??
未だに慣れない奏の煽りに私の顔面はまたしても真っ赤だ。
……というか、なんで推しの円盤鑑賞会に、推し本人がいるのっっ!?




