7.推しとの距離感
今日は休み!!
有給を取った日だ。
なぜなら――去年のアリーナツアーのライブDVDが発売する日だから!!
公式サイトで購入したから前日に届いてるし、ボリューム満点!特典映像も満載!
あの最新のライブの記憶が、いつでも見れる!!
楽しみすぎる!!
……ただ、唯一の気がかりは奏、なんだけど……。
聞いてみても、たぶん一緒に見るよって言うと思うし。
今更……か?
この前、TVにかじりついた様子見られてるし。
でも、ライブDVDはまた違うんだよね。
没頭……しちゃうから。
奏、なんて思うかな?
気にしすぎ?
うん、奏は気にしなさそう。
私はカッターナイフ片手にそーっとダンボールに切り込みを入れる。
中から公式サイト限定、初回限定盤の大きめのパッケージのBlu-rayが現れる。
表紙を見ただけでドキドキする。
新しい匂い。
この、新品開ける瞬間、好きなんだよね。
薄いビニールにも慎重にカッターで切り込みを入れ、丁寧に剥ぐ。
中からBlu-rayディスクを取り出し、プレーヤーに入れる。
プレーヤーが読み込みを始め、くるくる回る。
このちょっとの時間も待ち切れないほど、ソワソワする。
ぱっと画面にチャプター画面が現れると、思わず顔が綻んだ。
至近距離で見たい気持ちもあるけど、近すぎても理性崩壊しちゃうから、少しだけ離れる。
でも、いつもよりはちょっと近い場所。
ちょっとだけ緊張しなかわら、正座して座り、再生ボタンを押す。
――その時
「そんなに緊張する?」
後から奏の声が聞こえた。
「ひゃぁあっっ!?」
思わず悲鳴があがる。
つい、いつもの儀式に冒頭し過ぎて、奏の存在忘れてた……。
いつもの場所からテーブルに移動してきた奏が、くすくす笑ってる。
「何?その悲鳴」
「ごめん、存在忘れてた……」
正直に言う。
「夕莉、酷いね」
そう返す奏は本当にそうは思っていなさそうだ。
呆れたように笑っている。
「うん、ごめんね」
だからかな、素直に謝れる。
「そんなに楽しみにしてた?」
奏はいつものあざと顔だ。
「もちろん!!」
私は食い気味に答えて、奏に詰め寄る。
「デビュー十周年の記念ライブだよっ!!セトリも衣装もいつもより気合い入ってて!!初期ファンにも刺さる懐かしい曲もいっぱいあったし!!何より今回、ファイナル2DAYS両方参戦出来たの!!」
まくしたてるように言ってしまってから、あ、と気づく。
何、本人に力説してるの、私。
ちょっとだけ、自分に引いてしまう。
奏はいつものようにニヤニヤしながら聞いてるかと思いきや、優しい笑みで嬉しそうにしていた。
どきん、と胸が鳴る。
不意打ち……。
「そっか、そんなに楽しんでくれたなら、良かった」
その顔は私が知ってたアーティストの顔だった。
大好きだったはずのその顔が、今はちょっとだけ遠く感じる。
「……うん、毎回、楽しいよ……」
うちの奏に、素直に言えたのは初めてかも知れない。
「そっか、なら俺達も頑張った甲斐があるね」
また、遠い。
胸の奥で苦い感情が広がっている気がした。
なんで……?
「夕莉?」
私はそんなに落ち込んだ顔を見せていたのだろうか。
奏の心配そうな声が聞こえた。
そんな自分の違和感なんて振り払うように、首をぶんぶんと振り回し、顔を上げる。
いつもと違うちょっと眉の下がった心配顔。
作り物のはずなのに、感情の宿った灰色の瞳が見ている。
「再生するよ!?」
私は、無理矢理話題を変えた。
奏はそれに気づいたようだったけど、しらないフリをしてくれた。
「そうだね」
私はちょっとだけ震える手でプレーヤーの再生ボタンを押した。




