37.推しの夢は今日も見てね?
「夕莉、昨日の夜、どんな夢見てたんだ?」
もう、寝る準備も終え、あとはベッドに入るだけ、というところで、奏が急に問いかけた。
「え?」
私はそのまま固まった。
「……」
無言で奏を見る。
奏は首を傾げてこちらを見返していた。
「昨日さ、夜中に急に大声あげただろ?」
追求してくる。
「……」
私は無言を続ける。
思い出すだけで、顔が火照る。
口になんて……出せるか……。
奏の目が、スッと細められる。
ヤバい。
スイッチ入ったかも……。
最近はそれがわかるようになってしまった。
いや、まぁ、奏のスイッチ、わかりやすいんだけどさ。
「なぁ?」
煽るような目つきで私を見上げる。
相変わらず、この顔に弱い……。
ごくっと、喉が鳴る。
「夕莉さぁ、あの後寝言言ってたからな?」
「えっ!嘘っ!?」
にやっと奏の唇の端があがる。
「『奏、近い』って」
「ぎゃーーっっ!!」
私はその言葉を遮るように大声をあげ、手元にあったクッションを投げた。
奏は難なくひょいっと避けて、私を見る。
「やっぱり、俺の夢、見てた?」
楽しそうに笑う奏。
ヤバい、ヤバいって!
思い出しちゃう。昨日の夢。
等身大の奏が……。
「うわぁぁぁぁーー!!」
私は耐えきれなくなり、ベッドに顔を突っ伏した。
「夕莉……?」
奏が引いている……。
「無理無理無理無理」
私は布団に向かって叫ぶ。
呆れたような溜め息が、後ろから聞こえる。
「どんな夢見たんだよ……」
キッと奏に目を向ける。
「あなたのせいでしょっ!!」
「なんで、俺のせいだよ?」
「あなたの距離近いからっ」
うーっと唸りをあげて、奏を見る。
「んなこと言われてもな」
奏は右手で頭を抑えながら、息を吐く。
それから、また、私を見て、
「だからさ、どんな夢見たんだよ?」
忘れていないらしい。
「……奏が……」
「俺が?」
「……等身大になってて……」
「等身大になって?」
「……わ、私を……」
「夕莉を?」
「……て、手でふわって包んで……」
「包んで?」
「……ぎゅっ、って」
「ぎゅっ、って?」
沈黙。
私は耳まで熱い。
顔が火照りすぎて、もう、涙出そう。
「?」
なのに、奏は不思議そうに首を傾げて、続きを待っている。
「……で?」
促すように奏が聞く。
……が、続きなんてない。それだけだ。
それだけでも、私には刺激が強い。
奏の表情が、真顔に変わっていく。
「……え、それだけ?」
拍子抜けのように奏は言った。
「そこで目が覚めた……」
私はベッドに顔を埋めながら、答える。
くすっと奏の笑う声が聞こえた。
「なんだよっ?夕莉、そんな真っ赤になるからさ、もっとすげぇ夢見たんだと思った」
「いやいやいや、十分でしょっ!?」
奏はにやっとして、また煽るように私を見る。
「夕莉は純粋だな……」
「悪かったわね……」
奏が近寄る。
テーブルから、ベッドの上。
私の目の前に。
「な、な、なんで近寄んのよっ!?」
私は慌てて起き上がり、後ずさる。
「夕莉こそ、なんで逃げんだよ?」
奏はベッドの端に座りつまらなそうに肘をついた。
「だからっ、近いって!」
ふふっと奏は笑う。
「近づいてんだからそうだろ?」
……奏が何考えてるか、わからない。
いつものようにからかってるだけ?
パンッと私は自分の頬を両手で叩く。
「もう、寝る!!」
そうして私は、ひょいっと奏を乗り越えてベッドに乗る。
布団に潜り込み、
「おやすみっ」
そう言って布団を被る。
「今日も俺の夢、見んの?」
奏の声が聞こえる。
私は目だけを布団から出す。
奏がまた、目の前まで来ていた。
「見ないっ」
そう答えて、また布団を被る。
枕元からはクスクス笑う声が聞こえた。
もうっ!
私は心の中で悪態をつく。
手だけを出して電気を消す。
少しだけ静かになる。
しかし、そっと奏が布団の上を歩く気配がした。
そーっと目を開けると、奏が私の枕の上に横になっていた。
「っ……!?!?!?!?」
私は声にならない悲鳴をあげる。
「夕莉、うるさい」
「うるさい……ってなんでここで寝るのよ?」
「夕莉が今日も、俺の夢見られるように」
眠そうな声で奏は答える。
ポンポンっと私の額を撫でて、奏はそのまま眠ってしまった。
なんて男なの……こいつ。
そう思いつつも、奏をどかすことは出来なかった。
私は目を閉じて、無理矢理寝ようとする。
しかし……。
……寝れるかっ!!




