36.推しの夢
「ただいまー」
私はいつものように玄関ドアを開ける。
「?」
いつも出迎える奏がいない。
「あれー?奏いないの?」
そう言いながら、ひょいとリビングを覗くと。
「!?!?」
私は声にならない悲鳴をあげる。
ビクッと震えた体は、そのまま動かない。
「な、な、なんでぇーーっ!?」
私の目線の先には、等身大の奏がいた。
「おかえり、夕莉」
……破壊力、抜群。
頭がくらくらする。
え、ちょっと待って。
これ、うちの奏?本物?
でも、名前呼んでたな、いつも通り。
「どうした?夕莉」
立ち上がった奏が、近寄ってくる。
「え?」
近い近い近い近い近い。
でも、私の足は動けない。
足どころか、体中がピシっとなって緊張しすぎて、動かせない。
ふわっと奏の両手が私を包む。
「夕莉、寂しかった……」
「……っっっっ!?!?!?」
脳まで沸騰しそうな勢いで血が登っていく。
パニックになる頭と心臓をよそに、顔がにやけちゃう。
「わぁーーーーっ!!」
ぱっ、と目が開く。
心臓が、ドクドクいってる。
息があがってる。
「……ゆ、ゆめ?」
はぁーっと深く息を吸って、吐く。
目の前で眠ってる奏が、もそっと起き上がる。
「……ん……夕莉、うるさい……」
「あ、ごめん、まだ寝てていいよ」
私がそう言うと、奏はまた眠り始める。
……こっちが、現実だ。
いつもと同じサイズの奏に私はほっとする。
……な、なんなの?あの夢。やたらリアルだった。
私、欲求不満か、なんかなのか。
ゔーっと唸って布団に潜り込む。
恥ずかし過ぎる。
恥ずかし過ぎる……けど。
……にやにや止まらないよ。
また、心臓が激しく鼓動する。
『寂しかった……』
そんなこと、奏は絶対言わないでしょ!?
そう、奏なら、少し不機嫌になって顔をそらしながら、
「遅かった」
って一言。
その光景を想像して、更に耳まで赤くなる。
「……やば」
ちょっとだけ布団から顔を出して、枕元の奏を見る。
すやすやと眠る奏。
「このサイズ、安心する」
思わず零れる。
その後はあまり眠れず、朝まで奏を見つめていた。




