34.推しの区別
今日は葵さんとカフェで推し語り中だ。
次のライブの計画も兼ねている。
「次のライブも楽しみだね!」
「マジで!!当たって良かったぁー!!」
私は両手をあげて、喜ぶ。
「席、期待しちゃうよね?」
フフっと葵さんが不敵な笑みを浮かべる。
「それな、毎回期待して、撃沈」
「「ねー!!」」
二人揃って爆笑。
「でもさ、ステージから客席って意外とよく見えるんだって」
そう言ってから、私は止まった。
葵さんが、少し不思議そうな顔で見ている。
「え、そんなの誰から聞いたの?」
ヤバっ。
私は焦って瞬きを繰り返し、誤魔化そうとする。
「あ、前に……奏がインタビューかなんかでっ」
「ふぅーん?」
不審そう……。
「よく言うしね!」
私はゴリ押しして話を締めた。
「この前のさ、NOCTISの十周年特集も見た!?」
「見た見たー!」
「「あれ、良かったぁー」」
また声が被る。
「デビュー当時の映像良かったね」
うんうんと頷く私。
「奏、尖ってた!」
葵さんが指差す。
「それな」
「……でもさ、あれ、ただ必死だっただけなんだって」
ふぅっと思い出しながら、しみじみ言うと、葵さんはまた不審な表情を浮かべた。
「夕莉?そんなことインタビューで言ってた?」
はっとする。
これ、フィギュアの奏が言ってたことだった……。
「ど、どこで聞いたんだったかなぁ……」
頭を掻きながら誤魔化すが、葵さんの目はまだ不審そうに見ている。
ヤバい。
本物と、家にいる奏の言ってることが、区別なくなってきてる……。
と言うか、どっちも奏ではあるんだけどさ。
「夕莉さぁ……実は奏に会ったとかじゃないよね……?」
葵さんが小声になる。
ある意味、合ってる。
合ってるけどっ。
「そんな漫画みたいなことあるわけないじゃん!!」
必死で否定する。
「まぁ……そうだろうけど」
それでも納得いかないように、葵さんは私を見てる。
「最近、疲れてんのかなぁ……」
私はわざとらしく、頭を抑える。
「生き生きしてるけど?」
葵さんに突っ込まれる。
「……」
もう、言い訳も出ません。
葵さんは腕を組んで私をじーっと見ている。
「じゃあさ、他、なんか言ってた?朔推しが知らないこと」
「えっ?何それ?」
「いいから」
私は頭の中でぐるぐると考え始める。
最近、本物が言ってたこと?
あれ?家の奏だっけ?
「怪しい……」
葵さんが目が細めて、私を見る。
「か、奏のインタビュー発言は意外と朔脚本だった、とか……」
ピタッっと止まる葵さんの動き。
「それ、どこ情報?」
ヤバっ、朔の名前出したのはまずかった。
「えっ、なんだったっけ?」
「夕莉?」
「いや、違うの」
「何が?」
めちゃくちゃ問い詰められる。
「あのっ、えっと」
言葉が何も出ない。
葵さんの目が、おそらく確信に変わっている。
「……ホントに、実は奏本人に会った、とかないよね?」
「ないないないない!」
私は激しく首を振った。
それは嘘じゃない。
「最近、妄想はげしくてっ」
一瞬、間があって。
ぷっと葵さんが吹き出す。
「何それ?」
可笑しそうに笑っている。
「最近、夕莉がおかしいのとおんなじ理由?」
「いや、そういうワケじゃないんだけど……」
口ごもる私に葵さんは溜め息をつく。
「前も言ったけどさ、なんかあったら言ってね?」
「……うん」
私は笑って誤魔化す。
「……夕莉の、妄想っ……」
こらえきれずに、葵さんがまた笑いだす。
「ちょっとっ、酷くない?」
私も笑う。
なんとか、なったみたいだ。
でも、危険だ。
私の中で本物の奏とフィギュアの奏との区別が、曖昧になっている。
どうしよう……。




