26.推しの人気投票鑑賞会③―総合人気投票部門―
残すは総合人気投票のみ。
ま、私は奏が一位だって信じてるけどね。
二人で画面を食い入るように見る。
この部門も四位からの発表だ。
つまり、最下位。
「やっぱ、最下位からだね」
「そりゃ、そうでしょう」
私たちは顔を見合わせる。
「「最下位は陽」」
声が合わさる。
それから、大笑い。
「毎度だもんね」
「かわいそうだけどね」
笑って言い合っているうちに、四位が発表される。
予想通り、四位は陽だった。
絶叫をあげる陽。
「やっぱりね……」
でも、コメントはファンの愛が溢れてる。
「『NOCTISの太陽』は秀逸コメントだね」
「ホント」
陽も納得したように、ファンへのコメントを話している。
そして、次……。
『三位は、月城朔』
その発表と共に、今度は葵さんの絶叫が響き渡る。
「ええぇぇぇーーっっっ!!!」
がっくりと肩を落として、床に突っ伏す。
「今年も朔三位かぁーっ」
「まぁまぁ」
私は葵さんの肩に手を乗せながら、なだめる。
画面の中で朔へのコメントが始まると、葵さんはガバッと起き上がり、注視する。
立ち直りも、早い。
朔へのファンコメントをあげる葵さんは、うんうん頷きながら、見ている。
『NOCTISを支える土台』
「もちろん!」
『朔がいなかったら、NOCTISは続かない』
「朔の仕事量なめんな!」
『NOCTISへの愛が一番深い』
「それが朔の存在!」
『他三人を締める時のあの冷たくて冷静な目に萌える』
「あの目が朔の魅力ぅーっ!!あの目で刺されたい!」
少し、うるさいけど……面白い。
「夕莉はわかってくれるよねっ」
ははっと私は苦笑い。
「わかるはわかるけど……」
私は奏一択なので。
画面から、奏の声が聞こえる。
『素直に喜べよ、朔いなかったら、バンド回んねぇの、皆わかってんだから』
奏のひとことで、朔が嬉しそうにしている。
私もちょっと嬉しい。
「やっぱり、朔×奏ぇーっ!!」
さらに絶叫する葵さん。
まだ引っ張るのか、それ。
それから、朔からファンへのコメント。
葵さんは、正座し直して見ている。
朔らしい真面目なコメント。
言ったことは必ず実行するからなぁ、朔は。
きっと、この言葉も着実に実現していくんだろう。
「朔ぅぅーっ」
葵さんは手を胸の前で合わせて、祈るように朔のコメントを聞いていた。
朔が定位置に戻ると、葵さんはようやく落ち着いたようだ。
「やっぱり、今年も順位、変わらずかぁ」
ボソッと葵さんがぼやく。
「まだ、わかんないんじゃない?」
私の言葉に葵さんはピタッと動きを止めて、私を見た。
「……思ってないでしょ、ホントは」
あ、冷たい目。
「そ、そんなこと……ない、けど?」
答えるけど、説得力はない。
そりゃあ、私は奏推しなのでね。
一位は望むからね。
ふっと笑って葵さんは、視線をTVに向けた。
発表は、二位。
二位は……やはり、凪だった。
「やっぱ凪だね」
葵さんが言う。
「……ってことは……」
私は思わず笑顔になる。
「「一位は奏」」
またシンクロする。
私は両手をあげて喜ぶ。
「やっぱり一位じゃん」
葵さんは呆れたように言った。
「九年連続一位っっ!!」
浮かれた私は大声で言った。
「崩れないねぇ、奏人気」
「ふふっ」
ランキング発表は一位に移り、もちろん、結果は。
『NOCTIS人気投票、総合一位は……夜宮奏』
朔が読み上げる。
私の心は飛び跳ねるように高揚する。
私は改めて大声をあげて、歓喜。
「奏おめでとうっっ!!」
パチパチパチ、と申し訳程度の拍手を葵さんがしていた。
しかし、画面の中の奏はあまり嬉しそうには見えなかった。
怠そうにくす玉の紐を引っ張り、呆れたように見ている。
奏は、嬉しくないのかな……?
ファンとしては、複雑だ。
あとで、奏に聞いてみよ……。
私は不意にそんな思考になり、ハッとして首を振った。
あれ?おかしい?
そんな思考が浮かんだ時、画面から聞こえたファンコメント。
『奏の存在に一目惚れした』
心臓が跳ね上がる。
手が、震える。
「あ、あ、葵さん……」
声も震える。
「ん?どした?」
葵さんが不思議そうに振り返る。
「こ、このコメント、私のコメント!!」
「えっ!?」
葵さんも目を丸くして画面を見る。
「きゃぁーーっっ」
私は葵さんに抱きついた。
「奏が私のコメント、聞いてくれてるっ!!」
「すごいっすごいね、夕莉っ!!」
葵さんも興奮している。
私は興奮どころじゃない。
頭に血が登って、舞い上がってる。
奏からのファンへのコメントが始まりそうになり、私はようやく、息を落ち着かせる。
『たくさん投票してくれたノクティアの皆さん、ありがとうごさいます。夜宮奏です』
奏の声が聞こえると、私は黙って画面を見つめる。
『正直、順位とか興味ないけど……』
少しだけ、挑発的な笑み。
ドキッとする。
あ、いつもの奏と同じ顔……。
『一目惚れした、とか、世界が変わるとか言われると……』
ニヤッと笑う奏。
それも、いつもの。
『覚悟できるよな?』
ヤバい、ヤバすぎるっ!
めまいがするほどの萌え。
画面越しなのに、顔が真っ赤になるのがわかる。
そして、トドメ。
『俺は生きてる限りステージに立つから、ちゃんとついてこいよ?』
私はにやにやする顔を手で覆った。
もう、顔面崩壊するっ。
葵さんの溜め息が聞こえる。
「相変わらず、奏は気障ね……」
「……そこがいいの……」
私は小声で返す。
ふっと葵さんは笑った。
『それでは、ここまで長い時間、ありがとうございました』
動画は締めに入っている。
最後の挨拶と告知で終了だ。
画面に『NOCTIS』ロゴが移り、エンディングの音楽が流れる。
私と葵さんはしばらく余韻に浸って、その画面を見つめていた。
「今回も充実してた……」
そう言ったのは私だ。
「そりゃ、奏ファンはね」
ふふっと笑って私は返す。
「でも、朔パートも良かったでしょ?」
葵さんは、まんざらでもなさそうに笑った。
「でもさ、夕莉のコメント読まれたの、凄かったね」
「ホント、それ!!」
私たちはもうひと盛り上がりする。
しばらく、二人の楽しい会話が続く。
それから、ふと時計を見た葵さんが、名残惜しそうに溜め息を吐いた。
「もう、こんな時間!明日も仕事だし、帰ろっかな」
私も時計を見て驚く。
推し話は、あっという間。
「ホントは夜通し語りたいんだけどね」
そう言って、葵さんは帰っていく。
私も同じ気持ちではあるけど。
……ちょっと今は、葵さんを泊める訳にはいかない……。
葵さんを見送ってリビングに戻ると、案の定、フィギュアの奏が棚から出てきて、テーブルの上に座っていた。
その顔に浮かんでいる笑みが怖い……。
長くなりそう……。
そう思いつつ、私は奏の前に座るのだった。




