17.推しの職場訪問――その後
バタンっ!
勢いよく玄関のドアを閉める。
いつもは、ただいまの挨拶をするけど、今日はしない。
なぜなら、奏も一緒に帰ってきてるからだ。
私は奏をトートバックから出し、テーブルの上に置いた。
「♪♪」
なんかご機嫌な奏。
奏って……こんな人だったっけ?
私はがっくりと肩を落とす。
「もぉっ!!なんで勝手についてくるのっ!?」
珍しく、大声が出る。
ちょっと今回は許せない。
もし、お客さんなんかに見られてたとしたら……。
今更ながら血の気が引く。
奏はピタッと動きを止めて、こちらを見た。
「夕莉が働いてるとこ、見たかった」
「でもっ!バレたらどーすんの!?」
奏は少しだけ考えたフリをしてる。
「ま、なんとかなる」
なんっで!?
そんなお気楽なの!?
「……っっ!?」
私の苦悩は言葉にはならなかった。
少しの間の後、カッとなった頭が、少しだけ冷静になる。
頭の中は未だぐるぐるしてるが。
……自由で、無責任で、怖いくらい魅力的。
ステージの上の奏と、同じだ。
「朔って…大変なんだなぁ……」
思わず声に出てた。
奏はきょとんとした顔をする。
「朔は、いっつも胃薬飲んでる」
しれっとして言う奏。
そう言うとこ……。
私は苦笑した。
それでも、それを補っても有り余るほどの魅力を、奏が持っていることも、痛感する。
だって、それでも奏を憎めないのだ。
ふぅーっと溜め息をついて、気分を落ち着かせてから、私は奏に話しかける。
「どこか行きたいときは、なるべく連れてくから、今日みたいのはやめてね」
にっ、と笑った奏はズルいくらいカッコいい。
「努力は、する」
……信用出来ないけど。
「お願い、ね?」
そう念を押すと、奏はまたにっと笑った。
奏はいつもの窓辺へ戻っていく。
その背中が、少しだけ楽しそうだったのが、少しだけ憎らしい。
そんな奏の後ろ姿を見ながら、私は着替えるために洗面所へと向った。
奏、鳥籠にでも入れてしまおうか……
本気でそんなことを考えながら。




