2.推しに日常乱される
彼氏いない歴=年齢の私が、(フィギュアとはいえ)推しと同居することになってしまった。
なんで動いてるのかは全く持って謎ではあるのだが、性格や言動は私が知っている推し、そのまま。
……と言うことは……結局、推しと一緒に暮らしてるってことなんだよなぁ。
とは言え、早くも一週間が過ぎた。
なんとかこの生活にも慣れ…………
慣れるかーっ!?
一向に慣れていません!!
朝起きると、必ず枕元にいる。
あさイチ、心臓に悪い。
そして次に困るのが、着替え。
今は狭い洗面所で着替えている。
実に不便だ。
でも、奏は何も気にしない。
「俺は気にしないよ?」
小首をかしげて、無邪気に言う。
「……っ!?」
わかってやってる?
ねぇ、わかってやってるの!?
口には出せないけどっ!
心の中でくらい、叫ばせてーっ!!
もう、私の理性はぼろぼろだ……。
推しが私の部屋にいるなんて、無理無理っ!
今日も今日とて、あさイチで奏に起こされた。
「起きないと、遅刻するよ?」
何度目かのスヌーズを止めて微睡んでいると、耳元で囁かれた。
えぇ、一瞬で目覚めましたとも。
私は慌てて支度して家を出る。
もちろん、今日も奏には釘を刺す。
「ぜっっっっったいにこの部屋からは出ないでね!!」
「わかってるよー」
窓際でだるそうに座ってる奏は軽い。
「窓から見られてもダメだからね!」
それだけ言って、慌てて飛び出す。
誰かから見られたりした日には、もうどうなることか……。
窓際からは、もう一度、
「わかってるよー」
と気だるそうに聞こえてきた。
……絶対わかってない。
思わず大きな溜め息が零れた。
――奏は寝なくても支障ない、と言いながらも、よく寝ている。
昼間何してるのか聞いてみたら、
「寝てる」
か、
「ぼーっとしてる」
という答えしか返ってこなかった。
本当なのかな……?
……本当は部屋の中いろいろ見られてたりしないよね……?
奏への"推し愛"を綴ったあの恥ずかしい日記とか……
ぶるぶると首を横に振る。
考えすぎだ。
私に……興味あるわけないよね。
ま、推しとは言ってもフィギュアだしね。
自分にそう言い聞かせ、私は足早に職場のカフェと急いだ。
仕事の休憩時間。
テーブルに座っていると、先輩でもあり推し活仲間でもある水瀬葵さんが隣に座る。
「夕莉、どしたー?」
え、と口にして振り返る。
「なんか、最近、顔が疲れてるぞー?」
あはは、と苦笑いする。
そりゃあ、疲れる。
推しが家にいる。
そんなおかしな状況だ。
でも、言えるわけない。
「んー、ちょっと寝不足で……」
適当なことを言ってごまかす。
推し活仲間の葵さんに隠し事をするのは、気が引けるが、あながち間違いでもなかった。
この一週間、毎晩、奏は私の枕元で寝ている。
「寝なくても支障ないんでしょ!?」
と言ったら、
「支障ないけど、夜は寝るもんでしょ?」
と返されて、何も言えなくなってしまった。
枕元ですやすやと寝始める奏は、メディアでは絶対に見れない姿だ。
つい、夜が耽るまで見てしまう。
そして、朝起きれなくて奏に起こされるという悪循環。
でも、やっぱり言えないよね……。
「そっかぁー」
ふぅーん?という感じで見つめてくる葵さん。
それから、ニヤッと笑って。
「でもさ、なんか楽しそうだよね」
心臓がドキッとする。
確信を突かれてはいないのに、見透かされてるようで。
「そ、そう……っ?」
返事にまで動揺が混じる。
顔が赤くなってる気がする。
――楽しそう
そんなふうに見えてるのか。
なまじ間違いでもない気もする。
「楽しいと言えば!次のライブのファンクラブ先行、来週からだね!」
いつもと変わりない会話のはずだった。
でも、そんな何気ない会話さえ、何か意味深な気さえする。
でも、やっぱりちょっと気を引き締めよう。
そう決意した。
仕事を終えて、急いで家へ向かう。
何もないとは思うけど、やっぱり奏が心配だった。
玄関のドアを開けて、電気をつける。
やっぱり奏は窓際にいた。
「……た、ただいまっ」
慣れない挨拶をかける。
奏は満面の笑みで
「おかえりぃー」
と返す。
口元が自然と緩み……。
私は不自然に顔を逸らした。
――やばっ、ニヤケが止まらないっ
口元を抑えてこらえていると、奏は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
――楽しい
うん、大変で、落ち着かなくて、心臓に悪いけど。
楽しい気持ちも抑えられないかも。
こんな日が、続くのも悪くない。
私はちょっとだけ、そう願った。
しかし――
「ねぇ、夕莉の働いてるカフェってどこにあるの?」
絶句。
何故か、推し(のフィギュア)が私に興味を持ち出した。




