14.推し以外のフィギュアは?
私の部屋の棚の中に、ぽっかりと空いたガラスケースがある。
そこは、私が奮発して買ったファンクラブ限定の精巧な夜宮奏のフィギュアが飾ってあった場所だ。
言うまでもなく、中にいたはずの奏は今、そのガラスケースの外で生活している。
動き出した奏のフィギュアは、その中に戻るはずもなく、高かったガラスケースも今は寂しそうだ。
「はぁ」
空のガラスケースを見て、私は盛大な溜め息をついた。
静かに近づいてきた奏が同じようにそれを見上げた。
「何?あれ?」
私は奏の顔を見て、また溜め息をつく。
「高かったのよ……あのガラスケースも」
「ふーん」
興味なさそうな奏にちょっと腹が立つ。
「……なんのために買ったと思う?」
少し意地悪な質問をしてみる。
でも、やっぱり奏は興味なさそうに、
「フィギュア飾るため?」
とか言うものだから。
ちょっとだけ、ちょっとだけぷっつーんと、胸の奥がキレた。
「そうだよっ!奏のフィギュアを飾るために奮発したのーっ!!」
珍しく詰め寄る形なってしまった私に、さすがの奏も驚いたようだった。
「そ、そうなんだ?」
「そうなの!!」
そして食い気味に続けざま、詰め寄る。
「そもそも奏のフィギュアだって、かなり奮発して買ったんだからーっっ!!」
「そ、そうなんだ?」
語彙力が下がったかのように、同じ言葉が奏から返る。
「そうなのっ!!ファンクラブ限定でシリアルナンバー入りの数量限定!!過酷な予約争奪戦に勝利して!!更に3万円もしたんだからね!!」
あの日の苦労を思い出した私は拳を震わせた。
奏の顔が多少引きつっていたのは、この際、気にしないことにする。
「それは……ご苦労さま?」
なんか、的外れな返事に私の肩はがくーっと下がる。
私の勢いは一気に削がれてしまった。
「もぉ、いい……」
意気消沈した私に奏は、ははっと苦笑いをした。
「俺以外いない?」
私は顔をあげて奏を見る。
その表情はきっと悲観している。
「……ホントは、四人そろえたかったの」
悔しさすら思い出してしまった。
「でも、さすがに安月給一般市民に3万円×4人分は出せなかったのよ……」
「そ、そうなんだ?」
再び、デジャブ。
「奏が買えたから、いいの」
そう言うと、奏はちょっとだけ嬉しそうな顔をした。
それから器用に棚の上に登り、空のガラスケースの周囲にあるフィギュア達を見た。
「ここにいるのは?」
私は棚を見上げた。
「それはね、奏のフィギュアよりもちょっとクオリティ低いけど、私でも手に入れられたツアーグッズのフィギュアだよ」
「へぇー?」
そう言いながら、奏はフィギュアの周りを歩いていく。
朔のフィギュアは、ベースを抱えた姿。
奏より、少し小さめだ。
自分より小さい朔が珍しいのか、奏は面白がって見下ろしている。
その隣、陽のフィギュアはドラムスティックを持ってる姿だ。
さすがにドラムセットはない。
最後、凪のフィギュアもギターを抱えてる。
演奏中のように背中を丸めて今にもくるくる回りだしそうだ。
奏は三人の周りを一周して見てから、少し離れて立った。
「ねぇ、こいつらは動かねぇの?」
「えっ!?」
思わぬ言葉に驚いた。
「動かないんじゃない……?」
そもそも奏のフィギュアが動いてるのだって、おかしいのよ?
口にはしないけど。
「ふぅーん」
奏は不思議そうに三人を見つめる。
いやだから、あなたが動いてる方がおかしいんだって!
「じゃあ、やっぱり」
そう言い、奏はにやっと笑う。
「奏のフィギュアって特別?」
……そりゃあ、特別でしょうよ。
動くことを差し引いたって、そもそもさっき言った通り、造りが違う。
整った顔も、繊細な灰色の瞳も、独特な髪色だって精巧に再現されている。
着ている服だって、奏が着ていた本物を作ったメーカーが、フィギュア用にきちんと造りおろしている。
「うん、特別」
私は素直に答えた。
「夕莉……素直になったな……」
奏は何故か、つまらなそうに言った。
……どういうこと?
私はいつも素直だよ。
……たぶん、奏には。




