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12.推しとのカラオケは、天国で、地獄でした

「ねえ、最後の一曲、俺にくれる?」


そろそろ終了時間が迫ってきた頃、奏が言った。


「うん、いいよ?」


軽い気持ちで私は承諾した。

奏は機械を操作して、最後の曲を予約する。


画面が切り替わり、曲名が表示される。


「っ!?」


私は思わず息を呑んだ。


そこに浮かんだ文字は……。


『URGE』


今日の一番最初、私が選んだ曲と一緒だった。


――私が一目惚れした曲なの


まさか、奏、それ覚えてた……?


奏は顔だけで半分振り返って私を見る。

口元だけで不敵に微笑うその顔は、ライブ中の奏、そのものだった。


激しいギターから始まるイントロ。

流れ、溢れ出すようなビート。

少し長めのイントロが終わり、曲の始まり。

低音からのスタート。


奏が灰色(グレー)の瞳を見開き、映像の中の自分を射抜く。


リンクするように、歌う。

全体を通して荒々しく、激しい歌詞。

世界を揺さぶるような、曲。


――そして、魂の叫びそのもののような、奏。


ぞわぞわっと、何かが腹の底から込み上げてくる。


私の(なか)の琴線に触れたように。


音が、世界を支配して、奏の歌声が、私を支配する。


瞬きすら出来ない。

奏の一瞬、一投足を見逃すことなんて、出来ない。


十年前と同じ……いや、あの時よりも大きな衝動が、そこにはあった。


視界が潤みだし、身体中の熱が頭に集中する。

今が現実なのか、夢なのかすらわからなかった。


奏は歌い続ける。

私のことなんか、忘れたかのように、激しく。


最後のフレーズが、奏の叫びが、部屋に響き、私に余韻を残して、消えた。


――長い沈黙。

永遠と思えるような……。


奏は始まりと同じように、顔だけを肩越しに振り向かせ、口元だけで不敵に微笑った。


感情崩壊。

理性限界。


もう、悲鳴すら出ない。


ただ、息が詰まる。

意識が遠のきそうになる。


それを引き止めたのは、奏だった。


「……息、忘れてるよ?夕莉?」


そう言われて、はっと息を吸い込み、我に返る。


「……奏、カッコいい……」


そうしてやっと絞り出した言葉はそれだけだった。


奏は振り返り、悪戯っぽく笑う。


「でしょ?」


っ、もうっ!


「奏、ズルいっ」


私は膝を抱えて言う。

感情がもうぐちゃぐちゃだ。


「……夕莉が、この曲に一目惚れしたなんて言うから、悪いんだよ?」


パーカーのポケットに手を突っ込んで、子どものように言う。


その言葉もその顔も!!

あざといーーー!!!


私の表情(かお)を見た奏は、ふふっと微笑った。


「イイ顔」


そう言った奏の方がイイ顔してた。


私は止まらないニヤケを必死で抑え込む。


「さ、帰ろ?」


そう言って奏はテーブルからソファへと飛んだ。


私は軽く溜め息をつきながら、トートバックに手を伸ばした。


やっぱり……推しとのカラオケは、(天国のようで)地獄のようだった。






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