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11.推しとのカラオケは、始まってからも(ある意味)地獄です

「と、とりあえず、曲入れるよ!」


私は必死で平常を装いながら、曲を探し始める。


アーティスト検索――『NOCTIS』


曲名がずらーっと並ぶ。


ゔゔぅ〜、何歌おう……。

奏の前でNOCTISの曲歌う現実(リアル)なんて想像もしてなかった。


うーん……、やっぱりアレかなぁ。


URGE(アージ)


その単語が目に入る。


十年前、私が奏に一目惚れした曲だ。

これまでも、幾度となくカラオケで歌ってきた。

採点で遊んでも、一番高得点出せる曲。


うん、これしかない。


ボタンを押す。


曲名が画面に流れ、奏の目に入る。


奏は目を見張った。


「この曲……選ぶんだ?」


「うん、この曲、私がNOCTISに一目惚れした曲なんだ」


私が言うと、奏はちょっと驚いた顔した。


「……そうなんだ……」


奏の反応、意外だな。


画面にMVが映る。

ストーリーなんてない、ただバンドが激しく演奏して、奏が激しく歌うだけのシンプルなつくり。

NOCTISの、奏の魂みたいなこの映像が私は好きだ。


マイクを持つ手が震える。


うぅー、緊張する。

奏の目が怖い。


女性声では、ちょっと低めの入り。

うまく、入れた。


でも、その次、息吸うの忘れて、声が出なかった。

慌てて追いかけるけど、うまく追えない。

どぎまぎしてるうちにサビに入っちゃう!!


あぁ、やっぱり推しに見られながら歌うなんて、拷問だ。


とにかく、サビ!サビからだけでも立て直さなくちゃ!!


そう思って、サビ前に大きく息を吸う。

そしてサビに入るところ。


マイクを通さない――声が聞こえた。


奏が――歌ってる。

私の声にハモって、部屋に響いてる。


なにコレっ!?

どういう状況!?


軽くパニックになりながらも、必死でついていく。


ギターソロが入って、最後のサビ。


私の、叫び。

奏の、叫び。


背筋がゾクゾクした。

あの時――奏に一目惚れした時のように。


歌い終わって……。


沈黙が続く。

余韻がすごい。


私はマイクを握りしめたまま、奏を見ていた。


「か、奏っ!なんであそこで歌い出すの―!!??」


私は耐えきれずにソファに顔を突っ伏した。


ニヤッと微笑う奏。

でもいつもみたいに、からかうような感じはしなかった。


「だって……夕莉がこの曲選ぶから」


ゆっくり顔をあげて、奏を見る。


「それに、夕莉、緊張し過ぎ」


くくっと笑った奏。

私はまた恥ずかしさがこみ上げる。


「だって、推しに見られながら歌うなんて想像もしないでしょっ!!」


悔し紛れに声をあげる。

たぶん、私の顔は今、真っ赤だ。


「次っ!奏の番!」


開き直った私は奏を指差す。

もう、こうなったら、私の特権!使ってやる!

こんなに苦労したんだから、間近で奏の歌、聞いたっていいはずだ!!


「うん、わかった」


にこっと笑った奏は、顎に手を当てて、少しだけ考える。

その考える姿にさえ見惚れてしまう私は、自分でもバカだと思う……。


「決めた」


そう言って奏が選んだのは、この前発売されたばかりの新曲だった。


これもまた、激しいロック。

まだ、ライブでも演奏されてない曲だ。


私が曲の予約ボタンを押す。

画面が切り替わり、またMVが流れる。


この曲は、夜の闇に叫びかけるようなロックだ。


あ、この曲も好きなんだよな。


ふと過る。

画面の中に映る、夜宮奏。

それを見ながら、カラオケを歌おうとしている、奏。


なんて光景っ!!

奏が二人いるような錯覚さえする。


大きすぎて持てないマイクをティッシュボックスに立てかけて、その前に立つ。

イントロが終わり、奏が歌い始める。


マイクを通して聞こえる、奏の歌声。


よく通る、少し高めの声。

ライブで聞くのとは、また違う。

激しい歌声が、、ダイレクトに響いてくる。


心臓が痛いくらい、心拍数があがる。

奏から、目が離せない。


やばすぎるっっっっ。

これはなんてご褒美っっっ!?


思わず崩壊する顔面を手で抑えながら、奏を見つめる。


ライブでも、こんなに近くで見れないのに。

目の前で歌う奏がカッコよすぎる。


アウトロのギターの音が消えて曲が終わると、奏がニコッと笑ってこちらを見た。


「どうだった?」


その笑顔がまた、破壊力抜群で……。


「っっっっ!!」


声にならない叫び。


「……かっかっこいい……」


それだけ言うのが精一杯だった。


それから奏は、曲予約する機械の前に立って、勝手に操作を始める。

そして、予約ボタンを押すと私の方を見る。


「もう一曲、いい?」


そう言って、返事を聞かずにマイクの前に戻る。


……ダメなワケないじゃん……。


私は座り直して、姿勢を正す。


ちょっとだけ、ライブに来てる気分。


イントロが流れ始める。

バラードだ。

静かだけど、奏の声が胸に残る曲。


画面の中のMVは、さっきまでとは打って変わって、静かな映像。

夜の雪の中で繰り広げられる、メンバー四人のストーリー。


奏の歌声が、部屋に響く。

どこまでも遠く遠く伸びる声。


めちゃくちゃ調子良い時の奏の声だ……。


それだけで、涙が出そう。

私は胸の前で手を組みながら、祈るような姿勢で聞いていた。


歌い終わった余韻が残る中で、奏はふっと振り返る。


そしてまたニコッと笑う。


ズルいっ!

その笑顔も歌声も、全部ズルいっ!!


何も言えずにいると、奏が先に声をあげた。


「今日、めちゃくちゃ調子いい」


へへっと笑う。


……この男、何度笑顔で人を殺す気だ……?


もう悲鳴をあげる余裕もない。


めまいがするほどの高揚感に打ちのめされようとしていた、その時――


コンコンッ


心臓が飛び跳ねた。


「ぎゃーーっ!!」


思わず悲鳴をあげながら、テーブル上の奏を無理矢理トートバックに押し込む。

ソファの端に追いやってから、恐る恐る入口のドアを開けた。


そこに居たのは、葵さんだった。

また、ドキッとなる。


「え?葵さん?どうしたの?」


内心の動揺が声に出ていた。


「いや、さっき通った時、夕莉が見えてこの部屋なんだって思ってて」


そう言って、チラッと部屋の中を覗く。


「……ひとり、なんだよね?」


確認するように聞かれる。

心の中はこれでもかってくらい、焦っている。


「ひ、ひとりですよ?なんでですか?」


「今通りかかった時さ、めちゃくちゃ綺麗な歌声聞こえてきて。夕莉の声じゃない声」


不思議そうに言う葵さん。


最高潮の緊張の中、更に心臓が飛んだ。


ひぃっ!

心の中で悲鳴を上げる。


「ラ、ライブの本人映像っ!!」


必死で考えた言い訳。

まくしたてるように言い訳をする。


「ついっ、大音量で見ちゃって……奏が歌ってるとこ、見たくなっちゃって!!」


葵さん、これで信じてくれるかな……。


変な汗が流れる。

一瞬の沈黙すら、永遠のようだ。


「そうなんだー。あんなに綺麗に聞こえるもんなんだぁ、私もあとで見てみようかな」


納得してくれたようだ。


「じゃ、邪魔してごめんね!ごゆっくりー」


そう言って葵さんは自分の部屋に戻っていった。


パタン、と扉を締めてソファに座る。


へ、変な汗がっ……


鼓動が、やばいくらいに痛い。


大きく深呼吸して、なんとか息を整えようとする。


そんなことをしてると、奏かトートバックの中から出てきた。


「夕莉、痛いよ」


そんな文句を言いながら。


「奏のせいでしょっ!?」


つい言い返してしまった。

すぐに、しまったと後悔するが、奏は気にする様子もなく、いつものにやっと笑いをした。


「でも、良かったでしょ?」


…………はい、良かったです。

最高のバラードでした。


何も言い返せない。


はぁーっと大きな溜め息をつく。


ま、いっか。


珍しく、そう思えた。

奏の呑気さが伝染っちゃったかな。


右手で額を抑えながら、背もたれに身体を預ける。


ま、あと一時間くらいしかないし、楽しむか……。


気を取り直して、私は次の曲を歌うことにした。





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