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10.推しとのカラオケは、始まる前から地獄です

私は挙動不審なほど、辺りをキョロキョロと見回していた。


いつもの道なのに、落ち着かない。

そわそわする。


理由なんてわかりきってる。


ぎゅっと抱えたトートバックの中――


奏がいる。


ああ、もう!

なんでいいなんて言っちゃったんだろう?


その時のことを思い出す。


「……」


いや、あの顔が悪い……。

奏のせいにしておこう……。


ぱたぱたと手で顔を仰いでいると、


「夕莉、暑いの?」


トートバックの中から声が聞こえる。


「ちょっとっ!!」


私は慌ててバックを抑え込む。

それから小声で奏にはなしかける。


「喋んないでよ!バレそうになったら、即帰るからね!」


バックの中からは、


「はーい」


と、まぁ、気の抜けた返事が返ってくる。


呑気なもんだ。

誰のせいでこんな苦労してると思ってんの?



いつものカラオケ。

私の常連店だ。


いつもよりちょっと緊張して受付を済ませる。

財布を取り出す時、トートバックの中の奏と目が合った時は、心臓が止まるかと思った。

無事に受付を終えたことで、私は多分、油断してしまったんだと思う。


部屋に向かう途中。

ドリンクバーの前を通りかかった時。


「あれ?夕莉?」


後ろから声をかけられる。

この声は……。


「あ、葵さん?」


恐る恐る振り返ると、そこにはやはり葵さんがいた。

ドリンクバーのトレーを持った葵さんは、いつもどおり、距離を詰めてくる。


「今日はヒトカラ?」


「そ、そうなんです、久々に発散しようかなぁーと」


口から言葉ではなく、心臓が飛び出そうだった。


「そっか。私は今日は朔推し仲間と来てるんだ」


朔……とは、月城朔(つきしろさく)のことで、NOCTISのベースで、葵さんの推しだ。


その時、トートバックの中で奏がもぞっと動いた。

心臓が更に一段飛び跳ねる。


やーめーてー!!


なんで今動くのよー!?


私は更に強くトートバックを握りしめる。



「夕莉も来る?」


「えっ!?」


思わぬ言葉に私は絶句してしまった。


「え?」


私はどんな顔をしていたのだろう……葵さんも固まる。

慌てて取り繕う。


「き、今日はやめておきます」


多分、不審だったとは思う。


「ヒトカラの気分で来てるんだったら、ヒトカラがいいよね!また今度一緒に来ようね!」


それでも葵さんは気にすることなく、颯爽と去っていった。

その背中を見送り、とりあえずは、軽くホッとする。

それから急いで部屋に入り、ソファの上で本格的に脱力する。


「つ、疲れたぁー」


大きな溜め息と共にもらす。

まだ、心臓が悪い意味でどくどくしてる。

止まるかと思った。


その時、ソファの上に置いたトートバックから、もそもそと奏が出てくる。


「今のが推し活仲間で朔推しの『葵さん』?」


呑気に奏が聞いてくる。


「なんで、あのタイミングで動くのよー!!??」


「夕莉と仲の良い『葵さん』が気になっちゃって」


のほほんと返す奏。

更に脱力する。


何言ってんだ、この男。

ホントに帰ってやろうか……。

……いや、奏の歌、聞きたいけど……。


「防犯カメラには映らないよう気をつけてよね」


そう言って私は、テーブルの上にちょっと大きめのポーチを置いた。

奏の身隠し用だ。

さっきのようなトラブルは、もうごめんだ。


それから、マイクや飲み物などを準備して、やっとソファに座る。


ポーチの陰で座ってる奏の前にも、マイクを置いておく。


「夕莉はいつも何歌うの?」


奏が聞いてくる。


無言……で返す。


い、言いにくい……っ!


NOCTISの曲しか歌えないなんて……っ!


無言の私に奏は不思議そうに顔を傾ける。


「ん?」


私はうつむきながら、やっとの思いで答えた。


「……っ、ノ、NOCTISのっ、曲しか……歌えない」


虚を突かれたような顔で驚いてから、奏は顔を綻ばせた。


ふふって笑って、それからいつものにやっと笑い。


「俺達以外……」


そこで一度止めて、言い直す。


「俺以外、興味ないんだね?」


ただでさえ恥ずかしいのにっ!!

そんなことそんな顔で言われてっ!!

尊すぎてっ!!

私が生きてられると思うのかっ?

(別な意味で!)


私は震える両手で頬を抑え込む。


「かーなーでぇーー」


情けない声。


ドヤ顔で見てくる名前の主。


なんなの?この空間。

カラオケ始まる前から、地獄かっ!?







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