9.推しとカラオケ!?
珍しくTVでバラエティを見ている時だった。
最近よくある、カラオケ企画。
そのコーナーを見てる時。
「俺、カラオケ結構得意だよ」
不意に奏が言った。
――そりゃ、そうでしょうよ
私はそう思ったけど、口にはしなかった。
すると奏はニヤッと笑って、
「聞きたい?」
と聞いた。
な、何を言ってるのっ!?
この推しは!!
思わず珈琲吹き出すとこだった……。
奏は、返事を待ってるように首を傾げて、私を見上げてる。
「ん?」
返事を促すようなハテナマークがあざとい。
そりや、聞きたい!
奏が歌うってことは……生歌声が聞けるってことだ。
でも――
動くフィギュアの奏、外に連れ出して大丈夫なのか?
どうしても、それが不安だ。
「ぐっ…………うーーん……だ、だめ」
なかなかの誘惑に即答で答えることが出来ない。
「えー?」
不満そうな声をあげる奏。
悲しそうな顔して、私を見上げる。
「どうしても……?」
その顔っ、ずるいっ!!
でもっ、耐えろ、耐えるんだ、私!
「どうしても!!」
勢いのまま、答える。
でないと、無理。
「そっかぁ……」
あからさまに肩を落として落ち込む。
そうだよねぇ、と小声で言ってる。
「でも……」
チラッとこちらを見る。
「夕莉に俺の歌聞かせたかったなぁ……?」
残念そうな表情でまた、チラッ。
ぐぅーっ!
それはっ。
反則だよぉっっっ!!!
「ゔぁぁぁぁぁー!!」
葛藤が口を突く。
絶対乗せられてる!!
それは、わかっているけどっ。
わかってるけど……。
……やっぱりその顔にも、声にも……弱い……。
「ち…………ちょっとだけなら……?」
途端に満面の笑顏になる奏。
っっっっ!!!
それも、反則っっ!!
私は銃弾に撃たれたように床に転がった。
クッションに埋めた顔が震えるのが止められない。
何事!?
何!?
なんなの!?あの笑顔!!
……好きすぎる……。
「夕莉……どうしたの?」
頭上から奏の声がする。
どうしたもこうしたもないよっ!
あなたのせいだよっ!
とは、口が裂けても言えない。
奏は黙ってこちらを見ている。
……というか、無自覚なのか……?
最後の笑顔は。
(その前の悲しんだフリは絶対確信犯!)
しばらく悶えたあと、ようやく私は起き上がる。
奏はちょっと不思議そうな顔で見ている。
「夕莉って面白いね」
悪気のない瞳が追い打ちをかけてる。
「で、連れてってくれるんでしょ?カラオケ」
……やっぱり忘れてなかったか。
一度いいと言った手前、もうダメとは言えなかった。
何より、奏のあの嬉しそうな顔。
ダメなんて言えないじゃんか……。
私は覚悟を決めた。
「……わかったよ」
溜め息が混じったのは、せめてもの抵抗かもしれない。
ああ、あとで後悔する予感しかしない。
「うん!じゃあ、今から行こう」
「へ?」
予想外の言葉に情けない声が出る。
「今から、行こ?」
「ね?」
容赦なくたたみかける奏。
奏が悪魔に見える日が来るなんて――




