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恋愛禁止の魔法学園で、婚約済み令嬢が一番恋してはいけない相手に落ちました  作者: 九葉(くずは)


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第11話 それでも、わたくしは恋をします

パキィィィンッ!


硬質な音が響き渡り、手首を締め付けていた銀色の手錠が粉々に砕け散った。

飛び散った破片が、床できらきらと輝く。


「な……ッ、封魔鉱を物理的に破壊しただと!?」


学園長の驚愕の声が聞こえる。

無理もない。

これは魔力を完全に封じる鉱石。

魔法で壊すことなど不可能なはずだ。


けれど、今。

わたくしの手は、レオンの手と硬く結ばれている。

そこから溢れ出る黄金の光は、あらゆる理屈をねじ伏せていた。


「すごい……力が、溢れてきますわ」


身体が軽い。

先ほどまで肺を焼いていた阻害ガスも、わたくしたちの周囲に発生した魔力の風圧で吹き飛ばされている。


「言っただろ。俺とお前なら、こんなガラクタ関係ねえってな」


レオンがニッと笑う。

その笑顔は傷だらけで、汗まみれだけれど。

今まで見たどの貴公子よりも気高くて、美しい。


「確保せよ! 何をしている、ドローンを起動しろ!」


学園長が操作盤を叩く。

部屋の四隅から現れていた黒い銃口が一斉に火を噴いた。

魔力弾の雨。

普段のわたくしなら、一発で意識を刈り取られていただろう。


「お嬢様、後ろ!」


「ええ、任せて!」


言葉はいらない。

レオンが前に踏み込み、防御結界を展開するより速く、わたくしは杖を振るった。

いいえ、杖なんて持っていない。

素手だ。

けれど、指先から放たれた光は、杖を通した時よりも鋭く、正確だった。


『光よ、彼を護る盾となれ』


カカカカンッ!

光の膜がレオンの前に展開され、全ての弾丸を弾き返す。


「攻撃はお前がやれ! 俺が道をこじ開ける!」


「はい!」


レオンが黒い魔力を右手に収束させる。

圧縮された闇の塊。

彼はそれを、閉ざされた鉄の扉ではなく、さらに奥――母が囚われているガラス壁に向かって解き放った。


「ぶっ飛べぇぇぇッ!!」


ドオォォォン!!

爆音と共に、強化ガラスが飴細工のように溶解し、吹き飛ぶ。

熱風が舞う。

その向こうに、青白い光を放つ巨大な水晶と、母の姿が見えた。


「行くぞ!」


二人は同時に駆け出した。



しかし、その行く手を遮る影があった。


「……嘆かわしいな」


冷ややかな声。

爆風の中でも髪一本乱さず、そこに立っていたのはエドガー様だった。

彼は優雅に杖を構え、複雑な幾何学模様の魔法陣を展開している。


「ミレイユ。君は壊れてしまったようだね」


「……」


「あんな野蛮な男と混ざり合い、品位を失い、家畜のように暴れ回る。……返品が必要かな」


彼の瞳には、失望しか浮かんでいなかった。

わたくしを見る目ではない。

壊れた道具を見る目だ。

かつては、その目に映る自分を完璧にしようと必死だった。

でも今は、その視線がただ哀れに思える。


「どけよ優等生。お前じゃ俺たちは止められねえぞ」


レオンが威嚇する。

しかし、エドガー様は杖を一振りした。


重力操作グラビティ


ズンッ。

空間そのものが歪んだような重圧が襲いかかる。

床にヒビが入る。

わたくしたちの足が、見えない鎖で地面に縫い付けられたように重くなる。


「ぐっ……!」


「君たちは理解していない。感情などという不確定要素で、この計算された世界に勝てるはずがないことを」


エドガー様が一歩ずつ近づいてくる。

その手には、わたくしを再び拘束するための新しい手錠が握られていた。


「さあ、ミレイユ。僕の手を取りなさい。そうすれば、少なくとも『綺麗なまま』終わらせてあげる」


差し出された手。

白手袋に包まれた、汚れのない手。

今まで一度も、直に触れることを許されなかった手。


わたくしは、隣にいるレオンを見た。

彼は重力に抗いながら、歯を食いしばってわたくしを支えてくれている。

泥だらけの手。

でも、誰よりも温かい手。


答えは、最初から決まっていた。


「……お断りします」


わたくしは顔を上げ、かつての婚約者を真っ直ぐに見据えた。


「君は……何を言っているんだ?」


「聞こえませんでしたか? お断りすると言ったのです」


体内の魔力を練り上げる。

レオンから流れ込んでくる力を、恐怖ではなく、勇気に変えて。


「わたくしは、あなたの理想の人形ではありません。傷つくこともあれば、泣くこともあります。そして……」


一歩、重力を跳ね除けて踏み出す。


「誰かを愛して、胸を焦がす一人の人間です!」


「……ッ!」


「エドガー・フォン・リヒター様。わたくし、ミレイユ・フォン・クラウゼルは……今この時をもって、あなたとの婚約を破棄させていただきます!!」


宣言した瞬間。

わたくしの身体から眩い光が弾けた。

それは『聖女』の光ではない。

わたくし自身の、意志の光だ。


バリバリバリッ!

空間を支配していた重力魔法が、ガラスのように砕け散った。


「馬鹿な……僕の演算を、力押しで突破した……!?」


エドガー様が初めて狼狽の表情を見せ、後ずさる。

その隙を、レオンが見逃すはずがなかった。


「よく言った、元・婚約者殿!」


レオンが跳躍した。

魔法ではない。

身体強化による、単純な右ストレート。


「その澄ましたツラ、一度殴ってみたかったんだよ!」


ドゴォッ!!


拳がエドガー様の頬にめり込む。

完璧な貴公子が、無様に吹き飛び、壁に激突した。

彼は意識を失い、ずるずると崩れ落ちる。


「……ふぅ。スッキリしたか?」


レオンが手を振りながら振り返る。


「ええ。……とても」


わたくしは、倒れたエドガー様に一瞥もくれず、レオンの隣に並んだ。

胸のつかえが取れたようだった。

もう、誰もわたくしを縛るものはいない。



「おのれ、おのれぇぇぇ!!」


奥の操作室から、学園長の絶叫が響く。

彼は狂ったようにレバーを操作していた。


「ならば道連れだ! 炉心融解メルトダウンシークエンス起動! 生徒全員の魔力を吸い尽くして、この学園ごと吹き飛べ!」


ウゥゥゥゥン……!

地下空間全体が赤く明滅し始める。

中央の水晶が不気味に脈打ち、お母様の表情が苦痛に歪む。

上階の学園から吸い上げられた魔力が、濁流のようにパイプを通って流れ込んでくる。


「マズいぞ。暴走させて自爆する気だ!」


レオンが叫ぶ。

このままでは、学園にいるルーナや他の生徒たちも、そしてお母様も助からない。


「レオン、どうすれば……!」


「止めるには、核を直接ぶっ叩くしかねえ。……だが」


彼は水晶の柱を見上げた。

そこには、凄まじい密度の魔力が渦巻いている。

普通に触れれば、消し炭になるだろう。


「俺一人じゃ、たどり着く前に燃え尽きる」


彼はわたくしを見た。

その瞳に、迷いはなかった。


「ミレイユ。お前の『光』で俺を包め。俺がお前の剣になって、あの水晶を砕く」


「でも、そんなことをしたら、あなたの身体が……!」


「平気だ。俺たちならできる。……そうだろ?」


彼が差し出した手。

わたくしは、涙を拭ってその手を取った。


「ええ。信じていますわ」


二人の手が重なる。

先ほどよりも強く、深く。


「行くぞ!」


「はい!」


二人は赤い警報が鳴り響く中、暴走する巨大装置の中心へと飛び込んだ。

これが最後の賭け。

そして、最初の共同作業。


恋をした乙女は無敵だと、教えてあげましょう。

この腐った世界に。

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