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『煙の向こう側の異世界』第三話 工場計画

第三話では、王国再生の柱となる「植物工場計画」が本格的に動き始めます。

同時に、“黄金の国”の名が初めて登場し、物語は政治と伝承、そして未知なる力の交錯へと進みます。

アイビーの瞳に宿る光と、アニーが感じた微かな気配――それらが後に何を意味するのか。

大輔たちの歩む道が、次第に神話と現実の境界へ近づいていきます。


第三話 工場計画

浮遊車が城門をくぐり、大輔とアニーは南翼の大臣室へ入った。

秘書のアイビーが立ち上がり、柔らかく頭を下げる。

「大臣、お帰りなさいませ」

「植物工場の責任者のアニーです。私の妻です」

「奥様……アイビーです。よろしくお願いいたします」

二人は微笑みを交わした。その瞬間、アイビーの灰緑の瞳がかすかに光を帯びたように見えた。

「今日の報告はありますか?」

「はい。明日の午後二時から大臣会議が小会議室で行われます」

「会議の議題は?」

「『黄金の国』との同盟と援助について、とのことです」

「なるほど……重要な会議だな」

大輔は机の上の書類に目を通し、静かに決裁印を押した。

「植物工場の概略がまとまった。明日の会議が終わったら、アイビーにも説明して協力をお願いしたい」

「承知しました。何なりとお申し付けください」

夕暮れ、役宅へ戻ると、湖畔の光が静かに揺れていた。

「お父さん、ただいま。今日はお元気そうですね」

アニーが微笑む。

「今日は気分がいい。…」

父は椅子から立ち上がり、窓辺へゆっくりと歩いた。

「お父さんの大臣時代、秘書は誰だったんですか?」

「いたよ。アイビーという女性だ」

「どんな方でした?」

「静かで有能だった。計画書の作成や予定の管理が中心だったかな」

「今はCADを使って図面も描けるそうです」

「CAD……? それは聞いたことがないな。当時には、そんな技術はなかったはずだ」

「そうですか……ありがとうございます」

アニーが不安げに顔を上げた。

「同じ名前の別人、ということは……?」

「どうだろうな。異世界では“同じ名”にも意味があるのかもしれない」

大輔はふと庭の樹々に目をやった。

枝葉の先が淡く光り、まるで誰かが見守っているようだった。

――翌日。

円形の小会議室では、大臣たちが集まり、中央の水晶盤に王国地図が映し出されている。

議長の声が響いた。

「議題、『黄金の国』との同盟および援助協定について」

経済大臣が立ち上がる。

「黄金の国は豊富な資源を持つが、土地が痩せており、農業支援を求めています。植物大臣のご見解を」

大輔はゆっくりと立ち上がり、光る地図に視線を落とした。

「彼らに与えるべきは、単なる穀物ではありません。

 土壌を再生し、水を蓄える樹木――それが必要です。援助ではなく共生の道を」

静まり返る会議室に、王の声が重なった。

「その考え、よい。植物工場の計画を基盤として、援助計画を立案せよ。王国の緑を広げるのだ」

「はっ。拝命いたします」

会議後、アイビーが近づいてきた。

「大臣、お見事でした」

「ありがとう。では、工場計画を見てほしい」

机上に設計図を広げると、透明な膜屋根と光導管を備えた未来的な施設が描かれていた。

「これが……植物工場」

アイビーの声がかすかに震える。

「どうかしたか?」

「いえ……どこかで見たことがあるような、不思議な感覚です」

その言葉に、大輔の胸がざわめいた。

(父の言葉――“そんな技術はなかった”……)

「では、この計画を正式にまとめよう。

 アニー、君には栽培部門を。アイビー、君は設計部門を頼む」

「承知しました」

「はい、大臣」

夕陽が差し込む中、三人は机を囲んだ。

光を通す紙の上に、緑の線が一本一本描かれていく。

その線は、やがて未来の王国を支える“希望の樹”となるだろう。

しかしその時――アイビーの瞳に、一瞬だけ金色の光が走った。

誰にも気づかれぬように、彼女は静かに微笑んだ。

――黄金の国。

その名に秘められたものが何であるかを、この時まだ、誰も知らなかった。

アニーもまた、不思議な感覚を覚えていた。

アイビーの中にかすかに“黄金の光”を感じたのだ。

村の長老が語った『緑の女神』の力が、少しずつアニーの中にも芽吹こうとしていた。


この第三話では「現実的な計画」と「神秘の兆し」が交錯し、

物語が一層深みを帯びてきました。

特にアイビーの“金の光”と、アニーの“緑の感覚”は、今後の物語を導く象徴です。

次回は、黄金の国との交渉と、その背後に潜む“古の力”が姿を現します。

――異世界の緑の未来が、いま静かに芽吹き始めました。


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