レンチン!
俺の名前は蓮田鎮直。
読みははすだしげなお。
大体は蓮田と上の名前で呼ばれているが昔誰かが俺をレンチンと呼んでいた。
恐らく蓮田の蓮をレン、鎮直の鎮をチン、それらを合わせたのだろう。
今はもう何故だか思い出せない。
だがその呼び名が嫌いだった事は今の自分でも分かる。
俺は変わらず今日も日常を送っていた。
思いを馳せる子に恥ずかしながら話し掛けたり友人と好きな漫画やゲームの話をしたり部活で汗を流したりと極々平凡な青春を謳歌していた。
毎日が楽しかった。
それを見る母と父は何処か嬉しそうだった。
風呂で体を洗い流す。
背中を擦ると伝わる謎のヒリヒリ感。
これも中々良しだ。
浴槽に浸かる。
いつもの様に背中がヒリヒリとする。
浴槽から上がり着替えてアイスを頬張った。
風呂上がりの牛乳バーは欠かせない物だ。
今日も一日を楽しんだ。
ベッドで横になり就寝に着いた。
早朝。
布団を剥がされ朝を伝える母。
俺は渋々起き上がり朝食を食べた。
今日はいつもの様にジャムを塗り込んだパン。
そして紅茶。
制服に着替えて友人の家に行った。
道中、見知らぬ女の人が声を掛けてきた。
その女の人は俺と同い年に感じた。
帽子を深く被っていたので顔はよく見えなかった。
その女の人は俺にこう言った。
”道に迷っています。
当面帰ってきていなかったので。
第三霊園の場所をご存知ですか?”
俺は第三霊園の場所を教えた。
するとその女の人は感謝の印にと薔薇を五本、俺に渡した。
俺が遠慮し、お墓に行くんでしたらお供えしてあげて下さいとそう言うと女の人は鞄から何かを取り出し俺に見せ付けた。
それはネリネと言うとても綺麗な花。
女の人はこれがありますからどうぞ気兼ねなくと言って去っていた。
去る直前に俺が鞄に付けている花の紋様があるキーホルダーを見てクスッと笑いお揃いと言った。
確かに翌々見てみれば似ている。
それにしてもこのキーホルダー、今にして思えばいつ買ったっけか?
まあ良い。
綺麗な物には変わりないし。
それにしてもあの人が間近に居ると何故だか胸がザワつく。
形容のしようがない程に。
俺は一度家に帰って薔薇を部屋に置いた。
母が不思議そうにしていたが時間が無い故に気にせず友人の家まで突っ走った。
友人の家のインターフォンを鳴らすと慌ただしく鳴り響く階段を下りる音が聞こえガバッと扉が開かれた。
すると友人は俺を見て掴みかかってこう言った。
今何時かと。
俺が7時40分と伝えるとあのババア!と怒鳴り散らし家に入って行った。
あれから5分程経過した時息を切らしながら友人が家から出てきた。
こいつは運動神経が良い所為か遅刻し掛けてもそれを必ず挽回し今の所遅刻回数脅威の0回であった。
どうやら昨日母親と喧嘩をしていたらしく起こして貰えなかったのはその腹癒せらしい。
教室は騒然としていたが俺が入ると何故か静まり返った。
俺はいつから嫌われたんだ…
席に着いて教科書やらを机に閉まった。
ふと、とあるぽっちゃり気味の女子生徒が俺に声を掛けた。
今日特に変わった異変はないかと。
俺は何故そんな事を聞くのか分からなかった。
故、何も無いと小首を傾げながらそう言うと安堵し席に戻った。
あれから四時限目まで終わり昼食の時間。
俺はいつも通り友人五人とで食堂に行く。
いつも頼む生姜焼き定食を頼んで団欒する。
今日迎えに行った友人、安田以外は皆どこか俺を不安の眼差しで見ていた。
俺が何だよさっきからと聞くと一人、松重と言う友人が言いにくそうにこう言った。
あ、あの野郎を見たってう、噂になってんだよ。
俺は小首を傾げてあの野郎?誰の事だと聞くとそいつは黙りとした。
その話を聞いた安田は飲んでいた水を驚きのあまり吹き出していた。
俺は何だか急に怖くなってきた。
何でこいつらがこんなに俺を心配そうに見るんだよ。
そもそも朝に異変がなかったかと聞かれる。
それ自体がもうおかしいじゃないか。
俺は何が何だか分からなくなり無我夢中で友人に問い続けた。
だが答えてはくれなかった。
何なんだよ…
そうだ…朝に話しかけて来た女。
あいつか?
俺は友人達に朝の事を話した。
すると皆一様に唖然としていた。
どんな顔だったかを聞かれた。
覚えていない否顔は見ていない。
小柄か大柄か。
見た感じは小柄。
俺は聞かれる問に答えていくと友人達はなら違うかとそう言った。
だが何処かわざとらしい。
安田が今日みんなで一緒に俺の家に遊びに行こうと提案をした。
皆はナイス提案とはしゃいでいた。
俺は疑心暗鬼ながらも提案を呑んだ。
あれから放課後。
五人で俺の家まで向かった。
家に着くと母が少し驚いていた。
それもその筈。
四人一斉に来たのは初めてだからだ。
あれから部屋へ行き皆が薔薇を見ると本当だったのかと小言で呟いていた。
聞こえていないとでも思っているのか?
やっぱり何か隠してやがる。
こっちは気が気じゃない。
素直に答えて欲しい物だ。
あれから俺の部屋でゲームをした。
楽しい時間はあっという間に過ぎるとは正にこの事。
気付いたら外はすっかり暗くなっていた。
あいつらはあれから帰って俺は今日を終えた。
翌朝、俺はいつもの様に朝食を食べ終え学校に行く為に外へ出る。
すると近くには三人の友人が来ていた。
皆がうつ伏せになり体が震えていた。
どうやら松重が行方を晦ましているらしい。
俺はそれを聞くと咄嗟に安田の胸倉を掴んでこう言った。
”お前らは何を隠してんだよ!
松重の行方が見つからないのは俺の所為なんだろ!?
お前らのビビり様を見たら分かんだよ!
正直に言え今何が起きてんだよ!?
松重は大丈夫なのか!?”
安田は涙ぐみながらこう言った。
”言ってもお前の為になんねぇ…親友の俺様がお前を守ってやるからよ…お前は気にすんな。松重は元々家を出たがってたんだよ…それをあいつは実現しただけだ。”
俺が反論しようとすると安田は目で必死に訴えた。
お前には伝えられないと。
俺は何が何だか分からない。
混乱せざるを得ない。
安田は俺の家に入った。
そして暫くした後、俺は母に呼ばれた。
今日は学校に行くなと。
俺は意味が分からなかった。
なんで皆そんなに必死なんだよ!?
母は家から一歩も出るなと縛りを掛けた。
そんな事言われたら素直にうんと言える訳がないだろ。
俺は二階から外へ飛び出た。
足に走る激痛。
だがそんな痛み等気にせず跛を引きながらも第三霊園を目指す。
あそこにあの人が居る。
俺は何故かそれが分かった。
第三霊園に着くとそこには髪を靡かせ風を浴びる女の人が居た。
間違いない。
昨日の人だ。
女の人は俺に気付いたのかこちらを見て微笑む。
そしてこう言った。
”お久しぶりです。”
俺は女の人に一歩一歩と近付く。
それは正に吸い込まれる様に。
俺はその女の人に聞いた。
”貴方は何なんですか?”
すると彼女はこう答えた。
”また会える日を楽しみにしていました。
貴方と出会えて本当に良かった。
レンチン!私はずっと貴方を奪還する日を待ち侘びていました!”
彼女はそう言って俺を抱き締めた。
それはそれは力強く。
俺は刹那、全ての記憶を思い出した。
俺は好きな幼馴染の女の子が居た。
その子はとても明るく俺をずっとレンチンと呼んでいた。
案外気に入っていたのだこのあだ名を。
俺達は齢13の時付き合った。
俺から告白したのだ。
彼女は頬を赤らめ嬉しそうにうんと頷いた。
付き合った初日彼女は女の連絡先を全て消せと脅迫をした。
俺はこう見えても友達は多い方だ。
だから消したくは無かった。
それを伝えると彼女は渋々了解した。
あれから15の歳。
彼女は病んでいた。
俺がお前の助けになってやるそう言うと彼女は俺を家に呼び出した。
俺が家に行き彼女に部屋に入ると彼女は豹変したのだ。
俺を押さえ付けて服を脱がし紐で体を拘束した。
画鋲を取り出し一個一個を俺に刺して行った。
恨みをぶつけながら。
貴方が私だけを見ないからと何度も何度も刺して行った。
俺の絶叫に聞きつけた彼女の両親が部屋に入ってきた。
俺は安堵した事を後悔した。
彼女の父と母は俺の絶叫に愉悦に浸かっていた。
背中を包丁で軽く切り鞭で何度も背を叩かれた。
そして薬缶に満杯に入った熱湯を背中にじっくりと流し込んだ。
あまりの痛みに俺は声にならない叫びを上げた。
怖い。
痛い。
もう嫌だっ!
背中には感覚が無かった。
彼女は縛りを解いて俺にこう言った。
すっきりした!ありがとう!と。
俺は怖くなり逃げようとすると彼女の両親に捕まってしまった。
俺はあれから毎日毎日彼女の玩具にされたのだ。
背中には傷跡で由奈と掘られていた。
私の唯一無二の恋人として。
あれから三日後俺は一度帰された。
もし両親に言ったら家を燃やすと脅されて。
俺が家に帰ると両親は俺を抱き締めた。
あれから母親に何があったのか聞かれるも沈黙。
警察に事情聴取をされるも沈黙を貫いた。
そしてあれから二日後、俺は彼女に呼ばれた。
俺は警察に付けられているのを察知して何とか監視を振りほどいた。
彼女の家に入り今日も痛ぶられる。
嫌でも行かなくてはならない地獄。
ふと逃げてー!と彼女の両親の声が聞こえたすると扉が開き彼女の部屋に入ってきたのだ。
俺は無事に保護された。
どうやら追手からは逃げれていたらしい。
だが一人の少女が訴えたらしい。
それは南と言うぽっちゃりとした女の子。
どうやら警察が学校側に伝えていたそうだ。
生徒には伝わってはいなかったが彼女が先生の娘であった為に彼女にだけは伝わっていたそうだ。
彼女は少年院に送られ彼女の両親は殺人の罪によって死刑判決が下された。
彼女の両親は刑が決まって6ヶ月後に死刑が執行された。
あまりの残虐性故に死刑判決が出る猶予も短かったそうだ。
彼女は捕まる直前に俺にあるキーホルダーを渡した。
それは花が描かれたキーホルダー。
それはメッセージだと告げて。
そうか。
確かにそんな記憶もあった。
俺は抱き締められるのを押し解いた。
すると彼女の顔は豹変し獣の様に襲い掛かった。
首を掴み押し倒された。
息が出来ない…
力が強すぎて振りほどく事が出来ない。
俺は気を失った。
目が覚めるとそこには縛り付けられる、安田、平川、藤川、俺の幼馴染であり親友達だ。
酷く痛み付けられていた。
安田らは手を鎖で拘束され宙ぶらりん状態であった。
俺の膝には何か違和感があった。
そっと下を見るとそこには松重の首が置かれ俺と松重の目が合った。
俺は恐怖のあまり暴れた。
首がボトッと落ちて転がる。
”松重君が可哀想だよ!レンチン!”
俺は彼女を見た途端恐怖よりも怒りが勝った。
”ふざけんじゃねぇよ!あいつらを解放しろ!殺すのは俺だけにしろ!関係ねぇだろうがあいつらは!”
すると彼女はノンノンと言って藤川に近付いた。
手には鋸を持っていた。
”な、何するつもりだ!由奈!”
彼女は天高らかに笑ってこう言った。
”貴方の馬鹿さはまるっきり変わってないのね!私がやってるのはお仕置よ。だから貴方を苦しめる行為をやってんのよ!”
彼女はそう言って藤川の腹を鋸でじっくりと切り裂いて行った。
藤川は血の涙を流し声にならない叫びを上げた。
”やめろぉぉお!やめろ…俺が悪かったから…!”
ボトボトと落ちる藤川の中身。
あまりの光景に俺は吐き出した。
それを見ていた平川は恐怖で泣き叫んでいた。
彼女は次に鉄の棒を持ってきた。
”ではでは平川君の鉄棒丸呑みチャレンジィ!ご照覧あれい!”
俺は辞めろと必死に訴えた。
だが彼女はそれを聞いて楽しんでいた。
平川は必死に抵抗をするが適わなかった。
平川に突っ込まれる鉄の棒。
次第にズボンがふっくらと股下から棒が突き出た。
平川は息が出来ない苦しみと痛みに悶え絶命した。
彼女はチェーンソーを持ってきた。
”お次はラスト!安田君の四肢解体ショー!パチパチ!”
俺は解こうと必死に暴れるが解けない。
彼女は安田の腕にチェーンソーを当て切り落とした。
安田が何故か笑った気がした。
それは勝ちを確信した様な。
安田は両腕が落とされ地面に落ちた。
”次は足ィ!”
安田は足だけで飛び起き由奈の頭に蹴りを入れた。
由奈は遠くに飛び安田は飛んだ由奈に飛び掛り首に噛み付いた。
彼女は必死に抵抗するが適わず首の肉を剥ぎ取られ脈に届いた故に血が大量に溢れ出た。
”ぐわぁぁぁあ!ふざけんじゃねぇぞこのクソ虫がぁぁあ!”
由奈はポケットに隠していたナイフで安田の首に突き刺した。
安田は絶命し彼女は脈を抑えながら俺に近付く。
そして俺の後ろに回ってナイフを首元に突き付けた。
”一緒に…行こ…”
俺は一秒と満たぬ間にこう言った。
”断る…!”
俺は後頭部を由奈の顔にぶつけた。
彼女は流血故に気を失った。
俺は体重を掛けて椅子を倒しナイフを探した。
見つけた…!
俺はナイフで両手の拘束を解き足の拘束も解いた。
俺は逃げ出した。
この現場から。
そしてあの悲劇から数十年の時が経過した。
俺はホームレスとなった。
だが俺は不幸とは感じなかった。
何故なら守るべき者が出来たからだ。
俺には同じホームレスの彼女が出来たのだ。
今日もその子とベンチで話す。
”今日も月が綺麗だね。レンチン。”
え…?
”え…?”
え…?
”レ〜ンチン!”
俺はあれから縄を掛けられてクソみたいな人生を終えた。
<[完]>
最後までお読み下さり感謝のしようもありません…
伏線も回収出来たので満足です(`・ω・´)フンッ
暗めの話しか描いていないので明るめの作品も描いてみましょうかね…
もしダメな部分や良いと思える部分が御座いましたらご指摘下さい!
次に活かしてみます!