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4-1 たびたびの実験失敗による始まり  (4 帝国争乱)

 大凶山駅の南に隣接するキャンパス。それは「国立医科工科大学」と言って、東瀛でも最古の大学だった。その一角の古い研究棟の一角に、「超次元対称性研究所」があった。ここは、チャウラ結社が収支をし続けて、ある研究をさせているところだった。確かに名前だけは非常に先進的なのだが、天井や壁にはいたるところに黒焦げや穴が開いている。風通しがよく、冬は冷房、夏は暖房のよく効いた処で、マッドサイエンティストと二人が主なメンバーだった。彼らは、20世紀後半から数十年のあいだ怪しげな実験を繰り返しては、失敗を繰り返している迷惑な機関だった。

 毎度のことだが、この日もわけのわからない理論物理学をどこかから引っ張り出して加速器実験を開始しようとしていた。

「みなさん、準備が整った。これから新しい無電荷虚像粒子の実験を開始する。様々な条件を設定していくから、みんなはそれぞれの担当位置で監視測定をしていてくれよ」


 実験が始まった。強い電磁界遮蔽に包まれた加速装置は、コア部分で加速が行われていることなど、少しも感じられなかった。実験は静かに順を追って進められていた。一回目、条件を変えて二回目、さらに三回目、四回目......。データは確実に積みあがっていった。

 実験には長い時間を要した。それが毎回のことだが、不幸な前兆だった。そして、突然に、加速装置のコアの外へ粒子が飛び出していった。

「先生、またおかしな現象です」

 ある地点で観察をしていたひとりが、本部の教授に連絡をしてきた。責任者である教授は、いつものことながら、すぐに反応していた。

「どうした?」

「この部分での数値が、他の箇所とは異なった挙動を示しています」

「今行く!」

 不幸なことに、原因不明の外部との共鳴現象が起きて、加速器が暴走しはじめていた。

「こ、これは...」

 教授が横にいた助教の顔を見た。

「粒子が此処から外へ、しかも距離を置いた遠くに飛び出して行っているぞ」

「先生、今回はどこへ飛び出しているんでしょう」

「この接線の延長上だ...。東へ? 助教、どこに飛躍したか、調べてくれないか」

「はい」

 加速器は、その直後、不意に停止した。関係者は、周囲、特に飛躍したと思われる場所の環境に変化がないかを調べた。

「どうやら、荏原学園の跡あたりですね」

「それは不幸中の幸いだ。毎回あそこに何らかの現象を被記憶してしまっているが、あそこは無人だ。一応、確認しに行った方がいいな」

「では、急いで荏原学園へ行ってみましょう」

 実験を中止した学者たちは休憩となり、責任者である教授と助教は急いで荏原学園へと急いで出かけて行った。

______________________________________


「先生、この学園は今日も無人ですね」

「ああ。郵便ポストには郵便物や新聞が突っ込まれて古くなっている。配送物も山積みにのままだ。明かりも灯されていない......。留守になってずいぶん経つなあ」

「先生、此処から校庭の向こうに見える講義棟......高等学校だから校舎かな、今回の穴はあの壁に開いています」

「確かに、前と同じように 丸くくりぬいたような穴だな......中に入れないのか?」

「ええ、ここは関係者がいないんです。どこにも連絡がつかないんです......」

 彼らは警官立会いの下に、学園の中に入って行った。

「教授、またですか? まあ、穴が開いているということですから、器物損壊の確認をしますけど......」

 同行した警察官は文句を言いながらも、同行してくれた。、学園内はこのしばらく無人のまま放置されたままだった。彼らが穴の開いた校舎の中に入り込んで、教室の中を見渡したが、そこにも何もなかった。


「この部分は、誰かがいた痕跡がありますね......」

 助教は不思議そうに学園を見渡した。教授もまた狐につままれたように呆然としていた。

「そうだな。そう言えば、いくつかの大学キャンパスの方でも、また学生たちがいなくなったと言って騒ぎになっていたなあ」

 彼らは、それらの意味することをいまだ理解することなく、ふたたび学園を後にして帰っていった。

______________________________________


 周囲に目の前にあったはずの無人の教室の風景......。無人の教室で、先ほどまでジミー、理亜、玲華の三人はそれぞれがそれぞれの課題をこなしていた最中だった。だが、突然の未経験の揺らぎの中に三人が取り込まれたとき、理亜が悲鳴を上げ、それと同時にジミーの脳が覚醒しつつ、彼らは転移空間の中に姿を消した。


 気付くと、三人はすわらされ金縛りとなっていた。その三人の目の前に広がっていたのは、見下ろす谷あいの平原と、その平原の山際遠くを進軍していく軍勢の姿と、その谷に向けて展開する準備を整えた目の前の軍勢の姿だった。そして、三人に聞こえたのは、見知らぬ男の太いだみ声だった。

「驚かせてすまんね。私の研究している時間軸転移魔法は、またうまくいったようだな。そうそう、あんたたちはジミーとかいう少年と連れの娘たちだね? ジミー、あんたは破戒僧だと聞いたが、なにをおどおどしているんだね? そうか、女を見ておどおどしているのか。そんなおまえたちに此処に来てもらって気の毒だなあ......そんなおまえたちに名乗っても仕方のないことなのだが、私はこの時空(ノード)における魔國の皇帝ラーメック666世の第一皇子ドバールである」

 ジミーたちは状況を飲み込めていなかった。このような時は情報を集めながら考察し続ける必要があった。

(時間軸転移? 魔國? 皇帝ラーメック? その第一皇子ドバール? そうか。ここは異次元時空、それもこのずんぐりした男が第一皇子だ。 そして遠くに進軍していくのは、見覚えのある原時空人類じゃないか。前後には......見たことのある奴らがいる。ヤバルとユバルという名前の男女だったかな? あいつら、また原時空人類を捕獲したのか)

 ジミーがこう分析していると、ドバールが話を続けた。

「さて、眼下の谷あいの平原の向こうに、誘拐をしてきた奴らがいる。これから我々帝国正規軍は、誘拐犯たちを奇襲するのだよ。あの列には、あんたたちの友人たちがいるのだろう? その前後にいるのが、彼らを捕獲して犯人たちだ。あんたたちの敵であり、我々にとっての裏切り者ヤバルとユバル達だ。今から、我々は彼らを奇襲するのだよ」

 その声の主は、三人を睥睨しながら振り返って見せた。彼はその身にスキンスーツと鎖帷子、防具や装具を身に着け、その手には、魔剣とガンソード、腰には魔術大剣マズルカを有していた。ジミーたちから見ると、見慣れない姿だった。だが、眼下の軍勢が全てこの男を見上げている姿からみて、この男がこれから何らかの指令を出すところであることは、分かった。

(ドバールにとって、ヤバルとユバルは敵なのか? ヤバルは確か魔國の捕獲部隊指令だったはずだ。ドバールは皇帝の第一皇子と言った。つまり、目の前の軍は、おそらくマゴクの帝国正規軍のはずだ。ということは、これから行われる戦いは内輪もめ、もしくは、どちらかが裏切り者ということになる......)

 こう分析したところで、目の前の第一皇子ドバールは、手を挙げた。おそらくは全軍突撃を指令しようとしていたに違いなかった。

 眼下には、谷あいいっぱいに帝国正規軍が展開していた。彼らは、魔道具、魔装具を大規模に装備した魔装兵団を動員し、奇襲陣形をとって突撃しはじめていた。魔装兵団の装備は、三人が今まで見て来た帝国捕獲部隊の装備していた魔道具とは形態が異なり、非常に禍々(まがまが)しいものに見えた。また、それらを身に着けている混成兵士たちは、原時空人類ではあっても傲慢さもしくは貪欲さを帯びた男たち、そして戦いに飢えたエルフ族の男女たちだった。原時空人類は、明らかにジミーを襲ったことのある房総族、そしてハングレの男たちだった。

 ドバールの指示とともに鬨の声が上がった。帝国正規軍が、敵の横腹めがけて突撃を開始した。


「九時方向より、敵襲!」

「敵襲だと?」

 ヤバルは監視部隊の報告に動揺した。ユバルも押し寄せてくる軍勢を見て驚いていた。

「完全に奇襲だ。しかも、背後のあの姿は長兄ドバール。彼らは帝国正規軍の制服を身に着けている。私たちに気づかれずにあらかじめ布陣していたなんて......あ、しかもあれは原時空人類を兵士に仕立て上げている。しかも彼らは、我々が捕獲した原時空人類じゃないか。横取したのか?」

 ユバルはこれらを見て取った後、動揺を隠せなかった。


 ユバルは動揺と戸惑いと怒りを同時に覚えた。すぐに、遠隔伝声魔法でドバールに呼びかけていた。

「兄上、またなぜ、我らを攻め立てるのですか?」

「ヤバル、ユバルよ。あんたたちはいつも僕に隠し事をしているね」

「隠し事?」

「あんた達は、原時空人類の家畜どもを溜め込んでいたね」

「ドバール兄さん、この原時空人類は、皇帝直轄の捕獲部隊による保護対象だよ。父上、皇帝陛下は了承なさっている」

「では、なぜ僕に報告しない? 僕は第一皇子だぞ。その僕に、隠し通せると思っていたのか。これは非常に重い裏切りだよ。しかも、今回も捕獲した家畜どもを運び込むのかい。」

「これはドバール兄さんには関係がないことだよ」

「関係がない? そんなことはないぞ。僕は帝国正規軍の総帥だぞ」

「それでも兄さんにも帝国正規軍にも関係がないことだ」

「ユバル、あくまでそう言い通して、僕に従わないのかい? そうかい。でも、今では、僕は君たちより圧倒的な力を持っているんだぜ。その一端を見せてあげよう。あの家畜を奪ってみせるよ」

 ドバールは、そのようなユバル達の動揺に楽しむように、攻撃態勢を紡錘陣形から横陣形となるように指令を出した。すると、帝国正規軍を構成する混成兵士たちが一気にヤバルの部隊の横腹を襲った。ヤバルの部隊は、戦列がいっぱいに伸びており、完全に奇襲の餌食だった。


 ドバールは戦況を見下ろしながら、ジミーたちに振り返った。

「ジミー、あんたたちの仲間たちを、今、奴らから取り上げてやるぜ。そうだ、あの家畜どもな」

 ジミーはほぼ状況を把握しつつあった。目の前の戦いは、第一皇子と第二皇子第一皇女との間の戦い、内輪もめにすぎなかった。彼らは両軍ともジミーたちの敵に違いなかった。しかも、彼らは捕獲した原時空人類の仲間たちを『家畜』と呼んだ。ジミーは、特にドバールが「家畜」と呼んだことによって、心に渦き始めているものを感じた。

「彼らは、家畜じゃないぞ。僕たちと同じ原時空の人間たちじゃないか。しかも、あんたたちの軍で原時空人類を使役しているのか。これは、いったいどういうことか?」

 ジミーはもう一度、捕獲され連行されていく仲間たち、そして正規軍として突撃していく原時空人類たちを見つめた。捕獲された者たちは大部分が若い男女の原時空人類たち、その中には理亜と玲華のような女子生徒たちまで居た。正規軍に加わっている原時空人類たちは、房総族とハングレたちだった。

 玲華と理亜もそれを悟って抗議の大声を上げた。

「なんで、私たちの仲間が『家畜』なのよ? それに、平気で正規軍に使いまわすなんて......」

「彼らを『家畜』と呼びながら、私たちの味方面みかたづらをしているのかしら? 図々しい」

味方面みかたづら? 助けてやろうと言ってやっているのが分からないのか。お前たちも、あの家畜の奴らも、正規軍の奴らも、皆、私のものだ。お前たち、逆らうことは許さん」

 ドバールはそう言うと、理亜と玲華、そしてジミーを再び縛り上げた。

「ジミー、お前は破戒僧候補だと聞いているが、本当は違うんだろう? 本当だとすれば、何と無力な破戒僧だろうな。そうだ、余はユバル達に教えてもらったから、知っておるぞ。お前はこんな女たちの裸身を見て卒倒してしまう意気地なしだろうが? ほれ!」

 ドバールは、ジミーの目の前で理亜と玲華の衣服を剥ぎ取った。理亜と玲華は悲鳴を上げ、ジミーは苦悶の表情を浮かべた。この時、ジミーの脳の片隅の活性化が最大化された。

「うう!」

 彼はそう言うと、気が遠くなり体が凍り付きながらも、活性化していた脳の片隅だけは、ジミーたちを此処まで転移させた転移軸魔法の物理現象を、すでに獲得していた細部制御能力によって、まるで指先でより分けて見定めるように解析し始めていた。ただし、解析には時間がかかりそうだった。


 ドバールの正規軍が襲った先では、ユバルとヤバルたちと部隊が懸命に応戦していた。ヤバルは、魔槍ゲイボルグと魔槍グングニルの二つを駆使している応戦しているユバルに叫んだ。

「これはドバール兄さんの裏切り、というより、兄さんによる横取りなんだろうね」

「そんなあ」

 ユバルは怒りを覚えた。横取り目前の原時空人類たちとヤバルの部隊とは、すでに山際まで追いやられつつあった。ドバール率いる正規軍は圧倒的な物量にものを言わせて、完全に包囲しつつあった。

「ヤバル兄さん、少し、私に詠唱する時間をくれないかな」

 ユバルはドバールの旗を睨むと、今まで聞いたことの無い詠唱を始めた。すると、結界がヤバルたちの部隊を守るように包囲した。ヤバルたちの部隊が結界内に逃げ込むと、今度は結界の外側で谷いっぱいに広がっていた正規軍が、一気に壊滅した。谷には、阿鼻叫喚の声さえ聞こえなかった。文字通り、兵士や魔装の全てを塵、いやヘクサマテリアルに変えてしまっていた。


 指揮所にいたドバールと側近、そして凍り付いたままのジミーを抱えて座り込んでいた理亜と玲華は、目の前に起きた巨大災害のような一撃に、呆然としていた。

「これは、ユバルの魔法か!? 用心深く対抗結界を構築していたのに...あいつらの大魔法にやられてしまうのか......」

 ドバールの下に、遠隔通信魔法が届いた。ユバルの魔法だった。

「ドバール兄さん、連れてきた正規軍の兵士たちは、全て原時空人類たちを使ったんだね。だから容赦なく蒸発させたよ。さて......まだやるかな?」

「ユバル、これはお前の魔法か?」

「ああ、在ることを機会に、さらに力を得たんだよ」

「ユバル、お前...どうやってあの結界を破ったのだ?」

「そう、私に与えられた力だよ、ドバール兄さん」

「おのれ」

 ドバールは驚愕と恐怖ゆえに、声が震えていた。

「さあ、ドバール兄さん、降伏するなら今のうちだよ」

「おのれ!」

 ドバールたちは、ジミー、理亜と玲華をほおりだしたまま、逃げてしまった。ヤバルたちは捕獲した原時空人類の位相を再開させ、谷から去っていった。谷には、気を失ったジミーと彼を抱えた理亜と玲華だけが残った。

 

 しばらくたって、ようやくジミーの脳が時間軸転移魔法の物理現象を解析し、再度その構成を分析し終えたところだった。ジミーは目を覚ました。だが、先ほどまでジミーを抱えていた理亜と玲華は、傍にいなかった。彼女たちは、ドバールたちによって破り捨てられた服の代わりを求めて、おざなりの短いシーツをまといながら戦場へ出て行ったところだった。

「なにをさがしているの?」 

 ジミーは、離れたところで四つ這いになって探し物をしているらしい理亜と玲華を見つけ、そう声をかけた。その時になって、這いつくばっている彼女たちが、彼に尻を向けていたことに気づいた。彼が目をそむけた時、彼女たちは気づいて振り向き、いつの間にか露出していた局部を隠しながらすぐに立ち上がっていた。

「え、ジミー君、目を覚ましたの?」

「またあ? なんでこのタイミングで目を覚ますのよ!」

 いやだったのは、ジミーだった。この時、再び彼女たちの裸身を正面から見たために、彼は失神した。しかも、這いつくばっている彼女たちの局部を目にした時、その箇所が、彼にとっては御禁制の絶対領域内側であったこともあって、彼が目を覚ますにはさらに時間を要したのだった。


 その後、理亜と玲華は、今までの経験もあり、なんとか寄せ集めの草の葉や弦で自分たちの身体を最低限覆うことができた。意を決してジミーを起こした。

「ジミー、そろそろ起きられるでしょ?」

「あ、ああ、よく寝た」

 そう言いながら、ジミーは目を覚まし、用心深く周囲をうかがった。やはり、彼の予想通り、二人の従姉妹はまだ不十分な装いのままだった。彼は目を伏せながら、声を出した。

「理亜ちゃん、玲華ちゃん......」

「エッチ!」

「ぼ、僕は見てないよ」

「エッチ!!」

「少しだけ見えた......」

「エッチ!!!」

 理亜と玲華の非難の声に、ジミーはもう反論する力を失った。それでもしばらくして、二人の娘が静かになったのを見計らって、話をつづけた。 

「あのう、正規軍に加わっていた原時空人類たちはは、皆殺しにされたようだね。房総族とハングレたちだったが......。さあ、もう帰ろうよ。...ねえ、元のところへ帰ろうよ」

 ほどなく、ジミーはドバールの魔法現象から算出した得た時空湾曲、時空振動を基に改編数学によって時空転移制御方法を発動した。これによって、三人は原時空へと転移していった。

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