ホログラムの代償
「へぇーコンピュータグラフィックスもここまできたのか」
腕を組んで感心する僕が見上げるのは、アメリカ、ニューヨークにある自由の女神だが、それが立っているのは東京スカイツリーの足元の広場だ。その自由の女神は、まだ質感には若干のノッペリ感があるものの、その大きさや「そこにいる」という威圧感は本物に限りなく近いだろう。これがCGで作られたホログラム映像だとわかるのは、三十分おきに違うものへ映像が変化するからだ。
あと数分で違う映像に変化するとあって、広場では多くの人がスカイツリーを背に虚像を見上げていて、まるで何かの風刺画のようで滑稽に思う。
時間がくると、広場に古いテレビゲームのようなピコピコとしたチープなチャイムが鳴り響き、自由の女神が一瞬強く光ったかと思うと頭の方から、それこそ古いドット絵のように自由の女神を象った小さなブロックの集合体へと変化していき、派手に音を立てて崩れてゆく映像が流れた。全てのブロックが落下した時、一瞬ホログラムを投影している機械が中心に置いてあるのが見えたが、全体的に黒く、大きさは直径二メートルほど、厚みは一メートルもないくらいの円盤状で、素人には大きなコマにしか見えないようなものでますます興味をそそられる。
すかさず今度は足元から小さなブロックが積み上がってゆき、奈良の大仏に変化した。その姿に広場に集まった人々は「おぉ」と歓声をあげ、カメラのシャッターを切る音があちらこちらから聞こえる。
確かにこれは見事だ。きっと観光以外にも応用できるだろう。これからが楽しみだ。
しかし、そのホログラムの展示はわずか四日で終了してしまった。どうやらホログラムを投影する際の光が強すぎて、気がつかないうちにスカイツリー展望台の一部の窓ガラス、そして周辺のビルも知らず知らずのうちに焼いていたことがわかった。実に小さな変化だが、展望台の窓が少し歪んでいるのを清掃員が発見したそうだ。その真下にはちょうどホログラムの展示があり、そのことを報告しに事務所に来た清掃員のズボンのお尻のところは少し焦げていたそうだ。