第十二話
アール君を抱えて家に飛んで帰って、家にいたパパとママに原っぱでの出来事を話した。
ママは私とアール君をみて困った顔をすると。
「エルバ……あなた、この猫ちゃんと血の契約をしたようね……これは、そうとう旧式の術式契約だから……いま、この魔法都市で解ける者はいないわ」
「えっ?」
(旧式の術式?)
「これは、これは。エルバ様のママ様はみただけで旧式とわかるとは……さすがです。僕が使用する魔法はどれも旧式なので、カンタンに解除できません。ですから、エルバ様あきらめてください」
そんな誰も解除できない旧式の術式で、血の契約だなんて……
「アール君はそれでいいの? 私のことなにも知らないのに……」
そう言った私に。
アール君は。
「いいですよ。それに僕が側にいるとエルバ様は"なにかと"便利だと思いますよ。この前のように"麻痺草"を食べてしまったときとか」
(この前の麻痺草?)
「え、あのピリトリ草をくれたのは、アール君だったの?」
「はい、あの日、原っぱを散歩していたら倒れている子供を見つけて確認しましたら、どうやら痺れ草を食べたようなので急いで採ってきました。あのピリトリ草は魔族の森のなかに生えている草で、この都市の人達では採りに行けませんし」
「ま、魔族の森?」
魔法都市の東側――魔族が住むといわれる森。
その奥には魔王がおさめる、魔族たちの国があるといわれている。あのピリトリ草はエルバの畑にタネを植えたから、魔族の森まで採りにいかなくてもいいのだけど。
魔族の森にはこの都市に生息しない、珍しい植物が生えているのか――すごく気になる。
「ねえ、アール君。その魔族の森にはどんな草が生えているの?
「魔族の森に、ですか? えーっと、猛毒の草、人食い草、あとは…………」
二人で話していると、ママがアール君をヒョイッと持ち上げた。
「はいはい、アール君その話はストップ。それ以上、エルバに話さなくていいわ……ところでエルバ、あなたエルブの原っぱで麻痺草を食べたの?」
「あっ!」
しまった。パパとママには内緒にしていたのに。
今、パパとママの前だった……ママなんて、アール君を抱っこしながら鬼の形相だ。
「えっ……? エルバ、そんな草、た、食べてないよ」
まったくの嘘である。
ママは頭を抱えて。
「"また"食べたのね。このまえは毒草を食べて紫色に染まったり、変な斑点つけて帰ってきたとき……ママ、エルバに言いましたよね。"危ない薬草は食べないでね"と……また、知らずに食べたの? それも知っていて食べたのかしら?」
「うっ……」
ママに、私には博士がいるから……大丈夫だなんて言えない。
「ごめんなさい」
「いくら、毒と痺れが効きにくい体質かもしれませんが、その体質に慢心してはダメです。しばらくエルブの原っぱに行くのは禁止です!」
(ええ!)
「ママ、もう食べないから許して、ごめんなさい」
「こんどばかりは許しません。アール君、あなたは薬草について詳しそうだから。使い魔として、この子の監視もよろしくお願いしますね」
「かしこまりました、ママ様」
「ママ!」
「しっかり、エルバを見張るんだぞ、アール」
「はい、パパ様」
そう、この日。使い魔となったアール君は、私の監視役にもなったのだ。




