複雑な気持ち
リュウは夕飯を待っている間、ジンと話していた。ジョンは、しばらくの間ベルモンドの話をしていた。
ベルモンドは暴虐の限りを尽くした。今も町の民はそれを恐れている程だ。ベルモンドが生きているという事実を知った時も怖かったに違いない。
ルカは半分眠りに落ちながら、その話を聞いていた。ベルモンドとは家族であるはずだが、ルカはそう思った事はない。ベルモンドは暴虐だった。自分はそうではないと信じたかった。
だが、ルカはベルモンドを憎みながら、同じ事をしているのではないかと考える時がある。人間と吸血鬼と標的は違うが、ルカも多くの者を殺した一人ではないのだろうか。
そうだとしても、吸血鬼は恐ろしい存在だ。放置すれば数多くの人間が命を失ってしまう。吸血鬼狩りをするルカの存在を毛嫌う者も居るが、感謝する者も居た。ルカはそんな人々の為にも戦わなければならない。
しばらく経ってから、ルカ達の前に食事が用意された。パンとスープと肉のソテーだ。ここでは貴重であるはずの肉もルカ達の為に振る舞われた。
「ルカは吸血鬼の血肉を食べたって言ってただろ?それと人間の食事とどっちが美味しいのか?」
「人間が共食いすると拒絶反応が起こるとされているわ。それと同じように不味くて食べられたものじゃないけど、餓死するよりはまし。」
ルカは籠に盛られたパンを食べながら平然と答えた。常識からかけ離れたルカの感覚にリュウは戸惑う。ルカは自分と出会う前、どのような壮絶な体験をしていたのだろう。リュウには想像し難かった。
食事の後、ルカは椅子に座ってぼんやりと何かを考えていた。すると、
「ベルモンドは、お祖父さんの事は嫌いなのか?」
「嫌いだけど…、何処かで嫌いになりきれない自分も居る。」
それを聞いたリュウは何も返せなかった。ルカとベルモンドの関係は祖父と孫の二人という一言だけでは片付けられないのかもしれない。自分はこれ以上この話に入らない方が良いのかもしれない。リュウはそう考えると、ジョンの元へ向かった。
その日の晩、ルカは眠れなかった。吸血鬼狩りの舞台は夜だ。常に夜戦っている影響で、夜眠れなくなったのだ。このままでは、ベルモンドのように昼夜逆転してしまうかもしれない。
もし、そうだとしても、ベルモンドのような怪物にはならずに、人間としての形は留めたいと思いながらルカは生きていた。
「あいつの気配を感じる…。」
ベルモンドの気配を感じたルカは一人起き上がった。そして、支度を済ませると、外に出ていった。