届かぬ祈りと切望
リリアはルカに少しずつ歩み寄って来た。そして、ルカにこう言った。
「吸血鬼狩りの人ですか?お願いです、私を殺してくれませんか?」
ルカはその一言に驚いた。自ら死を望む吸血鬼も居るのかと耳を疑った。
「あなたがさっき喰おうとした人は仲間が助けたわ。」
「そうですか…」
リリアは安堵の表情を浮かべていた。自分が殺そうとした人が助かって安心する吸血鬼も居るのかとルカは思った。
リリアはルカを襲うつもりはないらしい。だが、念の為に縄で拘束する事にした。いくら意思があるからと言えど吸血鬼というものは血の飢えには抗えないものだ。リリアも、古城でユーリとルカを襲おうとした。ルカは、リリアを縛り上げると、ナイフを突きつけた。
「死ぬ前に教えて。あなたを吸血鬼にしたのは誰なの?」
リリアは自身の過去をルカに話したのだった。
人間だった頃のリリアは修道女だった。この山の麓にある町の教会で毎日祈りを捧げていた。
ところがある日、町が吸血鬼に襲われ、甚大な被害を受けた。
「貴族の姿をした男性の吸血鬼でした。仲間の修道女も襲われましたが、私だけ吸血鬼になりました。」
それを聞いてルカの表情が険しくなった。そして、ナイフを強く握り締めた。
実を言うとルカは、吸血鬼狩りをしながらある吸血鬼を追っていた。リリアを襲ったその吸血鬼が、ルカが探している存在と同じかもしれない、そう思ったのだ。
リリアはルカの首に着いているロザリオを見て悲しんでいた。 吸血鬼というものは神に背いた存在とされる。一説によると吸血鬼は十字架を嫌うとされる。それは神を信仰していた頃を思い出して後悔するからだ。
ルカ達はロザリオを常に身に着けているが、それが効かない吸血鬼も居る。人間の頃から信仰心が皆無だった者は、ロザリオを見ても改心はしない。ルカが追う存在もそうだった。
リリアは吸血鬼になる事を望んでいなかっただろう。
だが、そうだったしても吸血鬼として人を殺した罪は消えない。リリアが神に贖罪を求めたとしても、受け入られる事はない。吸血鬼になってしまった以上、誰も彼女を救ってはくれないだろう。
「死ぬ前に私からもお願いがあります。私のロザリオを麓の教会に返して欲しいのです。」
自分を殺そうとしている人に願いを託すのかとルカは思った。
そして、ルカはリリアの心臓にナイフを突き刺した。リリアは断末魔のような叫び声を上げると、祈るような姿で倒れていた。リリアがどれだけ祈ろうともそれは形だけだ。一度神に背いた怪物になった以上、リリアは死んでも神の元へは辿り着けないだろう。
朝日が山を照らした。リリアは燃えて灰になった。吸血鬼は自らの死に抗い、人の生を蝕む存在だ。ルカはその者達から人々を守る為に血を浴び続けている。
ルカは立ち上がってリリアの灰を掴んで袋に入れた。そして、近くに落ちていたロザリオを拾うと、ルカは仲間達が待つ古城に走って戻った。