月の海のルカ
それからというと、劇団桜町は『吸血鬼退治屋ルカの物語』の公演を続けていた。もちろん、それ以外の話もあるのだが、ルカの話が一番人気だった。学校の体育館の他、公民館のホールを借りて講演する事もあった。劇団桜町の名は知れ渡り、入団したいという人も現れた。飛鳥達は|新しい団員達に劇団の事を教えながら、自分達も成長しようと努力している。
飛鳥はニーナと文通を続けていた。手紙によると、ニーナも日本語の勉強をしているのだそうだ。今度は飛鳥と話せるように頑張っている。
飛鳥はいつかルカの故郷であるイギリスに行ってみたいと思っていた。その為にも飛鳥は英語の勉強を続けていた。
それから、飛鳥が小学六年生になってしばらく経ったある日の事だった。劇団桜町宛てに小包が届いた。
中を開けるとそこには、一冊の本と何枚もの写真が入っていた。それに飛鳥は驚く。
「ひょっとして、茂さんが送って来たんじゃないか?」
その本の表題には『Vampire stories』と書かれてあった。どうやら、以前言っていたルカの物語をまとめた本が完成したのだろうか。
ルカやベルモンドの物語自体は既に|現地で本にされていたが、飛鳥やレイラ家の声が入るのは今回が初めてだった。茂は、翻訳家の磯崎千束と共同で執筆したそうだ。ところが、表紙を見ても茂の名は無く、代わりに『闇深太郎』の名がある。それを見て瑞穂は驚いていた。
「茂さんって『闇深太郎』さんの事だったんだね。」
「闇さんの事知ってるの?」
「うん、怪奇小説を専門に書いている小説家なんだ。私も書いた本読んだ事あるよ。」
瑞穂は早速その本に手を伸ばした。
「この本を元にまた脚本を書いてみるよ。そして、またみんなで演じよう!」
「うん!」
瑞穂の提案に飛鳥達が断る訳がなかった。そして、新たな部員と共に『Vampire stories』を造ろうと決意するのだった。
飛鳥達は中学校になっても劇団桜町を続けるつもりだ。中学生になれば、部活動や勉強で忙しくなると思うが、そうだとしてもこの劇団桜町は続けたいのだ。
その理由は、自分達の更なる成長の為というのもあったが、ルカの物語を伝えたいという想いもあった。茂と千束の本が文字で歴史を伝えるものならば、飛鳥達の演劇は音と人の動きで歴史や人物の想いを伝えるものだ。飛鳥はルカの想いを伝えるべく日々努力している。飛鳥は、将来どんな人になってどの職業に就くかははっきりとは決めていないが、劇団桜町で過ごした日々が飛鳥の糧になっているのは確かだった。
吸血鬼退治屋のルカは今も飛鳥達劇団桜町の舞台の中で生きている。飛鳥はルカを演じながらそう思うのだった。




