彼女の物語
遂に幕が上がった。飛鳥達が演じる『吸血鬼退治屋ルカの物語』が開幕する。ルカ役は飛鳥だ。飛鳥はこの日の為に頑張ってきた。特にルカは主人公だ。台詞数も多く、舞台に出ている時間も長い。飛鳥は劇団桜町の団長だったが、ここまで舞台に出るのは初めてだった。飛鳥は自分が見た夢を伝える為に練習を続けていた。
ベルモンド役は優斗だ。ルカと対立する難しい役どころである。ルカに次いで出番も多い。優斗は、吸血鬼特有の威厳と不気味さを出す為に陰で研究していたそうだ。
他の団員はそれぞれ、瑞穂はリリアとミミ役。桃はリースとユーリとリン役。和人はリュウとジンと魔女狩りの役。弘樹はルークとジョンとジェイムズと神父役。利斗はルカの息子のケイン役。絵里香はルカの母親ルナ役だった。
部員が少ない事から、立場が全く異なる役をやらなければならないという難しさがあった。だが、自分の立場をしっかりと理解し、それを演じ切った時にはこれ以上ない達成感があった。
舞台は順調に進んだ。元々はかなり長い物語だったが、瑞穂の手によって一時間に凝縮されていた。それによって、飛鳥達は自分の役に集中出来た。
それから、桃が作曲と選出をした舞台音楽も好評だった。優斗達が造った大道具も、舞台によく合っていた。
そして、舞台が終わった時、飛鳥はこの一瞬だけルカになれたような気がした。夢に出て来たあの出来事に立ち合えたような感覚がある。
飛鳥達は拍手の雨を浴びていた。同年代の小学生の他、大人達も皆劇団桜町の公演を楽しんだようだった。幕は降り、客は帰っていく。
片付けを済ませた後だった。飛鳥達の前に一人の青年が現れ、飛鳥に向かって拍手をしていた。
「素晴らしい演劇だったよ、劇団桜町のみんな。」
「あなたは…?」
飛鳥は、てっきり帰りそびれた客なのかと思った。ところが、その青年は、飛鳥達が片付け終わるのをずっと待っていたらしい。
「私は渡辺茂、怪奇小説家だ。実は君達の活動を偶然耳にしてね、是非会って話がしたいと思ったんだ。」
「へぇ、まさか作家さんの目に留まったなんて、ありがとうございます!」
飛鳥は、茂の前に出て挨拶をした。
「初めまして、私は天野飛鳥、劇団桜町の団長をしています。」
「へぇ、君がこの劇団をまとめているんだね。」
茂は、まさか小学生達が自主的に劇団をしていたとは思っていなかったようで、驚いていた。
「私は闇深太郎という名で『死出山怪奇譚』という」本を書いているんだ。
「その話読んだ事あります!あなたが書いていらっしやったのですね!」
瑞穂はその本を知っていたのか目を輝かせていた。
「そうだ、飛鳥君に会いたいっていうお方がもう二人居るんだ。」
茂はそう言って奥からある人を呼んだ。飛鳥は、見ず知らずの人が、誰に会わせたいのだろうと不思議に思っていた。




